こんにちは。My Garden 編集部です。
サントリーフラワーズが誇る「フィオリーナ」は、あふれるような花数と圧倒的な成長力が魅力ですね。お店でポット苗を見かけると、ついつい手が伸びてしまう方も多いのではないでしょうか。でも、いざ自宅の庭に植えようと思ったとき、フィオリーナの地植えはどのくらいの間隔を空ければいいのかや、冬越しの水やりはどうするのかといった疑問や、土作りに関する不安を感じることもあるかも知れません。この記事では、鉢植えとは一味違う、地植えならではの育て方のポイントを詳しくご紹介します。
この記事のポイント
- フィオリーナのポテンシャルを引き出す最適な植え付け時期と場所
- 失敗しないための土壌改良と驚きの株間設定
- 春に満開のカーペットを作るための冬の管理テクニック
- 長く花を楽しむための追肥や切り戻しのコツ
フィオリーナの地植えで失敗しない準備
フィオリーナを地植えで成功させるためには、苗を植える前の「準備」が全体の8割を決めるといっても過言ではありません。この品種は、ただ地面に穴を掘って植えれば育つというものではなく、その遺伝的なポテンシャルを最大限に引き出すための「舞台作り」が必要不可欠です。いきなり地面に植えるのではなく、フィオリーナがのびのびと根を張れる環境を整えてあげることが、春に感動的な景色に出会うための近道です。ここでは、プロの生産者も実践しているような、科学的な根拠に基づいた準備のステップを、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
フィオリーナを植える最適な時期

フィオリーナを地植えにするなら、10月中旬から11月中旬までに植え付けるのがベストです。「春にお花が咲くから春に植える」と思われがちですが、実は年内の暖かい時期に植えることが非常に重要なんですね。これには明確な植物生理学的な理由があります。
なぜ「秋植え」が絶対条件なのか?
植物が新しい環境に馴染み、土の中に根を張り巡らせることを「活着(かっちゃく)」と呼びますが、この活着にはある程度の地温が必要です。具体的には、地温が15℃〜20℃前後ある時期に、約3週間かけてじっくりと根を伸ばさせる必要があります。10月から11月上旬は、人間にとっては少し肌寒く感じる季節ですが、土の中はまだ十分に温かく、根の成長には最高のコンディションなのです。この時期に植え付けることで、フィオリーナは冬が来る前に「地下のインフラ」を完成させることができます。
もし、本格的な霜が降りる12月以降に植え付けを行うとどうなるでしょうか。地温が低すぎるため根が活動できず、植えられた時のポットの形のままの状態で冬を迎えることになります。すると、冬の冷たい北風で地上部が乾燥しても、根から水を吸い上げることができず、そのまま枯れてしまう「冬枯れ」のリスクが急激に高まります。また、土中の水分が凍って膨張する際に根が切断されるダメージにも弱くなってしまいます。この「年内活着」こそが、地植え成功の第一歩です。
春の爆発的な成長のための「助走期間」
年内にしっかりと根を張らせておく最大のメリットは、春のスタートダッシュにあります。冬の間、地上部は寒さでじっとしているように見えますが、地下では秋に伸ばした根がエネルギー(炭水化物)を蓄え、春の準備を着々と進めています。そして3月になり気温が上昇した瞬間、蓄えられたエネルギーが一気に地上部へ送られ、信じられないスピードで成長を開始します。これを「ロケットスタート」と呼びます。
春になってから植えた苗は、まず根を張ることにエネルギーを使うため、このロケットスタートが切れません。結果として、株の大きさや花数に2倍以上の差がつくことも珍しくないのです。私自身も経験がありますが、秋植えした株と春植えした株では、満開時の迫力や花の密度が全く違います。「フィオリーナの地植えは、秋の植え付けで勝負が決まる」と覚えておいてください。
ここがポイント
遅くとも霜が降りる前には植え付けを完了させましょう。根が張っていない状態で凍結すると、枯れてしまうリスクが高まります。11月中に根付かせることで、耐寒性が飛躍的に向上します。
日当たりと水はけの良い場所選び
フィオリーナはお日様が大好きです。地植えをする場所は、冬の間でも1日に最低5時間以上、できれば7時間以上直射日光が当たる場所を選んでください。場所選びは、後から変更がきかない最も重要な決断の一つです。
光不足が招く「徒長」の恐怖

植物は光合成によってエネルギーを作り出しますが、フィオリーナのような陽生植物は、その要求量が非常に高いのが特徴です。日照時間が不足すると、植物は「もっと光を浴びなきゃ!」と生存本能で焦って、茎をひょろひょろと長く伸ばして光を探そうとします。これを「徒長(とちょう)」といいます。徒長した株は見た目が悪いだけでなく、細胞壁が薄く軟弱になるため、強い風で折れやすくなったり、病気にかかりやすくなったり、寒さで傷みやすくなったりします。また、花芽を作るためのエネルギー(炭水化物)が不足するため、花数が極端に減ってしまいます。
特に冬場は太陽の位置が低く、建物の影が長く伸びるため、夏場は日当たりが良い場所でも冬は真っ暗ということがよくあります。植え付け前に、冬の日当たり状況をしっかりシミュレーションすることが大切です。「午前中は日が当たるけれど午後は日陰」という場所ならまだ育ちますが、「一日中明るい日陰」ではフィオリーナの性能を発揮させることは難しいでしょう。
水はけの悪さは命取り
また、水はけ(排水性)も重要なポイントです。フィオリーナの根は呼吸活性が高く、たくさんの酸素を必要とします。雨が降った後にいつまでも水たまりができているような場所や、常に土がジメジメしている粘土質の場所では、土の中の気相(空気の通り道)が水で塞がれてしまい、酸素が欠乏します。その結果、根が窒息して腐ってしまう「根腐れ」を起こしやすくなります。これを防ぐためには、建物の北側や、雨水が流れ込んでくるような低い場所は避けたほうが無難です。
もしどうしても水はけの悪い場所に植えたい場合は、腐葉土やパーライトを多めに混ぜ込んで土壌改良するか、土を盛って地面を高くする「レイズドベッド」にするなどの工夫が必要です。簡単なチェック方法として、植えたい場所に深さ20cmほどの穴を掘り、バケツ一杯の水を流し込んでみてください。1時間経っても水が引かないようなら、その場所はフィオリーナには適していません。
注意点
落葉樹の下などは、冬は日が当たりますが、春になって葉が茂ると日陰になってしまうことがあります。フィオリーナの開花最盛期は4月〜5月なので、春の日当たりも考慮して場所を選びましょう。
土作りには苦土石灰と腐葉土

日本の土は雨の影響でカルシウムやマグネシウムが流出し、酸性に傾きがちですが、フィオリーナなどのスミレ科植物はpH5.5〜6.5程度の「弱酸性」の土を好みます。酸性度が強い土壌(pH5.0以下)では、根の生育が阻害されるだけでなく、リン酸などの重要な栄養素が化学的に固定されてしまい、植物が吸収できなくなる障害が発生します。そこで活躍するのが苦土石灰(くどせっかい)です。
なぜ「消石灰」ではなく「苦土石灰」なのか?
植え付けの2週間ほど前に、1平方メートルあたり100g〜150g(コップ1杯程度)の苦土石灰をまいてよく耕しておきましょう。「石灰ならなんでもいいの?」と思われるかもしれませんが、ここでは消石灰ではなく苦土石灰を強くおすすめします。その理由は、苦土石灰には「マグネシウム(苦土)」が含まれているからです。
マグネシウムは、植物の光合成に不可欠な「葉緑素(クロロフィル)」の中心となる成分です。フィオリーナのように次々と花を咲かせる植物は、光合成能力を高く維持する必要があるため、マグネシウムの要求量が非常に高いのです。酸度調整と同時にマグネシウム補給ができる苦土石灰は、まさに一石二鳥の資材といえます。これを怠ると、春になって葉の色が薄くなったり、花の発色が悪くなったりする原因になります。
団粒構造を作るための有機物投入
さらに、土を物理的にふかふかにするために「腐葉土」や「牛糞堆肥」も混ぜ込みます。目安としては、土の量の3割程度です。これらの有機物を混ぜることで、土の粒子同士がくっついて小さな塊を作る「団粒構造(だんりゅうこうぞう)」が形成されます。
団粒構造の土には、適度な隙間(孔隙)がたくさんあります。この隙間があるおかげで、余分な水はすぐに排出され(排水性)、かつ植物が必要な水は保たれ(保水性)、新鮮な空気も通る(通気性)という、根にとって理想的な環境が生まれます。特に元々が硬い土や粘土質の土の場合、この有機物の投入は必須です。フィオリーナの繊細な根が、ストレスなく四方八方に伸びていけるよう、土作りには特に時間をかけてあげてください。
株間は50cm空けて植え付け

ここが今回の記事で一番お伝えしたい、そして最も勇気が必要なポイントです。フィオリーナを地植えする場合、株と株の間は最低でも50cm、できれば60cm以上空けてください。
「もったいない」が失敗の元
ホームセンターなどで購入する苗は、直径9cm〜10.5cm程度のポットに入っています。これを50cm間隔で植えると、地面のほとんどが土のままで、「こんなにスカスカで大丈夫?」「もっと植えないと寂しい」と不安になると思います。実際、50cmといえば大人の肘から指先くらいの長さがありますから、かなりの距離です。しかし、ここで誘惑に負けて20cmや30cmの間隔で植えてしまうのが、地植えにおける最大の失敗原因です。
フィオリーナは、その名の通りサントリーフラワーズが開発したハイブリッド品種であり、通常のビオラとは比較にならないほどの生育力を持っています。公式情報によると、一株で直径100cm(1メートル!)近くまで広がるポテンシャルを秘めているのです(出典:サントリーフラワーズ『フィオリーナ』公式ページ)。もし狭い間隔で植えてしまうと、以下のような深刻な問題が発生します。
| 光合成不足 | 春になるとお互いの葉が重なり合い、下の方の葉に日が当たらなくなります。日光を浴びられない下葉は黄色くなって枯れ込み、株全体の活力が低下します。 |
|---|---|
| 蒸れと病気 | 風通しが悪くなることで株元の湿度が上がり、灰色かび病(ボトリチス病)などの病気が発生しやすくなります。一度病気が出ると、密植しているため隣の株へ一気に感染が広がります。 |
| 根の競合 | 地上部だけでなく、土の中でも根同士が水や栄養を奪い合います(干渉競争)。結果として、どの株も十分に大きく育つことができず、中途半端なサイズで終わってしまいます。 |
将来の満開をイメージする
50cmという広さは、春の満開時にフィオリーナが描き出す「キャンバス」の大きさです。「今は寂しいけれど、春にはここが全部花で埋め尽くされるんだ」というワクワク感を持ちながら、思い切って広々と配置してあげてください。その空間こそが、フィオリーナが健康に、そして巨大に育つために必要な「生活圏」なのです。どうしても隙間が気になる場合は、間にチューリップなどの球根を植えておくと、春に高さのアクセントが出て素敵ですよ。
根鉢を崩す植え方のコツ
ポットから苗を抜いたとき、白い根が底の方でぐるぐると回って固まっていることがありますよね。これを「ルーピング(サークリング)」といいます。このまま植えても、根は「まだポットの中にいる」と勘違いしてしまい、なかなか外の土へ伸びていきません。
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根への刺激がスイッチを入れる

地植えにする際は、このルーピングした根を処理することが重要です。根鉢の底にある固まった根を指で優しくほぐすか、ハサミで底面に十字の切り込みを入れて開いてから植え付けてみてください。「根を切っても大丈夫?」と心配になるかもしれませんが、適度な断根(だんこん)は、植物にとって「新しい根を出さなきゃ!」という強烈な刺激になります。
植物ホルモンの一種であるオーキシンの働きにより、切られた部分の近くから新しい側根が勢いよく発生します。これにより、苗はスムーズに庭の土へと活着することができるのです。ただし、根を全部崩してしまうとダメージが大きすぎるので、底面の固まっている部分をほぐす程度に留めてください。
水やりの物理学:水ポテンシャルの調整
また、植え付け前の準備として、ポット苗をバケツの水にドボンと浸し、根鉢にたっぷりと水を吸わせておくことも大切です。乾いた根鉢のまま湿った土に植えても、土の中の水はなかなか根鉢の中に入ってきません(毛管現象の不連続性といいます)。その結果、水やりをしているつもりでも、苗の中心部だけ乾燥しているという事態が起こります。植え付け前に根鉢の水分量をマックスにしておくことで、植え付け後のスムーズな水分移動が可能になります。
植える深さについては、茎の付け根(クラウン)が土に埋まると腐りやすくなるので、地面と同じ高さか、少しだけ高くなるように植える「浅植え」を徹底してください。深植えは厳禁です。
摘芯で株を大きくする裏技

植え付けから2〜3週間経ち、新しい葉が展開して根付いたことが確認できたら、「摘芯(てきしん)」を行うのもおすすめです。これは伸びている茎の先端をハサミでカットすることです。別名「ピンチ」とも呼ばれます。
頂芽優勢を打破するメカニズム
植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」といって、一番高いところにある芽(頂芽)が優先的に成長し、脇にある芽(側芽)の成長を抑える性質があります。「せっかく伸びたのにもったいない!」と思うかもしれませんが、先端を切ることでこの頂芽優勢が打破され、抑え込まれていた脇芽たちが一斉に目覚めて成長を始めます。
フィオリーナはもともと分枝力が強い品種ですが、このひと手間で枝数がさらに倍増します。枝数が増えるということは、将来咲く花の数が増えることに直結します。春には地面が見えないほど緻密で、密度の高い「花の絨毯」を作るためのプロのテクニックです。具体的には、伸びている茎の先端を1〜2節分くらい、爪やハサミでプチッと摘み取ります。
タイミングが命
ただし、摘芯は行う時期が非常に重要です。寒さが厳しくなる12月以降に行うと、植物の成長が止まっているため、切った後の回復に時間がかかりすぎたり、切り口から傷んでしまったりするリスクがあります。摘芯を行うなら、まだ成長が見込める11月中に完了させるのが鉄則です。もし植え付けが遅れて12月になってしまった場合は、無理に摘芯せず、そのまま育てた方が安全です。フィオリーナは摘芯しなくても十分広がりますが、より密に咲かせたい場合はチャレンジしてみてください。
フィオリーナの地植え栽培と管理方法
無事に植え付けが終わったら、次は日々の管理です。地植えは鉢植えに比べて水やりの手間は大幅に減りますが、完全に放置して良いわけではありません。日本の気候、特に冬の乾燥や春の長雨などに対応しながら、季節に応じた適切なケアを行うことで、フィオリーナは驚くほどのパフォーマンスを見せてくれます。
冬越しの水やりとマルチング
地植えの場合、基本的には自然の雨にお任せで大丈夫ですが、冬の乾燥には注意が必要です。特に太平洋側の地域(関東など)では、冬の間ずっと晴天が続き、湿度が極端に低くなることがあります。植物は冬の間も少しずつ葉から水分を蒸散させていますし、強い北風は土の表面から水分を奪い去ります。
冬の「水切れ」は見逃しやすい
「冬だから水はいらないだろう」と油断していると、いつの間にか土の中がカラカラになり、枯れてしまうことがあります。これを「寒さで枯れた」と勘違いしやすいのですが、実は「乾燥で枯れた(凍害乾燥)」というケースが意外に多いのです。1週間以上雨が降らず、土の表面が白く乾いているようであれば、午前中の暖かい時間帯を選んでたっぷりと水を与えてください。夕方に水をやると、夜間の冷え込みで土が凍ってしまい、根を傷める原因になるので避けましょう。
霜柱から根を守るマルチング

また、物理的な寒さ対策として「マルチング」も非常に有効です。株元に腐葉土やバークチップ、稲わらなどを敷き詰めることで、地面に布団をかけるような断熱効果が生まれます。これにより地温の急激な低下を防ぐことができます。
さらに重要なのが「霜柱(しもばしら)」の防止です。土中の水分が凍って霜柱ができると、土が持ち上がり、一緒に植物の根も持ち上げられて切断されてしまいます。ひどい場合には、根が地上に露出してそのまま干からびてしまうこともあります。特に植え付けが遅れて根張りが不十分な株ほど、霜柱の被害を受けやすいです。マルチングをしておけば、霜柱の発生を効果的に抑え、大切な根を守ることができます。
肥料切れを防ぐ追肥のやり方
フィオリーナは「多肥性植物(たひせいしょくぶつ)」に分類されます。これは文字通り、たくさんの肥料を必要とする植物という意味です。10月から翌年の5月まで、半年以上にわたって次から次へと花を咲かせ続けるには、莫大なエネルギーが必要です。人間で言えば、半年間フルマラソンを走り続けているようなものですから、栄養補給が途絶えればすぐにスタミナ切れを起こしてしまいます。
地植え特有の「肥料流亡」リスク
鉢植えと違い、地植えの場合は雨が降るたびに土の中の肥料成分が地下深くへ流れていってしまいます(リーチングといいます)。そのため、植え付け時の元肥(もとごえ)だけでは、春の満開期までスタミナを維持することは不可能です。定期的な追肥(ついひ)が成功のカギを握ります。
| 肥料の種類 | 特徴と使い分け | 頻度と方法 |
|---|---|---|
| 固形肥料
(緩効性) |
ゆっくりと溶け出し、長期間効果が持続します。ベースの栄養補給として最適です。 | 月に1回、株元から少し離れた場所にパラパラとまきます。IB化成などが使いやすくおすすめです。 |
| 液体肥料
(速効性) |
すぐに根から吸収され、即効性があります。スタミナ切れの緊急チャージに向いています。 | 「花が小さくなってきた」「葉の色が薄い(黄色っぽい)」と感じたら、規定倍率(通常500〜1000倍)に薄めた液肥を1週間に1回程度、水やり代わりに与えます。 |
特に気温が上がり始める3月頃からは、植物の代謝が一気に活発になり、肥料の消費スピードが跳ね上がります。この時期に肥料切れを起こすと、せっかくの春の満開シーズンに花数が減ってしまうので、意識して肥料を与えるようにしましょう。ただし、冬の間(厳寒期)は植物もあまり肥料を吸わないので、控えめにするのが基本です。
花殻摘みで満開を維持する
咲き終わった花(花殻)をそのままにしておくと、植物は本能的に「子孫を残さなきゃ!」と判断し、種を作ることにエネルギーを集中させ始めます。種を作るプロセスは植物にとって非常にコストがかかるため、新しい花芽を作るためのエネルギーが削られ、結果として花数が減ってしまいます。また、しおれた花からは老化ホルモンである「エチレン」が発生し、周囲の元気な花の老化まで早めてしまうこともあります。
摘む場所は「茎の根元」から

これを防ぐために、しおれた花はこまめに摘み取りましょう。このとき、花びらだけをむしり取るのはNGです。花茎(かけい)が残っていると、見た目が悪いだけでなく、残った茎が腐って病気の温床になることがあります。必ず花茎の付け根まで指を滑らせ、根元からプチッと折り取るのが正しい花殻摘みの方法です。
こまめな花殻摘みは、種子形成へのエネルギー流出を食い止め、常に「花を咲かせたい!」という植物のモチベーションを維持する効果があります。また、灰色かび病(ボトリチス病)などの病気は枯れた花弁から感染することが多いため、衛生管理の面でも非常に重要です。春の最盛期には、毎日のルーティンとして朝の庭パトロールで摘んであげましょう。
春の切り戻しで若返らせる
暖かくなってくると、フィオリーナの生育スピードはさらに加速します。嬉しい反面、株が大きくなりすぎて形が崩れたり、中心部分が蒸れて葉が黄色くなったりすることがあります。そんなときは、思い切って「切り戻し(きりもどし)」を行いましょう。
切り戻しとは、伸びすぎた枝をバッサリと剪定して、株をコンパクトに仕立て直す作業のことです。多くのガーデニング初心者が「せっかく咲いている花を切るなんてできない!」と躊躇してしまいますが、この作業こそが、フィオリーナを初夏まで美しく保つためのプロの秘訣です。
切り戻しが必要なサインとメカニズム
植物が成長しすぎると、株の内側には日光が届かなくなり、風通しも悪くなります。すると、内側の葉は光合成ができずに黄色く枯れ込み、高い湿度によって蒸れが発生します。これが続くと、株全体が弱り、最悪の場合は腐ってしまいます。また、枝先ばかりに栄養が行き渡り、株元がスカスカになってしまう「タコ足状態」になることもあります。
切り戻しを行うことで、これらの問題を一挙に解決できます。物理的に風通しを良くするだけでなく、頂芽優勢(ちょうがゆうせい)をリセットすることで、株元に近い節から新しい脇芽を発生させることができます。これにより、徒長した株が再びギュッと詰まった、密度の高い株へと生まれ変わるのです。
失敗しない切り戻しの手順

具体的な方法は、株全体の3分の1から半分くらいの高さまで、ハサミでカットします。例えば、高さが30cmになっているなら、15cm〜20cmくらいまで切ってしまって構いません。このとき最も重要なルールは、「必ず緑の葉っぱが残っている節の上で切る」ということです。
植物の茎には「節(ふし)」があり、そこから新しい芽が出ます。しかし、葉が全く落ちてしまっている茶色い茎(木質化した部分)まで深く切り込んでしまうと、そこには休眠している芽が残っていないことが多く、新しい芽が出ずにそのまま枯れてしまうリスクがあります。必ず、元気な緑色の葉が残っている位置を確認して、その少し上でハサミを入れてください。
リフレッシュ効果で二度目の満開を
切り戻し直後は花がなくなり、少し寂しい姿になりますが、心配はいりません。切られた刺激によって新しい脇芽が一斉に動き出し、約2〜3週間後には再びこんもりとした美しい姿で花を咲かせてくれます。これを「若返り(リジュベネーション)」効果と呼びます。適切に切り戻せば、一番花が終わった後も、梅雨入り前まで長くきれいな花を楽しむことができますよ。切り戻した後は、新しい芽を育てるために必ず追肥(液肥がおすすめ)を与えてください。
豆知識:切り戻しのリミット
切り戻しは、植物に一時的なダメージを与える作業です。そのため、回復には適度な温度が必要です。最高気温が25℃〜30℃を超えるような暑い時期に行うと、植物の体力が持たず、回復できないまま枯れてしまうことがあります。関東以西の温暖地であれば、遅くとも4月中旬までに行うのが安全です。ゴールデンウィークを過ぎてから株が乱れてきた場合は、バッサリ切る強剪定は避け、形を整える程度の軽い剪定や花柄摘みに留めておくのが無難です。
アブラムシなどの害虫対策
3月を過ぎて気温が上がり、新芽が柔らかく展開してくると、どこからともなく招かれざる客、アブラムシがやってきます。彼らは新芽や蕾の柔らかい部分に群生して植物の汁(師管液)を吸い、生育を阻害するだけでなく、排泄物(甘露)ですす病を誘発したり、ウイルス病(モザイク病など)を媒介したりする厄介な存在です。
「予防」と「早期発見」が鉄則
アブラムシは繁殖力が凄まじく、1匹見つけたら数日後には数百匹に増えていることも珍しくありません。対策で最も効果的なのは、発生する前からの予防です。植え付け時に「オルトラン粒剤」などの浸透移行性(しんとういこうせい)殺虫剤を土に混ぜておきましょう。これは、根から殺虫成分が吸収され、植物全体が殺虫効果を持つようになる薬剤です。アブラムシが汁を吸うとコロリと死ぬため、そもそも増える隙を与えません。
ただし、薬剤の効果持続期間は一般的に約1ヶ月〜1.5ヶ月程度です。秋に植え付けた時の効果は春には切れていますので、啓蟄(けいちつ)を過ぎて暖かくなってきたら、再び株元にパラパラと粒剤をまいておくと安心です。もし発生してしまった場合は、見つけ次第すぐに「ベニカXファインスプレー」などの園芸用殺虫剤で駆除しましょう。放置すると爆発的に増殖して手に負えなくなってしまいます。
夜の訪問者、ナメクジにも注意
地植えの場合、ナメクジによる食害も無視できません。ナメクジは夜行性なので昼間は見当たりませんが、「花びらが食べられている」「葉にキラキラした這い跡がある」といった場合はナメクジの仕業です。彼らはジメジメした場所を好み、昼間は鉢植えの下や石の裏、落ち葉の下などに潜んでいます。
特に雨上がりの夜などは活発に活動し、一晩でかなりの量の花を食べてしまうことがあります。見つけ次第割り箸などで捕殺するのが確実ですが、数が多い場合はメタアルデヒド系やリン酸第二鉄系の誘引殺虫剤を株周辺に置いて対策しましょう。これらはナメクジが好む匂いで誘き寄せ、食べさせて退治するタイプの薬剤です。コーヒーかすをまく等の民間療法もありますが、地植えの広い範囲では効果が限定的なので、専用の薬剤を使うことをおすすめします。
うどんこ病と灰色かび病
害虫だけでなく、病気にも注意が必要です。春の乾燥する時期や、逆に肥料(窒素分)が多すぎる場合は「うどんこ病」が発生しやすくなります。葉が小麦粉をまぶしたように白くなる病気です。見つけたら早めに殺菌剤を散布しましょう。
また、雨が続くと「灰色かび病(ボトリチス病)」のリスクが高まります。これは枯れた花や葉に灰色のカビが生える病気です。予防の基本は、前述した「花殻摘み」と「枯れ葉の除去」を徹底することです。清潔な環境を保つことが、薬に頼らない一番の防除法です。
フィオリーナの地植えで春を彩る
フィオリーナを地植えにすると、鉢植えでは決して味わえない、ダイナミックで圧倒的な「花のカーペット」を楽しむことができます。植え付け時に50cmも離して植えるのは、最初は「本当に埋まるのかな?」と勇気がいるかもしれませんし、冬の間は土が見えていて少し寂しいかもしれません。しかし、冬の寒さを乗り越え、春の光を浴びてぐんぐん広がり、やがて土の隙間が完全に埋め尽くされた時の感動はひとしおです。
今回ご紹介した「秋のうちに根を張らせる早期定植」「酸度調整と団粒構造を作る土作り」、そして「将来を見越した広い株間」。この3つのポイントさえ押さえれば、特別な技術がなくても、誰でもご近所さんが驚くような見事な花畑を作ることができます。サントリーフラワーズが本気で作ったフィオリーナの底力は、地植えでこそ真価を発揮します。植物の生命力を信じて、ぜひ今年の冬はフィオリーナの地植えにチャレンジして、春の庭を鮮やかな色で彩ってみてくださいね。
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