こんにちは、My Garden 編集部です。
ベランダや窓辺を鮮やかに彩り、ヨーロッパの街並みのような雰囲気を演出してくれるゼラニウム。その特有の香りや四季咲き性の強さから、多くのガーデナーに愛されています。「この美しい花をもっと増やして、庭いっぱいに咲かせたい」と思ったことはありませんか?実は、ゼラニウムは数ある植物の中でも「挿し木(さしき)」による増殖が比較的容易な植物の一つです。しかし、簡単だと言われて挑戦してみたものの、「茎が黒く腐ってしまった」「いつまで経っても根が出ない」といった失敗を経験される方も少なくありません。
ゼラニウムの挿し木を成功させるためには、一般的な草花とは少し異なる「ゼラニウムならではのルール」を理解しておく必要があります。最適な時期はいつなのか、なぜ切り口を乾かす必要があるのか、水挿しやペットボトルを使った裏技は本当に有効なのか。これらの疑問を解消し、正しい手順を踏むことで、成功率は劇的に向上します。この記事では、初心者の方でも迷わず実践できるよう、植物の生理に基づいた具体的なノウハウと、失敗しないための極意を余すところなくお伝えします。
この記事のポイント
- 失敗を防ぐために最も重要な切り口の乾燥処理と理由
- 春と秋の適期を逃さず行うことで成功率を高める方法
- 清潔な用土選びと水のやりすぎによる腐敗リスクの回避
- 水挿しやペットボトル密閉法など代替手法のメリットと注意点
失敗しないゼラニウムの挿し木の仕方と基本手順

ゼラニウムを元気に増やすためには、ただ枝を切って土に挿すだけではうまくいかないことがあります。ここでは、植物の生理に基づいた正しい手順と、成功率をグッと高めるための基本テクニックについて、順を追って詳しく解説していきます。
ゼラニウムの挿し木に適した時期はいつか
ゼラニウムの挿し木を成功させるための最初のステップは、植物のバイオリズムに合わせた「最適な時期」を選ぶことです。結論から申し上げますと、最も適しているのは「春(4月〜6月)」と「秋(9月〜10月)」の年2回です。この推奨には、ゼラニウムの原産地である南アフリカの気候特性と、植物ホルモンの働きが深く関係しています。
まず「春(4月〜6月)」についてですが、この時期は気温が安定して上昇し、植物全体の樹液流動が活発になる「成長のゴールデンタイム」です。ゼラニウムの発根に適した地温・気温は概ね20℃〜25℃とされており、春はこの条件に自然と合致しやすいのです。冬の休眠から目覚めた株は生命力に溢れており、細胞分裂が盛んに行われるため、挿し穂(切り取った枝)からの発根スピードも格段に早くなります。さらに、春に根付いた苗は、夏が来る前に十分な根を張ることができるため、その後の厳しい暑さにも耐えうる体力を持つことができます。ただし、日本には「梅雨」という高温多湿な時期があります。ゼラニウムは過湿を極端に嫌うため、梅雨入りして湿度が90%を超えるような環境になる前に、ある程度発根を済ませておくのが理想的です。
次に「秋(9月〜10月)」です。真夏の猛暑で少しお疲れ気味だったゼラニウムも、夜温が下がってくると再び元気を取り戻し、秋の成長期に入ります。この時期は、夏に伸びすぎた枝を整理する「切り戻し剪定」を行うベストタイミングでもあります。剪定で切り落とした健康な枝を捨てずに挿し穂として利用できるため、非常に効率的です。秋に挿し木を行うメリットは、病原菌の活動が夏に比べて落ち着いていることや、蒸散量が春ほど激しくないため挿し穂がしおれにくい点が挙げられます。ただし、晩秋になって気温が15℃を下回るようになると発根能力が急激に低下するため、寒くなる前に根を出させ、冬は室内で管理するスケジュールを組む必要があります。
避けるべき「真夏」と「真冬」のリスク
夏(7月〜8月)の30℃を超える環境下では、ゼラニウムは「半休眠状態」となり、生理機能が低下します。この時期に傷口を作ると、高温多湿を好む「軟腐病菌」や「ピシウム菌」などの病原菌が瞬く間に侵入し、挿し穂がドロドロに溶けるように腐ってしまいます。一方、冬(11月〜3月)は低温により代謝がほぼ止まっています。加温設備のある温室があれば可能ですが、一般家庭の環境では発根までに1ヶ月〜2ヶ月以上かかり、その間にカビが生えたり体力を消耗しきって枯れたりするリスクが高まります。初心者の方は、無理をせず春か秋を待つのが成功への近道です。
成功率を上げる挿し穂の選び方と切り方
「親の形質は子に遺伝する」と言いますが、挿し木(クローン増殖)においては、親株の健康状態がそのまま苗の運命を決定づけます。元気で丈夫な苗を作るためには、その元となる「挿し穂(さしほ)」の選び方が極めて重要です。
挿し穂選びのチェックポイント

まず大前提として、病害虫に侵されていない健康な株を選んでください。特に葉にモザイク状の斑点や縮れがある場合はウイルス病の疑いがあり、挿し木で増やすことでウイルスを拡散させてしまうため絶対に使用してはいけません。選ぶべき枝は、「その年に伸びた、緑色の若々しい枝(新梢)」です。茎の根元の方にある、茶色くゴツゴツと木質化した古い枝は、組織が老化しており、発根に必要なホルモン活性が低いため避けるのが無難です。逆に、先端のあまりにも柔らかすぎる部分は、水分保持能力が低くすぐにしおれてしまうため、指で軽くつまんで弾力を感じる程度に充実した枝がベストです。
プロが教えるカッティング技術

枝を切り取る際は、必ず清潔で切れ味の良いハサミやナイフを使用してください。錆びたハサミや切れ味の悪い刃物で押し切るようにカットすると、切り口の道管(水の通り道)や細胞組織がつぶれて壊死し、そこから腐敗が始まってしまいます。私は作業前に、刃先をライターの火で数秒炙るか、消毒用エタノールで拭いて滅菌処理を行うことを強くおすすめします。
カットする長さは先端から10cm程度が目安ですが、重要なのは長さよりも「節(ふし)」の位置です。植物の根は、主に葉の付け根である節の部分から発生する性質を持っています。そのため、挿し穂には必ず2〜3個の節を含めるようにし、一番下の節がちょうど土に埋まる位置に来るように調整してカットします。切り口の形状については、断面積を広げて吸水を良くするために斜めにカットするのが一般的ですが、ゼラニウムの場合は乾燥処理を行うため、水平に切っても斜めに切っても発根率に大きな差はありません。
葉の調整(調製)の極意

切り取った枝は、そのままでは葉からの蒸散(水分放出)が多すぎて、根のない状態では水分収支がマイナスになり枯れてしまいます。そこで、以下の手順で葉を整理します。
- 下葉の除去:土に埋まることになる下部3〜5cmの葉は、手で優しくかき取るかハサミで切除します。土中に有機物(葉)が混入すると腐敗菌の温床になるため、徹底して取り除きます。また、茎についている「托葉(たくよう)」と呼ばれる小さなヒラヒラした部分も、カビの原因になりやすいので取り除いておくと安心です。
- 上葉の制限:先端に残す葉は2〜3枚程度に留めます。もし残した葉が大きく広がっている場合は、ハサミで葉を半分にカットして表面積を減らし、蒸散を物理的に抑制するテクニックも有効です。
- 花と蕾の全摘:これが最も辛い作業かもしれませんが、花や蕾がついている場合は、どんなに小さくても全て摘み取ってください。植物にとって開花は膨大なエネルギーを消費する一大イベントです。花がついていると栄養がそちらに奪われ、発根がおろそかになってしまいます。「今は根を出すことだけに集中してもらう」ための愛ある処置だと割り切りましょう。
切り口を乾燥させる重要性と具体的な時間

ここが、一般的な草花の挿し木とゼラニウムの挿し木の決定的な違いであり、多くの人が失敗してしまう最大の落とし穴です。アジサイやバラなどの一般的な挿し木では、切った直後に水を入れた容器に枝を立てて吸水させる「水揚げ」という工程が必須とされています。しかし、ゼラニウムでこれを行うと、高い確率で失敗します。
ゼラニウムは、乾燥した南アフリカの岩場などを原産地とする植物であり、乾燥に耐えるために茎や葉に水分をたっぷりと蓄える「多肉質(サキュレント)」な性質を持っています。切りたてのゼラニウムの切り口は瑞々しく湿っていますが、この豊富な水分と糖分は、土の中の雑菌にとっても格好の栄養源となります。湿ったままの傷口を無防備に土に埋めることは、バイ菌だらけの環境に傷口を晒すようなもので、あっという間に細菌感染(茎腐病など)を引き起こしてしまいます。
そこで行うのが、ゼラニウム挿し木の鉄則である「切り口の乾燥処理」です。
乾燥処理の具体的な手順
調整が終わった挿し穂を、直射日光の当たらない風通しの良い日陰に並べて放置します。新聞紙やキッチンペーパーの上に広げておくと良いでしょう。乾燥させる時間は、季節や湿度にもよりますが、半日〜2日程度が目安です。「そんなに放置して枯れないの?」と不安になるかもしれませんが、ゼラニウムは驚くほど強靭です。
乾燥完了のサインは、切り口の断面が白っぽくカサカサに乾き、少し収縮して「コルク状」になった状態です。この時、植物の体内では傷口を修復しようとして「カルス(癒傷組織)」の形成準備が進んでいます。カルスはカサブタのような役割を果たし、物理的に病原菌の侵入をブロックすると同時に、そこから不定根(新しい根)を作り出す土台となります。
乾燥中、挿し穂の葉が少ししおれてクタクタになることがありますが、これは全く問題ありません。むしろ、体内の水分が少し抜けることで植物ホルモン(オーキシンなど)の濃度が相対的に高まり、発根スイッチが入りやすくなるとも言われています。しっかりと乾かし、傷口を閉じてから土に挿す。この「待ちの時間」こそが、成功への最短ルートなのです。
挿し木に最適な土と用土の配合について

挿し木に使用する土(用土)選びも、成功率を左右する大きな要因です。ここで求められる条件は、「清潔であること」「肥料分が含まれていないこと」「水はけが良いこと」の3点です。
まず、「清潔であること」は絶対条件です。庭の土や、一度他の植物を育てた古い土には、目に見えなくても多くの病原菌や線虫、カビの胞子が潜んでいます。抵抗力の弱い挿し穂を植えるにはリスクが高すぎるため、必ずホームセンターなどで購入した新しい清潔な用土を使用してください。
次に「肥料分」についてです。親切心から「早く大きくなってほしい」と肥料入りの培養土を使いたくなりますが、これは逆効果です。根が出ていない状態の植物は、肥料成分(チッ素・リン酸・カリなどの塩類)を吸収できないばかりか、土中の塩分濃度が高まることで浸透圧が生じ、逆に茎の中の水分が土に奪われてしまう現象が起きます。これがいわゆる「肥料焼け」であり、発根阻害や腐敗の直接的な原因となります。
私が推奨する、失敗の少ない用土の組み合わせは以下の通りです。
| おすすめの用土 | 特徴とメリット |
|---|---|
| 赤玉土(小粒) | 最もスタンダードで失敗が少ない用土です。無菌で保水性と排水性のバランスが良く、挿し木用として最適です。単体で使用しても十分に高い発根率が見込めます。 |
| 挿し木・種まき専用培養土 | メーカーが最適なバランスで配合した土です。バーミキュライトやピートモスなどが含まれており、ふわふわとしていて根が張りやすく、初心者の方に最もおすすめです。 |
| バーミキュライト | 非常に軽量で保水性が高く、断熱性もあるため地温の変化を和らげます。赤玉土と1:1で混ぜることで、より理想的な環境を作ることができます。 |
| 鹿沼土(小粒・細粒) | 通気性が抜群に良く、水分を含むと黄色くなるため水やりのタイミングが分かりやすいのが特徴です。清潔なのでゼラニウムにも適しています。 |
容器に関しては、3号(直径9cm)のポリポットが管理しやすく一般的ですが、底に穴を開けた紙コップやプラスチックコップでも代用可能です。大切なのは、水が底に溜まらずにスムーズに抜け落ちる構造であることです。
ゼラニウムを水挿しで増やす方法と注意点
土を使わず、水を入れた容器に枝を挿して発根させる「水挿し(水栽培)」は、その手軽さと、根が出る様子を観察できる楽しさから人気のある手法です。透明なガラス瓶に挿したゼラニウムはインテリアとしても美しく、SNSなどでもよく見かけます。
手順は非常にシンプルです。土挿しと同様に下葉を処理した挿し穂を用意し、切り口を軽く乾燥させます(水挿しの場合は、乾燥させすぎると吸水できなくなることがあるため、乾燥時間は1〜2時間程度にとどめるのがコツです)。その後、容器に少量の水を入れ、茎の下部2〜3cmが浸かるようにセットします。葉が水に浸かるとそこから腐敗が広がるので注意してください。
管理のポイントは「水の鮮度」と「酸素供給」です。植物の根(および根の元となる組織)も呼吸をしています。水中の溶存酸素がなくなると窒息し、嫌気性菌(酸素を嫌う菌)が増殖して水が腐り、茎がヌルヌルになって枯れてしまいます。これを防ぐために、夏場なら毎日、涼しい時期でも2〜3日に1回は水を全交換してください。その際、容器の内側もスポンジなどで洗ってヌメリを落とすことが大切です。また、微量の発根促進剤(メネデールなど)を滴下しておくと、水質の悪化を防ぎつつ活力を与えることができます。
水挿しの隠れたデメリット「順化の失敗」
水挿しは発根させること自体は難しくありませんが、実はその後の「土への植え替え」が一番の難関です。水中で形成された根(水根)は、土中で育った根に比べて組織が脆く、乾燥に対する抵抗力がほとんどありません。そのため、水挿しで立派な根が出たからといって土に植え替えた途端、環境の激変に耐えられずにしおれてしまう「順化(じゅんか)失敗」が頻発します。これを防ぐためには、根が1cm〜2cm程度出たら、根が伸びすぎる前に早めに土に植え替えることが重要です。長く水につけておけばおくほど、土への適応は難しくなります。
ペットボトルを使った密閉挿しの手順

「密閉挿し」とは、ペットボトルを加工して簡易的なミニ温室を作り、その中で挿し木を行うテクニックです。外部からの風を遮断し、内部の湿度を高保つことで、葉からの蒸散を極限まで抑えることができます。これは特に、葉が薄く乾燥に弱い品種や、空気が乾燥しやすい時期、あるいはアイビーゼラニウムなどの挿し木に有効な手段です。
作成手順:
- 500mlの透明なペットボトル(炭酸用などの凹凸が少ないものが使いやすい)を用意し、カッターで底から10cmくらいの高さで横に切断します。この時、完全に切り離さずに一部を残しておくと、蝶番(ちょうつがい)のように開閉できるので便利です。
- 下半分の底面に、キリや熱したドライバーを使って排水用の穴を数箇所開けます。
- 下半分に湿らせた用土(バーミキュライトや赤玉土)を入れ、挿し穂を挿します。
- 上半分のパーツを被せて元通りの形にし、切断面をセロハンテープなどで留めるか、上からかぶせる形で密閉します。
この方法の最大の利点は、管理の手間が激減することです。内部は常に高湿度に保たれるため、水やりの回数はほとんどゼロに近くなります。しかし、ここに落とし穴があります。ゼラニウムは本来、風通しの良い乾燥した環境を好む植物です。密閉空間で気温が上がると、内部はサウナ状態になり、ボトリチス(灰色かび病)などのカビが一気に繁殖するリスクがあります。
対策として、ペットボトルのキャップ(蓋)は外しておき、上部からの通気を確保することをおすすめします。また、直射日光の当たる場所に置くと内部温度が異常に上昇して「蒸し焼き」になってしまうため、必ず涼しい日陰で管理してください。葉に結露した水滴がついたまま密閉するとそこから腐るので、挿入時は葉が乾いていることを確認しましょう。
発根促進剤やメネデールの効果的な使い方
挿し木は植物本来の再生能力を利用したものですが、より確実に、より早く発根させるために、科学の力を借りるのも賢い選択です。ここでは、ホームセンターなどで入手できる代表的な資材の活用法を解説します。
発根促進剤(ルートンなど)

白い粉末状の薬剤で、主成分は「α-ナフチルアセトアミド」などの合成オーキシンです。オーキシンは植物ホルモンの一種で、細胞の伸長や分化を促し、切り口のカルス形成や発根のスイッチを入れる働きがあります。使い方は、挿し穂の切り口をわずかに水で湿らせ、粉末を薄くまぶすだけです。この時、団子状になるほど厚くつけてしまうと吸水を阻害して逆効果になるため、余分な粉はトントンと軽くはたいて落とすのがプロのコツです。乾燥処理を行う場合は、ルートンをまぶしてから乾燥させても、乾燥後にまぶしても、どちらでも効果があります。
植物活力剤(メネデールなど)
こちらはホルモン剤ではなく、主に二価鉄イオンを含んだミネラル水溶液です。鉄分は植物の光合成や呼吸、酵素の活性化に不可欠な要素であり、これを吸収しやすいイオンの形で供給することで、植物の基礎体力を底上げします。挿し木における効果としては、切り口の酸化を防ぎ、水やりの水が腐るのを抑える働きがあります。挿し木直後の最初の水やりの際に、規定倍率(通常100倍)に薄めて与えると、発根までのストレスを軽減し、スムーズな活着をサポートしてくれます。毎日の水やりに使う必要はありませんが、週に1回程度与えると良いでしょう。
ゼラニウムの挿し木の仕方でよくある失敗と対策
「本やネットの通りにやったはずなのに、茎が黒くなって枯れてしまった」「隣の鉢は元気なのに、これだけ枯れた」といった経験は、誰にでもあります。しかし、失敗には必ず原因があります。ここでは、ゼラニウムの挿し木で陥りがちな失敗パターンと、その具体的な回避策について深掘りしていきます。
挿し木が失敗する主な原因は水のやりすぎ
断言しますが、ゼラニウムの挿し木が失敗する原因のNo.1は、間違いなく「水のやりすぎ(過湿)」です。
一般的なガーデニングの常識として、「挿し木苗は水を切らしてはいけない」と教わることが多いですが、乾燥に強い多肉質なゼラニウムにとって、この常識は命取りになります。土の粒子と粒子の間には、水だけでなく「空気」も含まれていなければなりません。常に土が水で飽和している状態では、切り口の細胞が呼吸できずに窒息死し、そこに嫌気性菌が繁殖して腐敗が始まります。
正しい水やりのタイミングは、「土の表面が白っぽく乾いているのを確認してから」です。指で土の表面を触ってみて、湿り気を感じるうちは水を与えてはいけません。「まだ早いかな?もう少し待とうかな?」と迷うくらいで丁度よいのです。特に、プラスチックのポットは素焼き鉢に比べて乾きにくいため、持ち上げてみて「軽い」と感じてから水を与えるくらいの慎重さが求められます。葉が少し垂れてきたとしても、それは蒸散抑制のための防御反応かもしれません。慌てて水をやる前に、必ず土の状態をチェックする癖をつけましょう。
茎が黒く変色して腐る場合の対処法

挿し木をして数日〜数週間後、茎の地際部分(土に埋まっている部分)が黒く変色し、ぶよぶよに柔らかくなって腐ってしまう症状を見たことはありませんか?これは通称「ブラックレッグ(黒脚病)」と呼ばれる現象で、ピシウム菌やリゾクトニア菌などの土壌病原菌による感染症です。
この症状が発生する主なトリガーは以下の3つです。
- 切り口の乾燥処理が不十分で、傷口が生乾きのまま植えられた。
- 古い土を再利用したため、土の中に病原菌が潜んでいた。
- 水を与えすぎて土の中が高温多湿になり、菌が爆発的に増殖した。
残酷なようですが、一度茎が黒く変色してしまった挿し穂は、もう助かりません。腐敗は驚くべき速さで維管束を通って上部へ進行し、一晩で全体が枯れ込んでしまいます。見つけ次第、直ちにその挿し穂を抜き取ってビニール袋に入れて廃棄してください。もし同じ鉢やトレイに他の挿し穂が植わっている場合は、菌が土を通じて伝染する可能性が高いため、生き残っている挿し穂を急いで抜き取り、新しい清潔な土に植え替える緊急措置が必要です。
発根までの置き場所と水やりの管理方法
挿し木直後の管理環境も成功の鍵を握ります。置き場所の正解は、「直射日光と雨の当たらない、明るい日陰」です。
「植物にはお日様が必要」と思って直射日光に当てると、葉の温度が急上昇し、蒸散作用が活発になりすぎて脱水症状を起こします。かといって、真っ暗な場所では光合成ができず、発根に必要な炭水化物を生成できません。レースのカーテン越しの柔らかな光が当たる室内や、屋外であれば直射日光を遮る樹木の下や軒下が理想的です。また、エアコンの室外機の風が当たる場所や、強風が吹き抜ける場所も、乾燥しすぎるため避けてください。
水やりに関しては、前述の通り「乾燥気味」をキープしますが、葉からの水分蒸発を抑えるために「葉水(はみず)」を行うのは非常に有効です。霧吹きを使って、朝夕に葉の表裏に水を吹きかけてあげると、土を過湿にすることなく、挿し穂周辺の湿度を高めて鮮度を保つことができます。
根が出た後の鉢上げと肥料のタイミング
順調に管理できれば、春や秋なら約3週間〜1ヶ月半ほどで発根します。土の中は見えませんが、地上部に明確なサインが現れます。茎の先端から新しい小さな葉(新芽)が展開し始め、葉の色ツヤが良くなってきたら、それは地下で根が活動を始めた証拠です。茎を軽く(本当に優しく!)引っ張ってみて、抵抗を感じるようなら発根しています。
専門的な研究によると、ゼラニウムの挿し木において、挿し木後約40日目が最も生育の良い鉢上げ(植え替え)のタイミングであるという報告もあります(出典:日本緑化工学会誌『緑化用ゼラニウムの挿し木増殖手法に関する研究』)。根が十分に回ったタイミングで、3号〜4号(直径9〜12cm)の鉢に植え替えます。
鉢上げ用の土は、もう無菌である必要はありません。ゼラニウムが好む「水はけの良い土」を用意しましょう。市販の草花用培養土に、赤玉土(小粒)や軽石(パミス)、パーライトなどを2割〜3割ほど混ぜ込んで、排水性を強化したブレンドがおすすめです。このタイミングで初めて、土に「元肥」として緩効性肥料(マグァンプKなど)を混ぜ込みます。発根直後の根は繊細なので、即効性の強い液体肥料をいきなり濃い濃度で与えるのは避け、まずは薄めの活力剤からスタートし、徐々に通常の肥料管理に移行していくのが安全です。
こんもり育てるための摘心と切り戻し

せっかく根付いた苗ですから、ひょろひョロと一本だけ背が高く伸びてしまうよりも、枝数が多く、こんもりとしたボリュームのある株に育てたいですよね。そのための魔法のテクニックが「摘心(てきしん)」、別名「ピンチ」です。
鉢上げ後、苗が10〜15cm程度の高さまで育ったら、茎の最先端にある成長点(芽の先)を、指先やハサミで摘み取ります。植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質があり、先端の芽が成長を独占しようとするホルモン(オーキシン)を出しています。先端を摘み取ることでこの抑制が解除され、下の節にある眠っていた脇芽が一斉に動き出します。
脇芽が伸びてきたら、さらにその先端を摘む…という作業を2〜3回繰り返すことで、枝数は倍々に増えていきます。枝が増えるということは、将来花が咲く場所が増えるということです。最初は勇気がいりますが、「花よりも株作り」と割り切って摘心を繰り返すことで、半年後には見違えるような豪華な株姿を楽しむことができます。
ゼラニウムの挿し木の仕方を押さえ増やす喜び
ゼラニウムの挿し木は、いくつかの重要なポイントさえ押さえれば、決して難しい技術ではありません。「切り口をしっかり乾かす」「水をやりすぎない」という、ゼラニウム特有の性質に合わせたケアを心がければ、誰でも高い確率で成功させることができます。
自分で挿し木をして育てた小さな苗が、少しずつ大きくなり、やがて初めての蕾をつけ、鮮やかな花を咲かせた時の感動は、園芸店で購入した大株とはまた違った、格別の喜びがあります。また、挿し木で株を更新(リフレッシュ)することは、老化して花つきが悪くなった親株の遺伝子を若返らせ、万が一の枯死に備える「保険」としても非常に重要です。
今回ご紹介した方法は、プロの生産者も実践している基本技術に基づいたものです。失敗を恐れず、ぜひ剪定した枝を使ってチャレンジしてみてください。植物のたくましい生命力に触れる時間は、日々の暮らしに潤いと安らぎを与えてくれるはずです。
最後に、作業前に確認できるチェックリストをまとめました。
この記事の要点まとめ
- 挿し木の適期は気温が安定する春(4〜6月)と秋(9〜10月)
- 真夏と真冬は腐敗や発根不良のリスクが高いため避けるのが無難
- 挿し穂は病気のない元気な株から緑色の新しい枝(新梢)を選ぶ
- 切り口は半日〜2日ほど日陰でしっかり乾燥させカルス形成を促す
- 土に埋まる部分の葉や花、蕾はエネルギー温存のためすべて取り除く
- 用土は肥料分を含まない清潔な赤玉土や挿し木専用土を使う
- 水挿しも可能だが土への順化が難しいため基本は土挿しが推奨される
- ペットボトル密閉は湿度維持に有効だが蒸れによるカビに注意する
- 挿し木後の水やりは土の表面が乾いてから行い過湿を徹底的に防ぐ
- 茎が黒く腐る主な原因は水のやりすぎと切り口の乾燥不足にある
- 置き場所は直射日光と風の強い場所を避けた明るい日陰がベスト
- 発根促進剤やメネデールを適切に使うと成功率と発根スピードが上がる
- 発根のサインは新芽の展開で確認しむやみに抜いて確認しない
- 鉢上げ時は水はけの良い草花用培養土を使い緩効性肥料を混ぜる
- こんもり育てるために成長したら摘心(ピンチ)を行い枝数を増やす
お気に入りのゼラニウムが増えていく様子は、見ていてとても嬉しいものです。ぜひ今回の方法を参考に、ご自宅のガーデンを華やかに彩ってみてくださいね。ただし、植物の成長は環境によって大きく変わりますので、最終的な判断はご自身の環境に合わせて調整してください。専門家にご相談されるのも良い方法です。
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