こんにちは、My Garden 編集部です。
秋が深まり、冷たい風が吹き始めると、春から夏にかけて花壇を鮮やかに彩ってくれたマリーゴールドも、そろそろシーズンの終わりを迎える頃ですね。その元気なオレンジやレモンイエローの花を見るたびに、毎日の水やりが楽しみだったという方も多いのではないでしょうか。
「このまま枯れさせてしまうのはもったいない」「来年もまた、この可愛い花を咲かせたい」
そんな風に思ったことはありませんか?実は、マリーゴールドはガーデニング初心者の方でも比較的簡単に「自家採種(じかさいしゅ=自分で種を取ること)」ができる、とても親しみやすい植物なんです。自分で育てた花から種を採り、それをまた来年の春にまいて花を咲かせる。この命のサイクルを肌で感じることは、ただ苗を買ってきて植えるだけでは味わえない、園芸の深い喜びの一つでもあります。
でも、いざ自分で種を取ろうとすると、様々な疑問や不安が湧いてくるものです。
「いつ採ればいいの?枯れてすぐでいいの?」
「枯れた花ならどれでも種が入っているの?」
「取った種はどうやって保存すればカビないの?」
「せっかく取っても、来年の春に全然芽が出なかったらどうしよう…」
実際、自己流で種取りをして、「保存中にカビだらけになってしまった」「春にまいたけれど一つも発芽しなかった」という失敗談は後を絶ちません。種は生き物ですから、その生理生態に合った正しい扱い方をしなければ、次世代への命をつなぐことはできないのです。
この記事では、そんなマリーゴールドの種の取り方に関するあらゆる疑問を解消し、来シーズンも元気な花を咲かせるためのプロ並みのコツを、植物学的な根拠を交えながら分かりやすく丁寧にお伝えします。正しいタイミングの見極め方、カビを完璧に防ぐ保存法、そして発芽率を劇的に上げる裏技まで。これさえ読めば、あなたのガーデニングライフはもっと豊かで、もっと持続可能なものになるはずです。
この記事のポイント
- 失敗しない採種のベストなタイミングと完熟のサイン
- カビを防いで長期保存するための乾燥と管理のテクニック
- 親と同じ花が咲くとは限らないF1品種の不思議と楽しみ方
- 次シーズンの種まき時期やコンパニオンプランツとしての活用法
失敗しないマリーゴールドの種の取り方

マリーゴールドの種取りは、ハサミがなくても手で採取できるほど物理的には簡単な作業です。しかし、「次世代につながる元気な種」を確保するためには、単に枯れた花を集めるだけでは不十分です。種が植物体の上でしっかりと成熟するのを待ち、適切なコンディションで収穫するという、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。ここでは、初めての方でも迷わずに実践できる、採種の基本から応用までの流れを詳しく解説していきます。
採種のベストな時期とタイミング
マリーゴールドの種取りにおいて、成否を分ける最も重要な要素といっても過言ではないのが「採種のタイミング(時期)」です。園芸を楽しんでいると、花がしおれてくるとすぐに「花がら摘み」をして、次の花を咲かせたくなるのが心情ですが、種を取りたい場合は、ここでグッと我慢が必要です。
種が成熟するメカニズム

種というのは、植物が次の世代へ命をつなぐためのカプセルです。このカプセルの中には、将来芽を出し、根を張り、葉を広げるためのエネルギー(胚乳や子葉の栄養分)がぎっしりと詰まっていなければなりません。花が咲き終わった直後は、まだ種の中身は未熟で、いわば空っぽの状態に近いのです。
受粉が終わると、植物は葉や茎で作られた光合成産物を、花の下にある子房(将来の種になる部分)へと送り込み始めます。これを「登熟(とうじゅく)」と呼びます。この登熟期間中に十分な栄養が送られて初めて、発芽能力を持つ種が完成するのです。したがって、花がしおれてすぐに摘み取ってしまうと、栄養の供給がストップしてしまい、中身のない「しいな(不稔種子)」ばかりになってしまいます。
具体的な日数の目安
一般的に、マリーゴールドの種取りに適した時期は、花が開花してから約1ヶ月から1ヶ月半ほど経過した後になります。季節で言えば、地域にもよりますが、猛暑が過ぎ去り、秋風が心地よくなる10月から11月頃、霜が降りる前までが採種のピークシーズンになることが多いですね。この時期になると、植物全体の成長スピードが緩やかになり、自身の体を枯らしながら種を熟させることにエネルギーが集中します。
「そろそろかな?」と思っても、焦りは禁物です。花びらが茶色く変色しただけではまだ早すぎます。茎の水分が完全に抜け、ガク(花の根元の筒状の部分)がしっかりと枯れ込んでくるまで、じっくりと株の上で熟成させてあげることが、発芽率の高い良質な種を得るための秘訣です。
ポイント:じっくり待つ勇気を!
「少し枯れすぎかな?」と思うくらいまで待つのが正解です。植物と種をつなぐパイプ(維管束)が遮断され、自然にポロっと取れる直前まで栄養をもらい続けることが、力強い種を作るコツです。
完熟を見極める!ガクの色と見分け方

「タイミングが大事なのは分かったけれど、具体的にどの状態になったらハサミを入れていいの?」という疑問を持つ方も多いでしょう。見た目の判断ミスで未熟な種を採ってしまうと、どれだけ丁寧に保存しても、翌春に芽が出ることはありません。完熟のサインを見逃さないためには、花びらの色だけに惑わされず、「ガク(総苞・そうほう)」の変化を観察することが極めて重要です。
ガクの変化こそが完熟の合図
ガクとは、花びらの根元を包み込んでいる、細長い筒状のパーツのことです。開花中は鮮やかな緑色をしていて、花びらを支えたり、内部の子房を守ったりする役割をしています。
採種の判断基準は、このガクの色と質感の変化にあります。以下の表に、採種に適した状態と、まだ早い状態の違いを詳細にまとめました。
| チェック項目 | まだ早い状態(採種NG) | 採種OKな完熟状態 |
|---|---|---|
| ガクの色 | 鮮やかな緑色、または黄緑色が残っている。 | 全体が黄褐色、ベージュ、または白っぽい色に完全に退色している。 |
| ガクの質感 | 瑞々しく、ハリがある。指で押すと水分を感じる弾力がある。 | カサカサ、カラカラに乾燥している。指で押すとパリッと割れそうな紙のような質感。 |
| 花びらの状態 | 色がくすんでいるが、まだ花びらの形は残っている。 | 完全に茶色く枯れ、縮れている。触るとボロボロと崩れる。 |
| 茎(花首) | 緑色でしっかりしており、手で折ろうとしても粘りがある。 | 茶色く枯れ込み、細くなっている。手で軽く曲げるだけでポキッと折れる。 |
指先の感覚で確かめる
最も分かりやすく、かつ確実な指標は、ガクを指で触ったときの感触です。「しっとり」していればまだ未熟、「カサカサ」と乾いた音がするようなら完熟です。
ガクが緑色の状態で無理に採種しても、中の種は白っぽく未熟で、胚(植物の赤ちゃんになる部分)が十分に育っていません。このような種は、乾燥させると水分が抜けてシワシワになり、発芽能力を持たないことがほとんどです。確実に発芽する種を採るためには、ガクの緑色が完全に抜け、枯れ色になるまで待つことが鉄則です。多少見た目が悪くなっても、種のためにじっと待つのが親心というものです。
雨上がりはNG?採種に適した天気と時間帯
完熟した種を見つけたら、すぐにでも採りたくなりますが、ここで一度立ち止まって「天気」を確認しましょう。種取りにおいて、水分や湿気は最大の敵であり、最も警戒すべきリスクファクターです。
なぜ「湿気」が種をダメにするのか
たとえ種自体が完熟していても、採取時の水分量が多いと、保存中に以下のようなトラブルが発生します。
- カビの発生:湿気はカビ胞子の発芽条件を満たしてしまいます。
- 腐敗:細菌が増殖し、種がドロドロに溶けて腐ってしまいます。
- 寿命の短縮:水分が多いと種の呼吸活性が高まり、貯蔵養分を無駄に消費して老化が早まります。
具体的には、雨が降っている日はもちろん、雨上がりの当日や翌日も避けるべきです。枯れた花びらやガクは、スポンジのように水分を吸収しやすい「吸湿性」を持っています。表面上は太陽が出て乾いているように見えても、ガクの内部や種子の隙間には、雨水がたっぷりと残っていることが多いのです。この状態で採取し、袋や容器に入れてしまうと、内部湿度が100%近くまで一気に上がり、蒸れてしまいます。これは、灰色かび病菌(ボトリチス菌)などの病原菌にとって絶好の繁殖環境となり、あっという間に種が全滅してしまいます。
ゴールデンタイムは「晴天続きの午後」
では、いつがベストなのでしょうか?理想的なのは、「晴天が2〜3日続いた日の午後」です。
なぜ「午後」かというと、晴れた日であっても、早朝や午前中は「夜露(よつゆ)」が残っている可能性が高いからです。植物の表面は、夜間の放射冷却によって結露しやすく、朝のうちは意外と濡れています。太陽が昇り、気温が上昇して相対湿度が最も下がる午後1時から3時頃こそが、種子の水分含有量が最も低くなる「ゴールデンタイム」なのです。
曇りの日も要注意
曇りの日も湿度が意外と高いことがあります。カラッと晴れて、洗濯物がよく乾くような日を狙って採種を行うのが、失敗しないためのポイントです。
もし、週末しかガーデニングの時間が取れないのに、週末が雨予報…という場合は、無理に濡れた状態で採るよりも、雨が上がって数日経ち、自然乾燥するのを待ってから(翌週などに)採る方が、結果的に良質な種を得られることが多いですよ。
簡単にできる!枯れた花からの種の手順
天候に恵まれ、完熟した花がらを見つけたら、いよいよ収穫作業です。特別な道具は必要ありませんが、作業効率を上げるために、剪定ばさみと、採取した種を入れるための広口の紙袋や空き箱(お菓子の箱など)を用意しておくと便利です。ビニール袋は採取直後の種を入れると、自身の呼吸熱で蒸れやすいので、通気性のある紙製の入れ物がおすすめです。
ステップ1:花茎からカットする
完熟してカサカサになった花がらの、花首(茎と花の境目あたり)をハサミでカットします。手でポキッと折れるくらい乾燥していれば、ハサミを使わずに手で摘み取っても構いません。
この時、一つの株の中に「完熟した花がら」と「まだ緑色が残っている未熟な花がら」が混在していることがよくあります。面倒でも、完熟したものだけを選り分けて収穫していきましょう。未熟なものを混ぜてしまうと、そこから出る水分が他の種に悪影響を及ぼすことがあります。
ステップ2:ガクを開く・種を引き抜く

ここからがマリーゴールド特有の、ちょっとクセになる楽しい作業です。
- 採取した花がらの、枯れた花びらを束にして指でつまみます。
- 反対の手でガクの根元(膨らんでいる部分の最下部)を軽く押さえます。
- 花びらを優しく、かつ真っ直ぐに引き抜いてみてください。
すると、花びらの根元に黒い種がくっついた状態で、ズルズルっとガクの中から現れます。まるで刀を鞘から抜くような、独特の感触です。
ステップ3:うまくいかない時はガクを裂く
もし、引き抜こうとして花びらだけが千切れてしまっても焦らなくて大丈夫です。その場合は、ガクの筒の部分に爪を立てて、縦にビリッと裂いてしまいましょう。ガクを開くと、中に整然と並んだ種が見えるはずです。
ステップ4:種子の構造を確認する
取り出した種をよく観察してみましょう。マリーゴールドの種は、独特な細長い針のような形状をしています。
下半分(ガクの中に隠れていた部分)が黒くて硬い「種子本体」で、上半分(花びらとつながっていた部分)は白っぽくてフサフサした「冠毛(かんもう)」や枯れた花弁の残骸です。この細長い形状全体が種として扱われますが、実際に発芽するのは黒い部分だけです。
採取した直後は、花びらのカスやゴミなどが混ざっていると思いますが、この段階ではあまり神経質にならなくて大丈夫です。まずは乾燥させることを優先し、後でゆっくりときれいに選別しましょう。
カビさせないための乾燥と脱穀のやり方
種を採取したら、そのまま保存容器に入れてはいけません。これが最も多くの人が陥る失敗の元です。
採取直後の種は、手で触って乾いているように感じても、内部にはまだ「平衡含水率」よりも高い水分(結合水や自由水)が残っています。このまま密閉すると、種自身の呼吸によって容器内に湿気がこもり、カビが発生したり、発芽力が失われたりします。長期保存に耐えられる状態にするために、「予備乾燥(ポストハーベスト乾燥)」という工程が不可欠です。
正しい乾燥の環境と手順

まず、新聞紙やキッチンペーパー、あるいは大きめのザルなど、通気性の良いものを用意します。その上に採取した種を、重ならないように薄く広げます。このとき、ガクがついたまま乾燥させても良いですが、ガクから取り出して広げたほうが空気に触れる面積が増え、早く均一に乾燥します。
置き場所は、必ず「風通しの良い日陰」を選んでください。
「早く乾かしたいから」といって直射日光に当てるのはNGです。強力な紫外線は種子の細胞(DNA)にダメージを与え、高温になりすぎるとタンパク質が変性して種が死んでしまうからです。室内であれば、エアコンの風が直接当たらない、空気が動く場所が良いでしょう。
乾燥期間の目安は、天候にもよりますが、最低でも3日間、できれば1週間程度はしっかりと乾かしてください。乾燥完了の目安は、種を指で触ったときに硬さを感じ、曲げようとすると「パキッ」と折れそうなほど水分が抜けている状態です。
脱穀とクリーニング
十分に乾燥したら、「脱穀(だっこく)」と「クリーニング」を行います。これは、種についている不要なゴミを取り除く作業です。
マリーゴールドの種には、枯れた花びらや、白いフサフサした冠毛がついています。これらは保存中に湿気を吸う原因になったり、カビの温床になったりするため、できるだけ取り除いておくのが理想的です。
方法は簡単です。乾燥した種を新聞紙の上などで、手のひらを使って優しく揉みほぐします。すると、種から花びらや冠毛がポロポロと外れます。その後、息を吹きかけたり、うちわで軽く扇いだりして(風選)、軽いゴミだけを飛ばします。完全にきれいにする必要はありませんが、黒い種の部分が主になるように調整しておくと、保存時のスペースも大幅に節約できますし、何より次の種まきがとても楽になりますよ。
良い種だけ残す!選別方法と中身の確認

乾燥とクリーニングが終わったら、最後の仕上げとして「選別(ソーティング)」を行いましょう。採取した種の中には、残念ながら発芽能力のない「しいな(不稔種子・ふねんしゅし)」が混ざっていることがよくあります。これらを一緒に保存しても、場所を取るだけで芽は出ません。質の良いエリート種子だけを選び抜くことで、来春の発芽率を格段にアップさせることができます。
良質な種(充実種子)の特徴
来年の主役となるべき種は、以下のような特徴を持っています。
- 色:色が濃く、黒々としている(品種によっては濃いグレーや茶色の場合もあります)。
- 形:太さがあり、ふっくらとしている。まっすぐに伸びている。
- 硬さ:指でつまんで軽く押しても潰れず、芯がある硬い感触がある。これは中身(胚乳や胚)がぎっしり詰まっている証拠です。
不良な種(しいな)の特徴・捨てるべきもの
一方で、以下のような種は思い切って処分しましょう。
- 色:全体的に白っぽい、あるいは色が薄いベージュ色。
- 形:平べったく、厚みがない(ペラペラしている)。極端に短い。
- 硬さ:指で押すと簡単に潰れたり、曲がったりする。これは受粉に失敗したか、登熟が不十分で中身が入っていない「空っぽ」の状態です。
この選別作業は、少し手間に感じるかもしれませんが、一つ一つ目視と手触りで確認する「ハンドソーティング」が最も確実です。「黒くて、太くて、硬い」種だけを残し、それ以外は廃棄します。このひと手間を惜しまないことが、来春、プランターいっぱいに元気な芽を出させるための重要な鍵となります。特にマリーゴールドは、一つの花から数十粒の種が取れるので、厳しく選別しても十分な量が確保できるはずです。
保存まで解説!マリーゴールドの種の取り方
厳選されたエリート種子たちが手元に集まりましたね。ここからは、その種たちの命を来年の春まで守り抜くための「保存」のフェーズに入ります。植物の種は、休眠しているとはいえ生きています。呼吸もしています。保存環境が悪ければ、蓄えたエネルギーを使い果たしてしまったり、細胞が老化して死んでしまったりします。家庭にある身近な道具を使って、プロの種苗会社のような最適な保存環境を作る方法をご紹介します。また、市販のF1品種から採った種の遺伝的な話や、来春の種まき計画についても触れていきます。
冷蔵庫で長持ち!種の正しい保存方法
苦労して選別したエリート種子たちも、そのまま机の上に放置していては、来年の春までその命を保つことはできません。種子の寿命を左右する最大の要因は「温度」と「湿度」です。この2つを適切に管理することで、マリーゴールドの種は驚くほど長持ちし、高い発芽率を維持することができます。
ハリントンの法則を知ろう
種子の保存に関する「ハリントンの法則」という有名な経験則があります。これは、「種子の水分含量が1%低下するごとに、あるいは保存温度が5℃低下するごとに、種子の寿命は約2倍になる」というものです。つまり、シンプルに言えば「乾燥させて、冷やす」ことが、種を長生きさせるための絶対的なルールなのです。
家庭でこの環境を再現するのに最適な場所が、「冷蔵庫の野菜室」です。リビングなどの常温環境は、冬場でも暖房で暖かすぎたり、加湿器で湿度が上がりすぎたりするため、種の保存には不向きです。具体的な保存手順は以下の通りです。
ステップ1:乾燥剤(シリカゲル)を用意する
湿気は種子の大敵です。密閉容器内のわずかな湿気も取り除くために、乾燥剤を必ず同封しましょう。海苔やお菓子に入っていたシリカゲルを再利用しても構いませんし、100円ショップなどで購入できる園芸用・食品用の乾燥剤でも十分です。「石灰乾燥剤」でも良いですが、吸湿状態が色でわかる「シリカゲル」の方が管理しやすいですね。
ステップ2:紙の封筒に入れる
種を直接ビニール袋に入れるよりも、まずは紙製の封筒(茶封筒など)に入れることをおすすめします。紙は通気性があり、急激な温度変化による結露から種を守ってくれる緩衝材のような役割を果たします。封筒には、「マリーゴールド(品種名)」「採取日:202X年10月〇日」と大きく書いておきましょう。これ、意外と忘れがちで、春になると「これ何の種だっけ?いつのやつだっけ?」と迷宮入りすることがよくあります。
ステップ3:密閉容器にまとめる
種を入れた封筒と乾燥剤をセットにして、ジッパー付きの保存袋(フリーザーバッグ)や、パッキンのついたタッパーに入れます。この時、袋の中の空気をできるだけ抜いて真空に近い状態にするのがポイントです。空気が少ないほど、種の酸化や呼吸による消耗を防げます。
ステップ4:冷蔵庫(野菜室)へGO

準備ができたら、冷蔵庫の野菜室(約5℃〜10℃)に入れて保管します。なぜ野菜室が良いかというと、通常の冷蔵室よりも温度が極端に低すぎず、開閉頻度による温度変化の影響も比較的受けにくいからです。ここで春までぐっすりと眠ってもらいましょう。
冷凍庫は避けたほうが無難です
「冷やせば冷やすほど良いのでは?」と冷凍庫に入れたくなるかもしれませんが、家庭用の設備で種子の水分量を厳密にコントロール(5%以下など)するのは困難です。もし水分が残った状態で凍結させると、細胞内の水分が氷の結晶となって膨張し、細胞膜を突き破って種が死んでしまうリスクがあります。家庭レベルでは、冷蔵保存が最も安全で確実な方法です。
親と同じ花?F1品種と自家採種の関係
「去年育てたあの立派なマリーゴールド、種を取ってまいたら、今年も同じ花が咲くよね?」
そう期待して種まきをしたのに、いざ咲いてみたら「あれ?背が高いな」「花が小さいぞ」「色が混ざっている?」という経験をしたことはありませんか?実はこれ、植物の遺伝の仕組みによる非常に興味深い現象なのです。
F1品種(一代交配種)とは
現在、園芸店やホームセンターで販売されているマリーゴールドの苗や種の多くは、「F1品種(一代交配種・雑種第一代)」と呼ばれるものです。パッケージに「F1」や「交配」と書かれているのが目印です。
F1品種は、異なる特性を持つ純系の親同士(例えば、病気に強い品種と、花が大きい品種など)を人工的に掛け合わせて作られています。メンデルの法則における「優性の法則」や「雑種強勢(ヘテロシス)」により、F1世代は両親の良いとこ取りをして、生育が旺盛で、形や大きさがピタリと揃った均一な花が咲くように設計されています。
F2世代(自家採種)で起こる分離
しかし、このF1品種から採った種(これは「F2世代」になります)をまくと、話が変わってきます。F2世代では、F1の時には隠れていた親の性質がバラバラに出てくる「分離の法則」が働きます。これを園芸用語で「先祖返り」と呼ぶこともあります。
【F2世代(自家採種)で起こりうること】
- 草姿のばらつき:コンパクトな矮性品種だったはずが、ひょろひょろと背が高くなったり、逆に極端に低くなったり、高さが揃わなくなることがあります。
- 花の変化:ゴージャスな八重咲き(ボール咲き)だったのに、一重咲きや半八重の花が混ざることがあります。また、鮮やかなオレンジ色だったのに、黄色っぽい花や、赤みが強い花が出現することもあります。
- 性質の変化:親株よりも病気に弱くなったり、逆に野生味が強くて丈夫になったりすることもあります。
多様性を楽しむという考え方

「それじゃあ、種を取る意味がないの?」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。むしろ、「世界に一つだけのマリーゴールドに出会えるチャンス」と捉えてみてはいかがでしょうか。
プロの生産者は商品としての「均一性」を求めますが、家庭園芸では「多様性」を楽しむことができます。思いがけず美しい色変わりが生まれたり、環境に馴染んだ強い株ができたりするのは、自家採種ならではの醍醐味です。「どんな子が生まれてくるかな?」と、福袋を開けるようなワクワク感を楽しめる方には、F1品種からの種取りも強くおすすめします。
同じ花を咲かせたい場合は?
花壇のデザイン上、どうしても高さや色を完璧に揃えたいという場合は、自家採種ではなく、毎年新しいF1種子を購入するのが確実です。目的に合わせて、自家採種と購入種子を使い分けてみてください。
次の春に備える!種まきの時期と発芽適温
大切に冷蔵庫で冬越しさせた種たちを、いよいよ目覚めさせる時が来ました。しかし、ここで張り切りすぎて、まだ寒い時期に種をまいてしまうのは失敗の元です。マリーゴールドは、春の暖かさをしっかりと感じてから動き出す植物です。
焦りは禁物!発芽適温は高め
マリーゴールドの発芽適温(芽が出るのに最も適した地温)は、20℃〜25℃と、他の春まき草花に比べてもやや高めです。「気温」ではなく「地温(土の温度)」が重要なので、昼間は暖かくても夜間の冷え込みが厳しい時期はまだ適期ではありません。
早まきの最大のリスクは「立ち枯れ病」です。地温が低く湿った環境では、種が発芽する前に腐ってしまったり、せっかく出た芽が地際から溶けるように倒れてしまったりすることが多発します。植物が「寒いよ!」と悲鳴を上げている状態ですね。
地域別の種まきカレンダー(目安)
| 地域 | 種まき適期 | 季節の目安 |
|---|---|---|
| 暖地・一般地 (関東以西など) |
4月中旬 〜 6月上旬 | ソメイヨシノが散り、八重桜が咲く頃。 ゴールデンウィーク前後が安全圏。 |
| 寒冷地 (東北・北海道など) |
5月中旬 〜 6月中旬 | 遅霜の心配が完全になくなってから。 ライラックの花が咲く頃。 |
「桜が散って、上着がいらなくなるくらい暖かくなってから」と覚えておけば間違いありません。種まきの方法は、ビニールポットにまいて苗を作ってから植え付ける方法(育苗)と、花壇やプランターに直接まく方法(直まき)のどちらでも大丈夫です。マリーゴールドは発芽能力が高く、幼苗の成長も早いので、初心者の方は管理が楽な「直まき」をおすすめします。バラバラとまいて、元気なものだけを残して間引いていくスタイルなら、移植の手間も省けて植物へのストレスも少なくて済みます。
コンパニオンプランツとしての活用メリット
自家採種をして大量の種が手に入ることの最大のメリット、それは「種代を気にせず、惜しみなく使える」という点にあります。マリーゴールドは単なる観賞用の花ではなく、家庭菜園において最強の「コンパニオンプランツ(共栄作物)」としても知られています。
1. 土壌センチュウ(ネマトーダ)の抑制

マリーゴールド、特にフレンチ種やアフリカン種の一部の根からは、「α-ターチエニル(alpha-terthienyl)」などの成分が分泌されています。この成分には、植物の根に寄生してコブを作ったり腐らせたりする有害なセンチュウ(ネコブセンチュウやネグサレセンチュウ)を殺虫・抑制する効果があることが、学術的にも広く認められています。
トマト、キュウリ、オクラ、ダイコンなどはセンチュウ被害を受けやすい野菜ですが、これらの株元や畝の間にマリーゴールドを混植することで、土壌環境を守る効果が期待できます。(出典:農林水産省『環境に優しい病害虫防除』)
2. バンカープランツ(天敵の銀行)
マリーゴールドの花には、アブラムシを食べてくれるテントウムシやヒラタアブ、ヒメハナカメムシといった「益虫」が集まりやすい性質があります。マリーゴールドを畑の周囲に植えておくことで、これらの益虫を呼び寄せ、温存する「基地(バンカー)」となり、結果として野菜につく害虫を減らす(減農薬)ことにつながります。
3. 緑肥としての利用
自家採種でコップ一杯分の種が取れたなら、野菜を植える前の畑に一面に種をまいてみてください。花が咲く前、あるいは咲き始めの時期に、植物体ごと土にすき込んでしまうのです。これを「緑肥(りょくひ)」と言います。マリーゴールドをすき込むことで、土壌中の有機物が増え、前述のセンチュウ抑制効果も最大化されます。種を買ってやろうとするとコストがかかりますが、自家採種の種ならタダでできる、贅沢な土壌改良法です。
芽が出ない失敗を防ぐ発芽率アップのコツ
「去年取った種をまいたのに、全然芽が出なかった…」という悲しい事態を防ぐために、種まきの時に実践してほしいプロのテクニックを2つご紹介します。
テクニック1:冠毛(かんもう)の処理と吸水
マリーゴールドの種についているフサフサした白い毛や、枯れた花びらの残骸。これらは、種まきの時に意外と邪魔になります。毛がクッションになって種が土と密着せず、水分を吸えずに「空中に浮いた状態」になりやすいのです。
種まきの直前に、種を手のひらに乗せ、少量の砂(川砂など)を混ぜて強めに揉んでみてください。すると、余計な毛が取れて種が裸になります。この状態でまくと、土との密着度が格段に上がり、スムーズに吸水できるようになります。
また、種が極端に乾燥している場合は、一晩(数時間程度)水に浸してからまくのも有効ですが、長く浸けすぎると窒息してしまうので注意が必要です。
テクニック2:覆土(ふくど)は薄く、鎮圧はしっかり
植物の種には、光が当たると発芽する「好光性種子」と、光を嫌う「嫌光性種子」がありますが、マリーゴールドはその中間、あるいはやや好光性の性質を持っています。深く埋めすぎると、酸素不足や光不足で発芽できません。
種をまいたら、土をかける厚さは「種が隠れる程度(約5mm)」に留めましょう。そして、ここが重要ですが、土をかけたら手のひらで上から優しく、しかししっかりと「鎮圧(ちんあつ)」して、種と土を密着させます。このひと手間で、毛細管現象により下から水分が上がってきやすくなり、発芽までの乾燥を防ぐことができます。
発芽するまでは、絶対に土を乾かさないように管理します。ジョウロの水流で種が流れないよう、霧吹きやハス口の細かいジョウロを使って優しく水やりをしてください。
翌年も楽しむマリーゴールドの種の取り方
自分で育てた花から種を採り、大切に保存し、また次の春にその命をつないでいく。これこそがガーデニングの醍醐味であり、ただ苗を買ってきて植えるだけでは味わえない、植物との深い対話の時間です。
マリーゴールドは生命力が強く、採種も簡単なので、種取りデビューにはぴったりの花です。種を取ることで、花が咲き終わった後の「枯れていく姿」にも、次世代への命のバトンタッチという美しい意味があることに気づけるはずです。今回ご紹介した完熟の見極めや冷蔵保存のテクニックを参考にして、ぜひマリーゴールドの命のリレーを楽しんでみてください。ご自身の手で種から育てた花が咲いた時の感動は、きっと何物にも代えがたいものになるはずです。
この記事の要点まとめ
- マリーゴールドの種取りは花が枯れてから約1ヶ月後、秋風が吹く頃が目安
- 花びらだけでなく、ガク(総苞)が緑色から黄褐色・白っぽく変化し乾燥したら完熟
- ガクを触って「カサカサ」と乾いた音がし、茎が茶色く枯れ込んだ時が採取適期
- 雨の日や雨上がりは種が水分を含んでいるため避け、晴天が2〜3日続いた午後に行う
- 種はガクごと採取し、風通しの良い日陰で1週間ほどしっかりと「予備乾燥」させる
- 保存前に「黒くて太く硬い」充実種子を選別し、白っぽく薄いしいなは取り除く
- 湿気と高温は種の寿命を縮めるため、乾燥剤と共に密閉容器に入れ冷蔵庫の野菜室で保管
- F1品種から採った種(F2)はメンデルの法則により親と同じ花が咲かない場合がある
- 種の多様性を楽しむなら自家採種、均一な花壇を目指すなら購入種子と使い分ける
- 種まきの適期は4月中旬〜5月、地温が20℃〜25℃と十分に暖かくなってから行う
- 早まきは立ち枯れ病のリスクが高まるため、八重桜が咲く頃やGWを目安にする
- 自家採種した大量の種は、センチュウ抑制や緑肥としてのコンパニオンプランツ活用に最適
- 種まき時は種についている冠毛を砂で揉んで取り除くと、土と密着し発芽率が上がる
- 覆土は種が隠れる程度(5mm)に薄くし、乾燥させないよう水管理を徹底する
- 命のサイクルを肌で感じ、翌年も花を楽しむことが自家採種の最大の魅力
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