こんにちは、My Garden 編集部です。
窓辺やベランダを一年中彩ってくれる、丈夫で華やかなゼラニウム。ヨーロッパの街並みを思わせるその姿は、多くのガーデナーにとって特別な存在ですよね。
でも、そんな愛着のあるゼラニウムをふと見たとき、鮮やかな緑色だったはずの葉が、いつの間にか白く変色していてドキッとした経験はありませんか?「もしかして枯れてしまう前兆なの?」「何かの病気に感染したのかも……」と、不安になってしまうのは当然のことです。
実は、ゼラニウムの葉が白くなるという現象には、いくつかの明確なパターンと原因が存在します。それは、日本の過酷な夏の暑さに対する植物なりの「悲鳴(生理障害)」であることもあれば、カビや目に見えない小さな害虫による「感染症」である場合、あるいは土の中で特定の栄養素が吸えなくなって起きる「欠乏症」である場合もあります。
それぞれの症状は、発生する時期や場所、そして「どのような白さなのか」という見た目の特徴が異なります。原因を正しく見極めることさえできれば、慌てずに適切な処置を行うことができ、多くの場合、再び元気な緑色の葉を取り戻すことが可能です。この記事では、植物生理学の視点も交えながら、葉が白くなるメカニズムを深く掘り下げ、初心者の方でも実践できる具体的な解決策を徹底的に解説していきます。
この記事のポイント
- 夏場に新芽が白くなるのは「サマー・ホワイト」と呼ばれる高温障害の可能性が高い
- 粉をまぶしたような白さは「うどんこ病」、カスリ状の白点は「ハダニ」を疑う
- 葉脈を残して白くなるのは「鉄欠乏」などの微量要素不足によるクロロシス
- 症状に合わせた環境改善(遮光、移動)と、適切な薬剤選びが復活の鍵となる
ゼラニウムの葉が白くなる主な原因と見分け方
ゼラニウムの葉色が抜けて白っぽくなってしまう現象には、植物自体が感じている環境ストレスや、外部からの物理的な攻撃など、いくつかの原因が複雑に絡み合っていることもあります。まずは、目の前の症状が「環境や生理的なもの」なのか、それとも「病気や害虫といった生物的なもの」なのかをじっくりと観察して特定することが、解決への第一歩です。ここでは、主な5つの原因について、その特徴とメカニズムを詳しく見ていきましょう。
夏に多発する高温障害とサマーホワイト

日本の夏、特に梅雨明けの7月下旬から残暑が厳しい9月上旬にかけて、ゼラニウムの栽培で非常によく見られる現象があります。それが「サマー・ホワイト(Summer White)」、日本語では「高温障害による白化」と呼ばれる現象です。
この症状の最大の特徴は、まるで美しい斑入り品種(バリエガータ)になったかのように、株の先端から出る新しい葉が真っ白、あるいは淡いクリーム色になって展開することです。一見すると綺麗に見えることもありますが、これはゼラニウムにとっては深刻なSOSサインであり、決して楽観視できる状態ではありません。
なぜ夏に葉が白くなるのか?そのメカニズム
ゼラニウム、特に私たちが園芸店でよく目にするゾナル系(Pelargonium x hortorum)やアイビー系(Pelargonium peltatum)は、もともと南アフリカのケープ地方を原産としています。この地域は地中海性気候に近く、夏は乾燥していて涼しく、夜温もしっかりと下がります。つまり、ゼラニウムは日本の「高温多湿」で「夜も気温が下がらない熱帯夜」という環境が大の苦手なのです。
植物は、昼間に光合成を行ってエネルギー(炭水化物)を作り、夜間に呼吸を行ってそのエネルギーを消費しながら成長します。しかし、気温が30℃を超え、夜間の温度も25℃を下回らないような日が続くと、植物の呼吸量は激増します。すると、昼間に作ったエネルギーよりも夜間に消費するエネルギーの方が多くなってしまい、植物体は慢性的な「エネルギー欠乏状態」に陥ります。
この極度のストレス下では、植物は生き残ることを最優先にするため、エネルギーコストの高い「葉緑体(クロロフィル)」の合成を一時的にストップさせてしまいます。その結果、細胞分裂が活発で最もエネルギーを必要とする成長点の新しい葉において、色素が入らないまま葉の形だけが作られてしまい、真っ白な状態で展開することになるのです。これは、いわば夏バテをして顔色が真っ青(真っ白)になっている状態と言えるでしょう。
サマー・ホワイトを見分ける3つの特徴
- 発生部位: 株の最上部にある新しい葉(新芽)だけが白くなり、下の方にある古い葉は緑色のままであることがほとんどです。
- 色の質感: カビのような粉っぽさは一切なく、葉の組織自体はツヤがあり、みずみずしさを保っています。触ってもしっかりとしており、茶色く枯れ込んでいる(壊死している)わけではありません。
- 発生時期: 30℃を超える日が続く真夏に集中して発生し、秋になって涼しくなると自然に緑色の葉が出てくるようになります。
多くの初心者が、この白い葉を見て「栄養が足りないのかもしれない」と勘違いし、肥料や活力剤をたっぷりと与えてしまうミスを犯します。しかし、高温で弱っている時に肥料を与えるのは、人間で言えば高熱を出している時に脂っこいステーキを無理やり食べさせるようなものです。消化不良(根の浸透圧障害)を起こして、逆に枯らしてしまう原因になりますので、この時期の施肥は絶対に控えるようにしましょう。
うどんこ病による白い粉とカビの症状

葉の表面に、まるで小麦粉を薄く振りかけたような、あるいは白いチョークの粉がついているような汚れが見られる場合は、生理障害ではなく「うどんこ病(Powdery Mildew)」というカビ(糸状菌)の一種による感染症です。これは放置すると風に乗って周囲の植物にも次々と広がる伝染性の病気ですので、見つけ次第、早急かつ徹底的な対処が必要です。
うどんこ病の白い粉の正体は、植物の表面で繁殖した病原菌の「菌糸」と「胞子」そのものです。初期段階では、葉の一部にポツポツと小さな白い円形のスポットが現れる程度ですが、条件が揃うと爆発的なスピードで増殖します。数日のうちに葉の表面全体、裏側、茎、蕾、さらには花首へと広がり、株全体が雪をかぶったように真っ白になってしまいます。
菌糸が葉の表面を覆い尽くしてしまうと、植物は物理的に日光を遮断され、光合成を行うことができなくなります。その結果、栄養を作れずに徐々に衰弱していきます。さらに、うどんこ病菌は植物の表皮細胞に「吸器」と呼ばれる器官を差し込み、植物の栄養分を直接吸い取って生活しています。被害を受けた葉は、栄養を奪われて波打つように変形したり、黄色く変色して早期に落葉したりします。最悪の場合、株全体の生育が止まり、枯死に至ることもあります。
うどんこ病が発生しやすい環境のパラドックス
一般的に「カビ」といえばジメジメした湿気を好むイメージがありますが、うどんこ病菌は少し特殊です。実は、「空気中の湿度は低い(乾燥気味)が、株元や土壌は湿っている」ような環境、あるいは「昼夜の寒暖差が大きい」環境で胞子が最も発芽しやすいのです。
- 春(4月〜6月)と秋(9月〜11月): 昼間は暖かく、夜は涼しいといった気温差が激しい時期に多発します。
- 風通しの悪さ: ベランダの奥まった場所や、株同士が密着して空気が淀んでいる場所は菌の温床になります。
- 窒素過多: 肥料(特に窒素分)を与えすぎて、葉が濃い緑色になり、軟弱に徒長している株は、表皮が薄くなっているため菌が侵入しやすく、格好の標的になります。
白い粉を見つけた際、手で払ったり息でフッと吹き飛ばしたりするのは絶対にNGです。目に見えない微細な胞子が舞い上がり、隣にある健康な葉や、大切に育てている他の植物へと感染を広げてしまうからです。静かに被害葉を取り除くか、濡れたティッシュなどで優しく拭き取り、すぐに殺菌剤による処置を行う必要があります。
栄養不足や鉄欠乏で葉色が薄くなる理由

土壌の栄養バランスが崩れることでも、葉の色が白く抜ける「クロロシス(白化現象)」という症状が現れます。植物が健康な緑色を保つためには、窒素、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛など様々な元素が必要です。その中でも、ゼラニウムにおいて「葉が鮮やかに白くなる」症状として最も特徴的なのが、微量要素である「鉄(Fe)」の欠乏です。
鉄は、植物の葉の緑色のもとである「クロロフィル(葉緑素)」そのものの構成成分ではありません。しかし、クロロフィルを合成するための酵素の働きを助ける、非常に重要な触媒の役割を担っています。つまり、鉄が不足すると、工場(葉)はあるのに機械(酵素)が動かず、新しいクロロフィルが作られなくなってしまうのです。その結果、葉の色が抜けて白くなってしまいます。
鉄欠乏性クロロシスの見分け方:
鉄は植物体内で一度吸収されると、他の場所へ移動しにくい(再転流しにくい)性質を持っています。そのため、土壌からの供給が絶たれると、植物は古い葉にある鉄を回収して新しい葉へ送ることができません。その結果、症状は必ず「株の先端にある新葉(上位葉)」から現れます。
具体的な見た目としては、葉の構造を支える「葉脈(葉の筋)」の部分だけは緑色が残り、葉脈と葉脈の間の組織が黄色から白へと色が抜けていく症状(Interveinal Chlorosis)を示します。網目状の緑色がくっきりと残るのが特徴です。進行すると、葉全体が美しいほどの象牙色(アイボリーホワイト)になり、最終的には光合成ができずに茶色く壊死してしまいます。
なぜ鉄不足が起きるのか?「石灰誘発性クロロシス」
実は、日本の一般的な園芸用土において、鉄分そのものが絶対的に不足しているケースは稀です。ではなぜ鉄欠乏が起きるのでしょうか?その最大の原因は、土壌pH(酸度)の上昇にあります。
鉄などの微量要素は、土が酸性の状態では水に溶けやすく根が吸収しやすい形(可給態)になっていますが、土がアルカリ性に傾くと、水に溶けない形(不溶態)に化学変化してしまい、根が吸収できなくなってしまいます。ゼラニウムは弱酸性(pH 6.0〜6.5程度)の土壌を好みますが、日本の水道水は多くが中性〜弱アルカリ性(pH 7.0〜7.5)です。長期間水道水で水やりを続けていたり、コンクリート成分が溶け出したり、あるいは石灰質(カルシウム)の多い肥料を与え続けたりすると、鉢の中の土が徐々にアルカリ性へと変化していきます。これを「石灰誘発性クロロシス(Lime-induced chlorosis)」と呼びます。
その他の栄養欠乏との違い:
- マグネシウム欠乏(Mg): マグネシウムは植物体内を移動しやすいため、不足すると植物は古い葉からマグネシウムを回収して新芽に送ります。そのため、「下の方の古い葉」から葉脈間の黄化が始まります。
- 窒素欠乏(N): 植物全体の生育が悪くなり、「古い葉から全体的に」色が薄く黄色くなります。鉄欠乏のような鮮やかな白さにはなりません。
ハダニや害虫被害による白い斑点の正体

葉の色が全体的にグラデーションのように白くなるのではなく、針でつついたような細かい白い点々(斑点)が無数に集まって白っぽく見える場合は、生理障害ではなく「ハダニ(Spider Mites)」などの吸汁性害虫の仕業である可能性が極めて高いです。
ハダニは、体長0.5mmにも満たない非常に小さなクモの仲間です。主に葉の裏側に寄生し、鋭い口針を植物の細胞に突き刺して、中の栄養分(葉緑素を含む汁液)をチューチューと吸い取ります。吸われた細胞はその部分だけ空っぽになって空気が入り白くなるため、葉の表面から見ると小さな白い点(カスリ状の斑点)として現れるのです。
初期の段階では、葉の一部にかすれ模様が出る程度で、あまり気に留めないかもしれません。しかし、ハダニの繁殖力は凄まじく、メスは1日に数個の卵を産み、わずか10日ほどで卵から成虫になります。条件が揃うと「ネズミ算」ならぬ「ハダニ算」式に爆発的に増えます。被害が進行すると、無数の白い点が繋がって、葉全体が白っぽくぼやけた色(退色した色)になり、光合成能力を失って枯れ落ちてしまいます。さらに重症化すると、葉や茎、つぼみに微細なクモの巣のような糸を張り巡らせ、植物を完全に覆い尽くして窒息させ、枯死させてしまうこともあります。
ハダニ被害の確認方法
ハダニは非常に小さいため、肉眼ではただのゴミに見えることがあります。以下の方法でチェックしてみましょう。
- 葉の裏を見る: 葉を裏返して、じっと目を凝らします。赤い、または半透明の小さな粒がチョコチョコと動いていればハダニです。
- ティッシュ法: 白いティッシュペーパーや白い紙を葉の裏に当て、指で軽くこすってみてください。もし紙に赤や茶色の筋状の汚れがつけば、それは潰れたハダニの体液ですので、寄生している確実な証拠です。
ハダニは「高温乾燥」を何よりも好みます。梅雨明け後の雨が降らない時期や、ベランダの軒下で雨が当たらない場所にある鉢植えは、ハダニにとって天国のような環境です。逆に「水」には非常に弱いので、定期的な水やりや、葉の裏に水をかける「葉水(シリンジ)」が有効な予防策になります。
ウイルス病やモザイク病の危険なサイン

最も警戒すべき、そして最も悲しい原因が、ウイルスによる感染症です。ゼラニウムはウイルス病にかかりやすい植物の一つであり、代表的なものに「モザイク病」や「ペラルゴニウム・フラワーブレイクウイルス」などがあります。これらの症状の一つとして、葉に白や黄色の不規則な模様が現れることがあります。
ウイルス病による白化は、生理障害や栄養不足のような規則性がなく、「不規則で歪なパターン」を示すことが多いです。葉の緑色の部分と、色が抜けた白や黄色の部分が、モザイク画のように入り混じった「モザイク模様(Mosaic pattern)」が現れます。また、単なる色の変化だけでなく、以下のような奇形を伴うのが最大の特徴です。
- 葉の変形: 葉が不自然に縮れる、波打つ、表面がボコボコと凸凹に変形する。
- 矮化(わいか): 節と節の間が極端に詰まり、株全体が小さく萎縮して成長が止まってしまう。
- 花の変化: 花弁に本来ないはずの白い絞り模様が入ったり、色がまだらになったりする(カラーブレイク)。
高温障害の「サマー・ホワイト」と混同しやすいですが、サマー・ホワイトの場合は葉の形自体は正常でツヤがあり、涼しくなれば回復します。一方、ウイルス病は一度感染すると、植物の細胞内でウイルス遺伝子が組み込まれて増殖し続けるため、二度と治ることはありません。現代の科学をもってしても、植物のウイルス病を治療して元の状態に戻す薬剤は存在しないのです。
主な感染ルートは、アブラムシやアザミウマなどの吸汁性害虫が、ウイルスを持った植物の汁を吸った後に健全な植物を吸うことで移る「虫媒伝染」と、剪定ハサミや手についた汁液を介して移る「接触伝染(器具伝染)」です。
苦渋の決断が必要です
もしウイルス病の疑いがある株を見つけたら、非常に残念ですが、「即座に処分」するしかありません。もったいないからと残しておくと、アブラムシやアザミウマなどが媒介して、庭やベランダにある他の大切な植物たちへ次々と感染を広げてしまう「感染源(パンデミックの中心地)」になってしまいます。鉢土ごとビニール袋に入れて密閉し、燃えるゴミとして廃棄してください。使用したハサミや鉢も、熱湯や塩素系漂白剤で徹底的に消毒する必要があります。
ゼラニウムの葉が白くなる時の効果的な対策
原因を特定できたら、次は具体的なアクションプランに移りましょう。ゼラニウムの生命力を信じて、適切なサポートを行えば、多くの場合は回復させることができます。ここでは、環境改善からプロも実践する薬剤の使い方まで、効果的な対策を網羅しました。
夏場は半日陰へ移動させ復活を待つ方法
「サマー・ホワイト」などの高温障害が見られた場合、特効薬は「物理的に環境を涼しくすること」に尽きます。植物が暑さでバテている時に、活力剤以外の余計なものを与えるのは逆効果です。まずは植物を休ませるための環境づくりを徹底しましょう。
1. 遮光ネットの活用

直射日光、特に強烈な西日は葉の温度を急激に上昇させ、クロロフィルの分解を加速させます。これを防ぐために、遮光率30〜50%程度の遮光ネット(寒冷紗)を使用し、人工的な日陰を作ってあげましょう。ネットの色は、熱を吸収してしまう黒色よりも、熱を反射する「シルバー(銀色)」や「白」がおすすめです。黒色はネット自体が熱を持ってしまうため、植物との距離が近いと逆効果になることがあります。
2. 置き場所の最適化(避暑地の作成)
可能であれば、鉢をより涼しい場所へ移動させます。理想的なのは、午前中の柔らかな光だけが当たり、午後からは建物の影になるような「東側の軒下」です。風通しが良いことも重要で、空気が動くことで植物の蒸散作用が促され、体温を下げる効果(気化熱)が期待できます。エアコンの室外機の風が直接当たるような場所は、極度の乾燥を引き起こすため絶対に避けてください。
3. 地熱(輻射熱)からの保護
見落としがちなのが、ベランダのコンクリート床からの照り返しです。真夏のコンクリートは50℃〜60℃にも達し、床に直置きした鉢の中は、まるでサウナやお湯の中に根を入れているような状態になります。根が煮えてしまうと、水分吸収ができなくなり、葉の白化だけでなく枯死に直結します。
鉢を浮かせる工夫:
ポットフィート、フラワースタンド、レンガ、木製のすのこなどを利用して、鉢底を地面から5cm〜10cm以上浮かせましょう。これだけで鉢底の風通しが確保され、地熱の影響を大幅にカットできます。また、「二重鉢(鉢カバー)」にして鉢の側面に直射日光が当たるのを防ぐのも有効な断熱テクニックです。
変色した白い葉は切り取るべきかの判断
白くなってしまった葉を見て、「見栄えが悪いから切ってしまいたい」と思うかもしれません。しかし、切るべきか残すべきかは、その原因によって判断が分かれます。間違って切ってしまうと、回復を遅らせることにもなりかねません。
- 高温障害(サマー・ホワイト)の場合: 【切らない】
これが最も重要です。白くなった新葉は、葉緑素が少ないため光合成能力は低いですが、植物体の一部として生きています。また、葉には水分や養分を貯蔵する役割もあります。涼しくなってくれば緑色が戻る(再緑化する)可能性が高いため、あわてて切らずに見守りましょう。むやみに葉を減らすと、株の体力が落ちて夏越しがさらに厳しくなります。 - うどんこ病の場合: 【程度による】
初期の小さな斑点なら薬剤散布で治療可能ですが、葉全体が真っ白になっているような重症の葉は、菌の巣窟となっています。回復も見込めないため、他の葉への感染源とならないよう、速やかに切り取ってビニール袋に密閉して処分します。 - ハダニ・害虫被害の場合: 【ひどいものは切る】
ハダニに吸汁されて真っ白にかすれた葉は、光合成機能が失われており、元には戻りません。見た目が悪く、ハダニの卵が残っている可能性もあるため、美観を損なうレベルのものは剪定して、新しい葉の展開を促した方が衛生的です。 - 枯死している(茶色い)場合: 【切る】
茶色くカリカリになった部分は死んだ組織です。放置すると灰色かび病(ボトリチス病)などの原因になるため、こまめに取り除きましょう。
肥料焼けや欠乏症を改善する土壌管理
鉄欠乏などのクロロシスが見られる場合、土壌環境の改善が必要です。単純に鉄分を与えるだけでなく、根がそれを吸収できる状態に整えてあげることがプロの技です。
1. 葉面散布による即効治療

土壌pHの問題で根から栄養が吸えない場合、最も素早く効果が出るのは、葉から直接栄養を入れる「葉面散布(Foliar Feeding)」です。
鉄分を含む活力剤(例:メネデール、リキダスなど)や、キレート鉄配合の液体肥料を、規定の倍率(通常より薄めが良い場合もあります)で水に溶かし、霧吹きで葉の表と裏にたっぷりとスプレーします。早ければ数日で葉色が改善し始めます。これはあくまで対症療法ですが、弱った株を救うための緊急処置として非常に有効です。
2. 土壌pHの調整
根本的な解決には、アルカリに傾いた土を弱酸性に戻す必要があります。しかし、植え替え適期でない時期(真夏や真冬)に土を入れ替えるのはリスクがあります。その場合は、「ピートモス(酸度未調整)」を土の表面に少し混ぜ込んだり、酸性肥料(硫安など)を少量施したりすることでpHを下げる方法があります。ただし、調整は難しいので、自信がなければ次の植え替え時期(春か秋)まで葉面散布でしのぎ、植え替え時に新しい培養土(市販のゼラニウム専用土や草花用培養土)に全交換するのが一番確実です。
肥料焼けに注意:
葉色が悪いからといって、安易に化成肥料を大量に与えるのは厳禁です。特に夏場や乾燥気味の時に濃い肥料を与えると、土壌の浸透圧が高くなり、根から水分が奪われる「肥料焼け」を起こします。肥料焼けした根は機能を失い、葉の白化や枯れ込みをさらに悪化させます。「元気がない時は肥料ではなく活力剤」を合言葉にしましょう。
薬剤散布やオルトラン等の正しい使い方

病害虫が原因であると特定できた場合、被害拡大を防ぐために化学薬剤(農薬)の使用は非常に有効な手段です。適切に使用すれば、植物への負担も最小限に抑えられます。
| 薬剤名・タイプ | 主な対象 | 特徴・プロのアドバイス |
| オルトラン
(粒剤・水和剤) |
アブラムシ
アザミウマ ヨトウムシ(若齢) |
【浸透移行性】
株元にばら撒くだけで、根から成分が吸収されて植物全体に行き渡り、汁を吸った虫を退治します。効果が長期間持続するため、植え付け時や春・秋の発生前の「予防」として最適です。 |
| ベニカXスプレー類
(混合剤) |
うどんこ病
アブラムシ ケムシ類 |
【殺虫+殺菌】
殺虫成分と殺菌成分がブレンドされており、これ一本で病気と虫の両方を同時に叩けます。手軽ですが、頻繁に使いすぎると耐性がつくので注意が必要です。 |
| ダコニール1000
(保護殺菌剤) |
うどんこ病
灰色かび病 斑点病 |
【強力な予防】
広範囲のカビ(真菌)に対して高い効果を発揮します。病原菌が侵入するのを防ぐ「予防効果」に優れているため、雨が続く予報の前などに散布しておくと鉄壁の守りになります。 |
| カリグリーン
(治療剤) |
うどんこ病
さび病 |
【治療効果】
炭酸水素カリウムを主成分とする、環境に優しい薬剤です。すでに発生してしまったうどんこ病を治療する効果があります。 |
薬剤抵抗性(耐性菌)について
同じ系統の薬剤(作用機序が同じもの)ばかりを連続して使用し続けると、生き残った菌や害虫が抵抗性を持ち、薬が効かなくなってしまうことがあります。これを防ぐためには、系統の異なる薬剤を順番に使う「ローテーション散布」が推奨されています。詳しくは、農林水産省が公開している防除指針なども参考に、賢く薬剤を選びましょう。
(出典:農林水産省『病害虫の総合的防除(IPM)』)
重曹や酢を活用したうどんこ病対策
「ベランダ菜園で野菜も育てているから、あまり強い農薬は使いたくない」「ペットや小さな子供がいるので心配」という方には、どこの家庭にもある食品成分を利用した「自然派スプレー(特定防除資材)」の自作がおすすめです。
1. お酢スプレー(Vinegar Spray)
お酢に含まれる酢酸には、殺菌作用と、一部の害虫に対する忌避効果があります。
- 作り方: 穀物酢や米酢を水で20倍〜50倍に薄めます。(例:水500mlに対して酢10ml〜25ml)
- 使い方: うどんこ病が発生している葉にたっぷりとスプレーします。
- 注意点: 濃度が濃すぎると酸によって葉が焼けて変色してしまうので、必ず薄めから試してください。
2. 重曹スプレー(Baking Soda Spray)
重曹(炭酸水素ナトリウム)の水溶液は弱アルカリ性を示します。酸性を好むうどんこ病菌に対し、pHを変化させることで菌の活動を抑えたり、菌糸の細胞壁を壊したりする効果があります。
- 作り方: 水500mlに対し、重曹を小さじ1杯(約5g)溶かします。
- 展着剤の工夫: そのままだとサラサラして葉に付着せず流れ落ちてしまうため、台所用洗剤を1〜2滴、またはオリーブオイルなどの植物油を数滴混ぜてよく振ります。こうすることで、葉や菌への付着性が高まり、効果が持続します。
これらの自然派資材は安全性が高い反面、化学農薬に比べると効果の持続性は低いです。「週に1回散布する」など、こまめなケアが必要になります。また、雨が降るとすぐに流れてしまうので、雨上がりの再散布も忘れずに行いましょう。
葉が透けるヨトウムシ被害の早期発見

葉が白くなるというより、「葉の一部が薄皮一枚残して透けて白く見える(スケルトン化)」状態であれば、それはヨトウムシ(ヨトウガの幼虫)やハマキムシなどの食害特有のサインです。
ヨトウムシは「夜盗虫」の名が示す通り、昼間は土の中に隠れていて、夜になると這い出してきて葉をムシャムシャと食べます。しかし、孵化したばかりの若齢幼虫はまだアゴの力が弱く、葉を噛み切って穴を開けることができません。そのため、集団で葉の裏側に張り付き、柔らかい葉肉部分だけを削り取るように食べます。その結果、表皮だけが残って白く透けた状態になるのです。
早期発見のラストチャンス:
この「白く透けた葉」を見つけたら、即座に行動してください。その葉の裏側には、数ミリの小さな幼虫が何十匹、時には何百匹と群生しているはずです。この段階で葉ごと切り取ってビニール袋で処分すれば、被害を最小限に食い止められます。
もし見逃してしまうと、幼虫たちは散り散りに移動し、成長して食欲旺盛な大型のイモムシになります。そうなると、一晩でゼラニウムが丸坊主にされるほどの被害を受けることもあります。大きくなったヨトウムシは薬剤にも強くなるため、この「透かし食い」の段階で叩くことが勝利の鍵です。
ゼラニウムの葉が白くなる現象のまとめ
ゼラニウムの葉が白くなる現象は、植物からのSOSサインですが、その原因はさまざまです。まずは慌てずに症状をよく観察し、それが季節的な生理現象なのか、病気や害虫によるものなのかを見極めましょう。
特に夏場のサマー・ホワイトは、多くの栽培者が経験する現象です。無理に肥料や薬を与えず、涼しい環境を作って秋を待つことが、植物にとっても一番の薬になります。正しい知識を持ってケアをしてあげれば、ゼラニウムはまた美しい緑の葉と鮮やかな花を見せてくれるはずです。
この記事の要点まとめ
- ゼラニウムの葉が白くなる原因は高温障害、病気、栄養不足など多岐にわたる
- 夏場に新葉が白くなるのは「サマー・ホワイト」と呼ばれる高温障害である
- サマー・ホワイトは可逆性があり、秋に気温が下がれば緑色に戻ることが多い
- 高温障害の対策は遮光や風通しの確保など、物理的な環境改善が基本
- 葉に白い粉がついている場合は「うどんこ病」というカビの病気である
- うどんこ病は乾燥と寒暖差を好むため、春と秋に発生しやすい
- 葉脈を残して葉が黄色や白になるのは鉄やマグネシウムの欠乏症(クロロシス)
- 鉄欠乏は土壌のpHがアルカリ性に傾くことで起きやすい
- 栄養不足にはキレート鉄などの活力剤を葉面散布するのが効果的
- 細かい白い斑点がカスリ状に広がるのはハダニによる吸汁被害
- ハダニは葉の裏に寄生するため、葉水を行うことで予防できる
- 葉がモザイク状に白くなり縮れる場合はウイルス病の疑いがあり、処分が必要
- オルトランやベニカなどの薬剤は症状に合わせて適切に使用する
- 重曹や酢の希釈液は、うどんこ病の初期対策として家庭でも作れる
- 葉が透けて白く見えるのはヨトウムシの初期食害痕であり、早期発見が鍵
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