こんにちは。My Garden 編集部です。
フリルのような花びらが本当に可愛いミルフル、せっかくお迎えしたならできるだけ長く楽しみたいですよね。インターネットで検索していると、ミルフルの夏越しに挑戦している人のブログを見かけたり、挿し芽で増やせるのか気になったりして、結局のところミルフルは多年草として来年も咲かせることができるのか、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。実は、日本の気候におけるミルフルの寿命や開花時期には明確な限界があり、無理に冬越しや夏越しを粘るよりも、そのシーズンを全力で咲かせる方が結果的に満足度が高いことが多いのです。今回は、植物学的な視点や法律的なルールも交えながら、ミルフルとの一番幸せな付き合い方をご紹介します。
この記事のポイント
- ミルフルが「一年草」として扱われる本当の理由と科学的根拠
- 夏越しの成功率と日本の気候における生理的な限界
- 種苗法に基づく挿し芽や増殖に関する重要なルール
- 春に「超満開」を迎えるための摘心や肥料の具体的テクニック
ミルフルは多年草ではなく一年草として扱う理由
愛らしいフリル咲きで私たちを魅了するミルフルですが、実は「多年草なのか、一年草なのか」という疑問は、植物学的な分類と園芸的な扱いが少し食い違っていることから生まれています。結論から言うと、日本の一般的な気候、特に本州以南で育てる場合、ミルフルは「一年草」として割り切って育てるのが正解です。なぜ生物学的には生き残るポテンシャルがあるのに、園芸では一年草扱いが推奨されるのか、その理由を深掘りしていきましょう。
ミルフルが園芸分類で一年草とされる背景
まず、ミルフルの植物としての生い立ちと、園芸市場における位置づけについて、少し専門的な視点から紐解いてみましょう。ミルフルは、サントリーフラワーズ株式会社が開発した「サンヴィオ」というシリーズなどが育種のベースになっています。この品種が開発される際、メーカーが最も重視したのは「パンジーのような豪華なフリル」と「ビオラの持つ圧倒的な強健さと多花性」を両立させることでした。
遺伝子に刻まれた「ほふく性」の秘密

植物学的な遺伝子の設計図を詳しく解析すると、実はミルフルは野生のスミレと同じように、本来は地面を這って広がりながら翌年も生き続ける「ほふく性(匍匐性)」の性質を秘めています。野生のスミレが冬を越し、地下茎やランナー(匍匐茎)を使って生息域を広げながら春にまた咲くように、ミルフルにも生物学的には多年草として生きるための潜在能力(ポテンシャル)が備わっているのです。実際、原種に近いビオラ・コルヌタなどは、環境さえ合えば何年も生き続ける宿根草として扱われます。
「理論上の寿命」と「園芸上の寿命」のギャップ
「それなら、やっぱり多年草として育てられるんじゃないの?」と期待を抱くのは当然のことです。確かに、原産地である北欧や高冷地のような冷涼な気候、あるいは温度と光線量が24時間徹底的に管理されたプロの温室の中であれば、理論上は数年にわたって生存し続けることが可能です。植物生理学的にも、枯れるプログラムが組み込まれているわけではありません。
しかし、日本の園芸市場やカタログでは明確に「一年草」のカテゴリーで販売されています。これはなぜでしょうか?答えは、日本の気候、特に「高温多湿な夏」という環境が、ミルフルの生存にとってあまりに過酷すぎるからです。日本の夏は、寒冷地を故郷に持つスミレ科の植物にとっては「生存不能なデスゾーン」に近い環境となります。
メーカーや園芸店が「翌年も咲きますよ」と案内しないのは、不親切だからではなく、むしろ誠実さの表れです。「生物学的には可能でも、一般家庭の環境ではほぼ不可能」という現実があるため、秋に植えて春まで楽しむ一年草として割り切って販売しているのです。この「理論」と「現実」のギャップを正しく理解することが、ミルフル栽培の第一歩となります。無理に自然の摂理に逆らうよりも、その季節ごとの美しさを享受する方が、園芸としての満足度は高くなるはずです。
ポイント
ミルフルは植物学的には「多年草」の性質を持っていますが、日本の気候条件下では夏を越すことが極めて困難です。そのため、園芸分類上は「一年草」として扱うのが一般的であり、最も美しい花を楽しむための近道です。
ミルフルの夏越し成功率が低い科学的根拠
「涼しい日陰に置けば、もしかして夏越しできるかも?」と淡い期待を抱いてしまうのが親心ですが、これには植物生理学における「呼吸」と「エネルギー収支」の壁が立ちはだかります。精神論や愛情だけでは越えられない、科学的なメカニズムを詳しく解説します。
C3植物の宿命:暑さによる「消耗戦」
ミルフルを含むスミレ科の植物は、光合成の仕組みにおいて「C3植物」というグループに分類されます。このタイプの植物は、涼しい環境で効率よくエネルギーを作ることに特化していますが、致命的な弱点があります。それは、気温が25℃〜30℃を超えると、光合成の効率が劇的に低下し、逆に「光呼吸」という反応が増えてしまうことです。
簡単に言うと、光合成で作るエネルギーよりも、ただ生きているだけで消費するエネルギー(呼吸)の方が多くなってしまうのです。人間で例えるなら、食事で摂取するカロリーよりも、ただ座って息をしているだけで消費する基礎代謝カロリーの方が圧倒的に多くなり、どんどん痩せ細っていく状態です。これを植物学的な「消耗戦」と呼びます。夏の間、ミルフルは成長しているのではなく、自らの体を削りながらギリギリで耐えているだけなのです。
熱帯夜が引き起こす「根の酸欠」と「熱性萎凋」

さらに追い打ちをかけるのが、近年の日本の夏特有の「熱帯夜」です。植物は昼間に光合成を行いますが、夜間は呼吸のみを行います。夜温が下がれば呼吸量は抑えられますが、夜間の気温も25℃を下回らないと、植物は夜も休むことなく激しい呼吸を続けなければなりません。これにより、昼間に蓄えたわずかな体力を夜間に完全に使い果たしてしまいます。
また、鉢の中の温度(地温)が30℃を超えると、土の中の溶存酸素濃度が低下すると同時に、根の呼吸量が増大するため、根が深刻な「酸欠状態」に陥ります。酸素がないと根は水を吸い上げることができません。これにより、地上部の葉はまだ緑色をしていても、根の細胞が壊死し、給水能力を失います。その結果、ある日突然、青々としていた株が一気に萎れて枯れる「熱性萎凋(ねつせいいちょう)」が発生するのです。これは水切れではないので、水をあげても復活しません。
衝撃的なデータ:生存率はわずか7.7%
ある熱心な園芸家さんが行った詳細な実験データによると、挿し芽を行って最適な環境下で夏越しを試みた際でも、その生存率はわずか7.7%だったという報告があります。100株挑戦して、生き残るのは8株以下。しかも、生き残った株もボロボロで、秋に咲く花は小さく変形してしまうことがほとんどです。費用対効果や労力を考えると、夏越しは現実的ではありません。
夏越しをおすすめしない理由まとめ
- 生存率の低さ:統計的に見ても成功率は極めて低く、多大な労力に見合う結果が得られにくい。
- 観賞価値の低下:仮に夏を越せたとしても、株の形状が乱れ、秋の開花パフォーマンスは新品の苗に比べて著しく劣る。
- 病害虫のリスク:弱った株はハダニやアブラムシの標的になりやすく、秋からのガーデニングシーズンに病害虫を持ち込む原因になる。
ミルフルの寿命と開花時期の限界について
植物としての生理的な寿命とは別に、園芸植物としての「観賞期間(寿命)」をどう捉えるべきかについてお話しします。結論から言えば、ミルフルの輝けるステージは期間限定であり、その期間を過ぎれば潔く幕を引くのが美しいガーデニングの作法です。
ゴールデンウィークが「卒業」のサイン
基本的には、10月〜11月に植え付けて、翌年の5月いっぱいまでがミルフルのシーズンです。この約7〜8ヶ月間が、ミルフルにとっての「一生」だと考えてください。
5月に入り、ゴールデンウィークを過ぎて最高気温が25℃近くまで上昇する日が続くと、ミルフルの様子が変わってきます。茎は間延びし(徒長)、葉の色も徐々に黄色っぽくなってきます。花弁のフリルも弱々しくなり、種を付けようとして花茎が急激に伸び始めます。これは病気ではなく、植物からの「もう十分頑張りました、次世代に命を繋ぎたいです」という生理的なサインです。この時期になると、どれだけ肥料を与えても、以前のようなギュッと詰まった美しい姿には戻りません。
「延命」よりも「バトンタッチ」の美学
この状態になったミルフルを、活力剤を与えたり日陰に移したりして無理に延命させようとする方もいますが、残念ながら元の美しい姿に戻ることはほとんどありません。むしろ、弱った株をいつまでも置いておくと、高温多湿な環境でナメクジやダンゴムシの温床になったり、カビ病(灰色かび病など)の発生源になったりして、周囲の他の植物に悪影響を及ぼすリスクが高まります。
心が痛むかもしれませんが、梅雨入り前には「半年間ありがとう」と感謝を込めて撤去し、夏に強い植物にバトンタッチする方が賢明です。例えば、ペチュニア、サルビア、マリーゴールド、ジニアなどは、ミルフルの苦手な夏の暑さを味方につけて元気に咲き誇ります。
また、早期に撤去することで、使っていた土をリサイクルする時間も確保できます。夏の日差しを利用して土を日光消毒し、改良材を混ぜて休ませておくことで、秋にまた新しいミルフルをお迎えするための最高のベッド(土壌)を用意することができます。循環の中で楽しむことこそが、ガーデニングの醍醐味と言えるでしょう。
ミルフルの挿し芽は種苗法で禁止されている

「夏越しが難しいなら、今のうちに挿し芽をして、バックアップ苗をたくさん作っておけばいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。特に、ミルフルは一株ごとに色が違うため、「この色のクローンを残したい!」という気持ちは痛いほどわかります。しかし、ここで非常に重要、かつ絶対に知っておかなければならない法律の話があります。ミルフルは種苗法(しゅびょうほう)に基づく登録品種(PVP)です。
開発者の権利を守る「種苗法」とは
種苗法とは、新しい植物の品種を開発した人(育成者)の権利を守るための法律です。ミルフルもこの法律で守られています。例えば、農林水産省の品種登録データを確認すると、ミルフルの系統である「サンヴィオブ(登録番号第16306号)」や「サンヴィオブホ(登録番号第14702号)」などが品種登録されていることがわかります。
開発メーカーであるサントリーフラワーズ株式会社は、長い年月と莫大な研究開発費をかけて、この「フリル咲き」と「強健さ」を兼ね備えた品種を開発しました。そのため、特許と同じように、法律によって知的財産権(育成者権)が強力に保護されています。もし誰でも自由に増やして配ることができれば、メーカーは開発費を回収できず、新しい素晴らしい品種が世に出なくなってしまいます。
「家庭ならOK」は過去の話
以前は「家庭内で楽しむ範囲なら自家増殖しても良い」という例外的な解釈がなされることもありましたが、近年の法改正により、育成者の権利保護は強化される傾向にあります。メーカーの公式見解としても、営利目的でなくとも「ご自身で楽しまれる範囲を超えて増殖させることは違法」であると明確に警告されています。
特に注意が必要なのは、「悪気はなかった」では済まされないケースです。以下のような行為は、育成者権の侵害として損害賠償請求の対象になる可能性があります。
絶対にやってはいけないNG行為リスト
- 譲渡(プレゼント):自分で増やした苗を、近所の人や友人にあげること。無償であっても「譲渡」にあたり、権利侵害となります。
- フリマアプリでの販売:メルカリやヤフオクなどで、「ミルフルの挿し木苗」や「余った苗」を販売すること。これは完全に違法であり、犯罪です。
- SNSでの交換:「増えすぎたので交換しましょう」とTwitterやInstagramで呼びかけ、苗を送り合うこと。これも「譲渡」に含まれます。
私たちがルールを守ることは、回り回って、園芸業界全体の健全な発展と、将来また素敵な花に出会える未来を守ることにつながります。
(出典:農林水産省 品種登録迅速化総合電子化システム『サンヴィオブ』)
自家増殖で懸念されるウイルス病のリスク
法律の問題もさることながら、実は園芸学的な栽培リスクの観点からも、自家増殖(挿し芽など)は絶対におすすめできません。その最大の理由が「ウイルス病」の感染リスクです。これは家庭園芸において、意外と知られていない落とし穴です。
見えない敵「無症状キャリア」の恐怖
ビオラやパンジーは、植物の中でも特にウイルス病にかかりやすい品目です。代表的なものに「キュウリモザイクウイルス(CMV)」などがありますが、これらはアブラムシなどの吸汁性害虫を介してあっという間に伝染します。アブラムシがウイルスを持った植物を吸い、その口針で次の植物を吸うことで感染が広がります。
本当に怖いのは、親株がウイルスに感染していても、初期段階や気温の低い時期には、目に見える症状が出ない(無症状キャリア/潜伏感染)場合が多いことです。見た目は元気そうに見えるので、私たちは安心してその株から挿し穂を取り、挿し芽をしてしまいます。ハサミを使い回すことでも感染(汁液伝染)します。
翌春に起こる悲劇

しかし、親株がウイルスを持っていれば、そのクローン苗は100%ウイルスを受け継いでしまいます。ウイルスの濃度は植物体内で徐々に高まっていきます。そして翌年の春、気温が上がって植物の代謝が活発になった途端、以下のような症状が一斉に出始めます。
- 萎縮(ドワーフ化):葉が縮れて大きくならず、株全体が小さくなる。節が詰まりすぎてボールのようになる。
- カラーブレーク:花びらに本来ないはずの白い筋や斑点が入り、色が濁る。美しいフリルが台無しになる。
- 奇形:花や葉がいびつな形になる。
一度ウイルスに感染した植物を治療する薬剤は、現在の科学では存在しません。感染が発覚したら、他の植物への感染拡大を防ぐために、全て抜き取って焼却処分するしかないのです。土壌にもウイルスが残る可能性があるため、その土も使えなくなります。
プロの生産者さんは、ウイルスが入らないように厳重に管理された環境で、バイオテクノロジーを駆使した「ウイルスフリー苗」を生産しています。私たちが毎年秋に、プロが作った新しい苗を購入することは、単に法律を守るだけでなく、こうした病気のリスクを回避し、最高パフォーマンスの花を確実に楽しむための、最もコストパフォーマンスが良い方法なのです。
ミルフルを多年草のように長く楽しむ育て方
ここまでの解説で、夏越しや自家増殖が現実的ではないことがお分かりいただけたかと思います。では、どうすればよいのでしょうか?答えは、「ひとつのシーズン(10月〜5月)の中で、どれだけ長く、美しく、ボリュームたっぷりに咲かせきれるか」に全力を注ぐことです。約8ヶ月間、ミルフルのポテンシャルを極限まで引き出し、まるで多年草の大株のような迫力を実現するための「プロトコル(管理手順)」を詳しく解説します。
植え付け時の摘心で株を充実させる技術

苗を買ってきて植え付ける際、多くの人が躊躇してしまうけれど、実はプロが必ず行っている重要な作業があります。それが「摘心(てきしん/ピンチ)」です。
なぜ「切る」ことが「増える」に繋がるのか
お店に並んでいるミルフルの苗は、すでに一輪か二輪、可愛い花が咲いていることが多いですよね。「せっかく咲いているのに、切っちゃうなんてかわいそう!」と思うのが人情です。しかし、ここで勇気を出して、先端の芽(花がついている茎の先)をハサミでカットしてください。
植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質があります。これは、茎の一番上にある芽(頂芽)が、「オーキシン」という植物ホルモンを出して、下の脇芽の成長を抑え込んでいる現象のことです。「俺が一番先に伸びるから、お前らは待ってろ」という状態ですね。この頂芽をカットすることで、抑制ホルモンが止まり、株元から眠っていた脇芽が一斉に「出番が来た!」と動き出します。
「超満開」への先行投資
サントリーフラワーズの公式YouTubeなどでも推奨されていますが、植え付け時にこのピンチを行うことで、将来的な枝の数が2倍、3倍に増えます。枝の数が増えるということは、春に咲く花の数も単純計算で数倍になるということです。
冬が本格化する前の10月〜11月中に、花を咲かせるエネルギーを一時的に犠牲にして、「株の土台(枝数)」を作ることに全エネルギーを使わせる。これが、春に近所の人を驚かせる「ドーム状の超満開」を実現するための、最も確実な先行投資となります。切った花は、小さな花瓶に生けて楽しみましょう。
摘心の具体的な手順
- 清潔なハサミを用意します(ウイルス予防のため、ライターの火で炙るか消毒用エタノールで消毒推奨)。
- 茎の先端にある芽や花を、その下の節(葉っぱが出ている部分)の少し(数ミリ)上でカットします。
- 株全体を見て、飛び出している芽をすべてカットし、こんもりとした丸い形に整えます。
- カットした後は、速効性の液肥を薄めに与えて、新芽の成長を後押ししましょう。
厳寒期のミルフルの冬越しと水やり管理
12月から2月にかけての日本の冬は、ミルフルにとっても試練の時期です。寒冷地では雪の下になることもあります。この時期は植物の代謝が落ち、成長がほぼストップします。ここでやってしまいがちな「良かれと思ったお世話」が、実は春の不調を招く原因になります。スパルタすぎず、過保護すぎず、適切な距離感で管理しましょう。
肥料は「完全ストップ」が鉄則
一番の注意点は肥料です。寒さで根が活動していない時期に肥料を与えると、植物はそれを吸収できません。吸収されなかった肥料成分は土の中に残留し、濃度が高くなります。すると「浸透圧」の関係で、根の水分が逆に濃度の高い土の方へ吸い出されてしまい、根が脱水症状を起こして傷んでしまいます。これを「肥料焼け」と呼びます。
特に土が凍るような厳寒期(1月〜2月)は、固形肥料も液肥も完全に切ってください。「元気がないから栄養をあげなきゃ」という優しさが、逆にミルフルを追い詰めてしまいます。葉の色が紫がかることがありますが、これはアントシアニンを出して寒さに耐えている証拠ですので、心配いりません。
水やりのタイミングが生死を分ける

冬場の水やりはタイミングが命です。絶対に避けるべきは「夕方の水やり」です。夕方に水を与えると、夜間の冷え込みで鉢の中の水分が凍結します。水は氷になると体積が増えるため、膨張した氷が植物の根の細胞壁を物理的に破壊してしまいます。これが、春先に暖かくなってから「根腐れ」として現れる枯れの原因です。
必ず、朝の気温が上がってくる時間帯(9時〜10時頃)にたっぷりと与え、夕方までには余分な水分が抜けるようにしましょう。また、毎日あげる必要はありません。「土の表面が白く乾いたら」という基本を、夏以上に厳格に守ってください。鉢を持ち上げてみて、軽くなっていたらあげる、という確認方法も有効です。
春の満開を実現する肥料の与え方と時期
3月に入り、日差しが暖かくなってくると、ミルフルは長い休眠から目覚め、いよいよ「スプリング・エクスプロージョン(爆発的な開花)」の準備に入ります。新芽が動き出したこのタイミングを見逃さず、一気にアクセルを踏み込みましょう。ここでの肥料管理が、花数の桁を変えます。
アスリート並みのエネルギー消費を支える
ここで肥料を再開します。ミルフルのような「多花性(たかせい)」の品種は、次々と花を咲かせるために莫大なエネルギーを消費します。人間で言えば、毎日フルマラソンを走っているような状態です。この時期に肥料が切れると、花が小さくなったり、花色が薄くなったり、せっかくついた蕾が黄色くなって落ちたりします。
リン酸多めの液肥でブースト

おすすめの施肥メニューは以下の通りです。
- ベース(基礎体力):緩効性の固形肥料(プロミックやIB化成など)を月に1回、土の上に置きます。これがじわじわと効いて株を支えます。
- ブースト(瞬発力):1週間に1回、液体肥料(ハイポネックスなど)を与えます。
特に液体肥料を選ぶ際は、成分表(N-P-K)を見て「リン酸(P)」の数値が高いものを選ぶと効果的です。リン酸は「花肥(はなごえ)」「実肥(みごえ)」とも呼ばれ、花芽の形成を促進する働きがあります。水やりの代わりに、規定倍率(通常は1000倍〜5000倍)に薄めた液肥をたっぷりと与えましょう。「週に一度のご馳走」が、ゴールデンウィークまで途切れない満開を持続させる秘訣です。
満開後の切り戻しで再開花させる方法
春本番(3月下旬〜4月)になると、ミルフルは最盛期を迎えますが、同時に茎が伸びすぎて株の形が乱れたり(だらしなく広がる)、株元の風通しが悪くなって下葉が黄色くなったり蒸れたりすることがあります。そんな時は、思い切って「切り戻し」を行いましょう。
勇気あるカットが二度目の青春を呼ぶ

株の高さの半分、あるいは3分の1くらいまでバッサリとカットします。「こんなに切って大丈夫?枯れない?」と不安になるかもしれませんが、春のミルフルは非常に生命力が強いので大丈夫です。むしろ、古い枝をリセットすることで、株元の隠れた芽に日が当たり、再び力強く成長を始めます。
この作業を行うことで、約2週間〜3週間後には、こんもりとした美しいドーム状の姿で「二度目の満開(セカンド・フラッシュ)」を迎えることができます。伸びきった姿でなんとなくシーズンを終えるか、もう一度引き締まった美しい姿でフィナーレを飾るか、ここが分かれ道です。
切り戻しのタイムリミット
この作業は、遅くとも4月上旬までに行ってください。それ以降(4月後半〜5月)に深く切り戻すと、次の花が咲く前に気温が高くなりすぎてしまい、株が回復できずにそのまま枯れてしまうリスクが高くなります。「桜が散る頃まで」を目安にハサミを入れましょう。
ミルフルに発生しやすい病害虫と対策
春は花だけでなく、虫たちも活動を始めます。せっかく綺麗に咲いたミルフルを守るために、特に注意したいのが以下の2点です。早期発見・早期対処が鍵です。
| 病害虫名 | 特徴と対策 |
|---|---|
| アブラムシ | 【特徴】
新芽や蕾の柔らかい部分にびっしりと群生し、植物の汁を吸います。排泄物で葉がベタベタになったり、黒くなる「すす病」の原因にもなります。さらに厄介なのは、前述したウイルス病を媒介することです。 【対策】 見つけ次第、すぐに薬剤で駆除しましょう。数が少ないうちは粘着テープなどで取るのも手ですが、増えると手に負えません。予防策として、植え付け時や3月頃に「オルトラン粒剤」などの浸透移行性殺虫剤を株元に撒いておくと、植物自体が殺虫成分を持つようになり、長期間守ってくれます。 |
| 灰色かび病(ボトリチス) | 【特徴】
湿度が高い環境で発生しやすく、花びらに水がしみたようなシミができたり、灰色のフワフワしたカビが生えたりします。枯れた花(花柄)をそのままにしておくと、そこからカビが発生し、健康な葉や茎へと感染が広がります。 【対策】 「花柄摘み」は単に見た目を良くするだけでなく、この病気を防ぐための最重要作業です。花茎の根元からしっかりと摘み取りましょう。雨が続いた後は特によく観察し、カビが生えた部分はすぐに除去してください。風通しを良くすることも重要です。 |
ミルフルで楽しむハンギングや寄せ植え
最後に、ミルフルの特性を活かした楽しみ方をご提案します。冒頭で触れたように、ミルフルは遺伝的に「ほふく性」を持っています。上にまっすぐ伸びるというよりは、横に広がりながら、重みでやや枝垂れるように伸びる性質があるので、これを活かさない手はありません。
空中を彩るフリルのシャンデリア

ハンギングバスケットや、背の高いスタンド鉢(脚付きの鉢)に植えると、ミルフルが鉢の縁から溢れ出すように枝垂れ咲き、非常に豪華で立体的な演出が可能です。地面に置く鉢植えだと見えにくいフリルの繊細な表情や、花弁の裏側の微妙な色合いも、目線の高さに来ることでより詳しく楽しめます。
「一期一会」を楽しむ単独植え
また、ミルフルは「一期一会」と言われるほど、株ごとに色幅やフリルの入り方が違います。同じラベルの苗でも、二つとして同じ顔はありません。あえて他の植物と寄せ植えにせず、お気に入りの一株を単独で植えて、その個性をじっくり愛でるのも素敵な楽しみ方です。
もし寄せ植えにするなら、同じく春まで楽しめる「スイートアリッサム」の白花や、葉色が美しい「ヘデラ(アイビー)」など、ミルフルの成長を邪魔せず引き立ててくれる名脇役を選ぶと良いでしょう。色が豊富なミルフルだからこそ、鉢の色とのコーディネートを楽しむのもおすすめです。
ミルフルは多年草より一年草として楽しむ
ここまでご紹介した通り、ミルフルは植物学的な可能性を持ちながらも、私たち日本のガーデナーにとっては「秋から春までの期間限定の芸術品」です。
「多年草として残したい」という愛着もわかりますが、無理に夏越しをさせて暑さでボロボロになった株を見るよりも、毎年新しい苗を迎え入れ、その年の気候に合わせて丁寧にお世話をし、春に満開の景色を見せてくれたら「ありがとう、また来年ね」と言ってサヨナラする。そんなメリハリのあるサイクルこそが、ミルフルを一番輝かせ、そして私たち自身もストレスなく心からガーデニングを楽しめる秘訣なのかもしれません。
ぜひ今年の秋も、園芸店であなただけの特別な「運命のミルフル」を見つけて、春までの素晴らしい時間を一緒に過ごしてくださいね。My Garden 編集部でした。
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