こんにちは、My Garden 編集部です。
つる植物の女王とも呼ばれ、その高貴な咲き姿でガーデニング好きなら一度は憧れるクレマチス。鉢植えでコンパクトに楽しむのも素敵ですが、お庭のフェンスやアーチいっぱいに花を咲かせる地植え(露地栽培)には、何にも代えがたい特別な魅力がありますよね。自分の身長よりも高く伸びたつるに、数え切れないほどの花が風に揺れる光景は、まさに圧巻の一言です。
でも、いざ「庭に植えてみよう!」と思い立っても、インターネットや園芸書を開くと「移植を嫌う」「剪定が難しい」「立ち枯れ病が怖い」といった少し不安になるワードが並んでいて、「クレマチスの育て方として、地植えに適した時期は一体いつがベストなの?」「日当たりや強烈な西日はどう対策すればいいの?」とカレンダーや庭を見渡して悩んでしまいませんか。大切に育ててきた株や、奮発して買った苗を絶対に枯らしたくないからこそ、土作りや植え付けの手順には慎重になりますよね。実は、クレマチスは一度地面に下ろすと場所を動かすのが非常に難しい植物なので、最初の環境作りと植え付け方が成功の8割を握っていると言っても過言ではないのです。
この記事では、初めて地植えに挑戦する方でも迷わず作業できるように、プロも実践する場所選びの基準から、失敗しない土のブレンド、そして最も重要な「深植え」の具体的な手順まで、私の経験談も交えながら徹底的に詳しくご紹介していきます。この記事さえ読めば、あなたの庭でクレマチスがいきいきと根を張り、美しい花を咲かせる未来がぐっと近づくはずです。
この記事のポイント
- 地植えに最適な時期や場所選びと土作りの基本
- 失敗を防ぐための深植えの手順や誘引のコツ
- 系統によって異なる剪定方法と肥料の与え方
- 立ち枯れ病の原因と復活させるための対策
初心者必見のクレマチスの育て方と地植えの基本
クレマチスを地植えにする最大のメリットは、何といっても「根域制限(こんいきせいげん)」からの解放です。鉢植えという限られたスペースから、広大な大地へと根を伸ばせるようになることで、株のスタミナが段違いにつき、圧倒的な花数を咲かせられるようになります。しかし、一度植えてしまうと簡単にはリセットできません。「やっぱりこっちの場所じゃなかった!」と後悔しないために、まずはクレマチスが心から安らげる環境づくりについて、じっくりと学んでいきましょう。
日当たりや西日を考慮した植える場所の選び方
植物にとって太陽の光は食事そのものです。クレマチスも基本的にはお日様が大好きで、豊富な光合成によって生成された炭水化物が、あの鮮やかな花色やたくさんの蕾を作るためのエネルギー源となります。そのため、場所選びにおいては「1日最低でも4時間以上」の日照時間を確保できるかどうかが、最初の重要なチェックポイントになります。理想を言えば、朝から午後にかけて半日以上、柔らかい日が当たる場所がベストです。
もし日照時間が不足するとどうなるでしょうか。単に「花が少ない」だけで済めば良いのですが、太陽を求めて茎(つる)がひょろひょろと間延びして徒長(とちょう)し、組織が軟弱になってしまいます。こうなると、うどんこ病などの病気にかかりやすくなったり、アブラムシなどの害虫に狙われやすくなったりと、トラブル続きの原因になります。「せっかく植えたのに、葉っぱばかり茂って花が咲かない」という悩みの多くは、実はこの日照不足が根本原因であることが多いのです。
真夏の西日対策と「頭寒足熱」の法則
「日当たりが好きなら、一日中日がガンガン当たる南西の角でもいいの?」と思われるかもしれませんが、ここで少し注意が必要です。近年の日本の夏は、植物にとっても過酷なほどの高温多湿です。特に夕方の強烈な西日は、クレマチスの体力を奪う大きなストレス要因になります。
ここで皆さんにぜひ覚えておいていただきたいのが、クレマチス栽培の黄金ルールである「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」という言葉です。
頭寒足熱(ずかんそくねつ)のメカニズム

これは、植物の「地上部」と「地下部」で、それぞれ好む温度環境が全く異なることを示した言葉です。
- 頭(地上部の茎や葉):太陽の光を浴びて光合成を活発に行いたいので、明るい日向を好みます。
- 足(地下部の根):地温の上昇や乾燥を極端に嫌うため、ひんやりと冷涼で湿り気のある日陰を好みます。
特にクレマチスの根は、地温が30度を超えると呼吸活動が激しくなりすぎてエネルギーを消耗し、吸水機能が低下してしまいます。人間で言うところの「夏バテ」状態になり、最悪の場合は根腐れを起こしてしまうのです。
この「頭寒足熱」の理想的な環境を地植えで再現するためには、いくつかの工夫が必要です。最も手軽で効果的なのは、株元への徹底的なマルチングです。バーク堆肥、腐葉土、ウッドチップ、あるいは稲わらなどを、株元を中心に半径30cm〜50cm程度の範囲に、厚さ3cm〜5cmほどたっぷりと敷き詰めましょう。これにより、直射日光による地温の急上昇を防ぐだけでなく、土壌水分の蒸発を抑え、根に適度な湿度をもたらしてくれます。
また、「コンパニオンプランツ(共栄作物)」を活用するのもプロのテクニックです。クレマチスの足元(南側)に、背の低い宿根草や一年草を植えるのです。例えば、根が浅く広がるアジュガ、ヒューケラ、ワイルドストロベリー、あるいは夏の暑さに強いインパチェンスなどを植えることで、それらの葉が生物的な「日傘」の役割を果たし、クレマチスの根元に涼しい木陰を作ってくれます。見た目も華やかになり、一石二鳥ですね。ただし、クレマチスの養分を奪ってしまうような、生育があまりに旺盛すぎる植物は避けるようにしましょう。
風通しと物理的ダメージの回避
日当たりと同じくらい重要なのが「風通し」です。クレマチスは風通しの悪いジメジメした場所では、葉に白い粉が吹く「うどんこ病」や、湿気を好むカビ由来の病気にかかりやすくなります。建物の壁際ギリギリや、他の植物が密集しすぎている場所は避けたほうが無難です。
しかし一方で、常に強風が吹き抜けるような場所も適していません。クレマチスのつるは一見丈夫そうに見えますが、実は構造的に非常に脆く、物理的な衝撃に弱いです。台風や春の嵐などでつるが激しく煽られると、株元からポッキリ折れたり、フェンスに擦れて表皮に傷がついたりします。その傷口から病原菌が侵入し、恐ろしい「立ち枯れ病」を引き起こすリスクが高まるのです。したがって、風通しは確保しつつも、強風がまともに当たらない場所、あるいはフェンスやラティス、低木などが防風壁となってくれる場所を選定するのが、長く健康に育てるためのコツです。
水はけの良い土作りと酸度調整のポイント

「植物は土で育つ」と言っても過言ではありませんが、特にクレマチスにおいて土壌環境は生育を左右する決定的な要素です。地植えの場合、元々の庭土の質に大きく影響を受けるため、植え付け前の土壌改良は必須作業となります。クレマチスが求める理想の土は、「水はけ(排水性)が良いこと」と「水持ち(保水性)が良いこと」という、一見矛盾する二つの要素を兼ね備えた土です。
もし、水はけが悪い粘土質の土にそのまま植えるとどうなるでしょうか。梅雨の長雨などで土の中の空気が追い出され、根が呼吸できずに窒息し、「根腐れ」を起こして枯れてしまいます。逆に、砂ばかりで水がすぐに抜けてしまう土では、夏場に深刻な乾燥ストレスを受け、成長が止まってしまいます。この絶妙なバランスをとるために目指すべきは、土の粒と粒の間に適度な隙間(孔隙)がある「団粒構造(だんりゅうこうぞう)」の土づくりです。
土壌酸度(pH)の調整を忘れずに
物理的な土の状態だけでなく、化学的な視点(pH)も重要です。クレマチスはpH5.5〜6.5程度の「弱酸性から中性」の土壌を好みます。しかし、雨の多い日本の土壌は、雨水によってカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ分が流出しやすく、放っておくと自然に「酸性」に傾いていきます。酸性が強い土では、根がリン酸などの重要な栄養分をうまく吸収できず、どんなに肥料をあげても生育不良に陥ってしまいます。
そのため、植え付けを行う予定の場所には、少なくとも作業の2週間前までに「苦土石灰(くどせっかい)」を土に混ぜ込んでおきましょう。苦土石灰は酸度を中和するだけでなく、葉緑素の構成成分であるマグネシウム(苦土)を補給する効果もあり、葉の色艶を良くしてくれます。目安としては、1平方メートルあたり100g〜150g程度(コップ1杯分くらい)をパラパラと散布し、スコップでよく耕して馴染ませておきます。
プロも実践!地植え用土の黄金ブレンド
庭土をそのまま使うのではなく、深さ・直径ともに40cm〜50cmほどの大きな穴を掘り、掘り上げた土に以下の資材を混ぜ込んで「クレマチス専用の特製ベッド」を作りましょう。
| 資材名 | 配合比率 | 役割と効果 |
|---|---|---|
| 掘り上げた庭土 | 約5割 | ベースとなる土です。大きな石や、植物の生育を阻害する木の根、ゴミなどはこの段階で丁寧に取り除いておきます。 |
| 完熟腐葉土 | 約3割 | 土をふかふかにするための有機質です。土壌有用微生物を増やし、保水性と保肥力を高めます。必ず完熟したものを選んでください。 |
| 赤玉土(小粒〜中粒) または軽石 |
約2割 | 物理的な隙間を作り、排水性と通気性を確保します。元々の庭土が粘土質で重い場合は、この比率を増やして調整します。 |
さらに、元肥(もとごえ)として、植物の根に優しくゆっくり長く効く「緩効性化成肥料(マグァンプKなど)」や、花付きを良くするリン酸分を多く含む「骨粉入り油かす」を規定の量だけ混ぜ込みます。肥料が固まったままだと根に直接触れて「肥料焼け」を起こすことがあるので、土全体にまんべんなく行き渡るように、よく混ぜ合わせることが大切です。
地植えに適した時期はいつ?冬がベストな理由
ガーデニング作業といえば、なんとなく「春」に行うイメージが強いかもしれません。しかし、クレマチスの地植え(定植)や移植に関しては、「冬」こそが絶対的なベストシーズンです。具体的には、本格的な寒さが到来する12月から2月中旬の厳寒期が最も適しています。なぜ寒い時期にわざわざ作業するのか、それには植物生理学的な明確な理由があります。
なぜ「休眠期」が最適なのか?

多くのクレマチス(常緑種を除く)は、気温が下がると地上部の葉を落とし、成長を完全に止めて「休眠」に入ります。この休眠状態にある時は、根からの水分吸収や代謝活動も最小限に抑えられているため、植え替え作業に伴う根へのダメージやストレスをほとんど感じません。また、地上部に葉がないため、植え替え直後の「蒸散(葉から水分が逃げること)」を気にする必要がなく、根が新しい土に活着する前の水切れリスクも回避できるのです。
逆に、新芽が勢いよく伸びている春や、葉が青々と茂っている夏に根をいじるとどうなるでしょうか。根の吸水能力が一時的に低下しているのに、葉からは容赦なく水分が蒸発していくため、供給と需要のバランスが崩れ、あっという間に萎れてしまいます。これが「クレマチスは移植を嫌う」と言われる主な理由ですが、休眠期に行うことでそのリスクを極限まで下げることができるのです。
秋植えやポット苗の扱いについて
冬以外では、地温がまだ下がりきっていない10月中旬〜11月の「秋植え」も推奨されます。これから冬に向かう時期ですが、地中はまだ温かいため、本格的な寒さが来る前に根が土に馴染むことができます。これにより、春の訪れとともにロケットスタートを切ることができ、一番花のボリュームや枝の伸びが格段に良くなるというメリットがあります。特に北海道や東北などの寒冷地では、真冬は土が凍結して作業ができないため、雪解け直後の早春か、この秋植えが適している場合が多いです。
また、園芸店で年間を通して販売されている「ポット苗(ビニールポットに入った苗)」については、根鉢(土と根の塊)を絶対に崩さないようにそっと植えるのであれば、真夏と真冬を除いて、基本的にいつでも植え付け可能です。しかし、もし手に入れた苗が小さかったり(3号ポットなど)、ポットの底を見ても根が見えないほど未熟だったりする場合は、いきなり過酷な地植え環境にさらすのは危険です。まずは一回り大きな5号〜6号程度の鉢に植え替えて(鉢増し)、半年〜1年ほど育てて根を充実させてから地植えにする方が、生存率は格段に上がります。急がば回れ、ですね。
開花株の地植えは要注意!
母の日ギフトのシーズンなどでよく見かける、満開の花がついた立派な鉢植え(開花株)を入手した場合、「きれいだから早く庭に植えたい!」とはやる気持ちになりますが、これは絶対にNGです。
花を咲かせている最中は、植物が持てる全エネルギーを花の維持と生殖(種作り)に注いでいるため、環境の変化に対する適応力が極端に低くなっています。この状態で地植えにすると、環境変化のショックで花がすぐに散ってしまうだけでなく、株自体が体力を使い果たして枯れ込む原因になります。開花株は、花が終わるまでは鉢のまま楽しみ、花後に軽く剪定をしてから、あるいは次の適期(秋または冬)まで待ってから地植えにするのが、長く付き合うための秘訣です。
枯らさないコツは深植えにする植え付け手順

クレマチスの地植えにおいて、他の多くの植物とは決定的に異なる、そして最も重要な技術が「深植え(ふかうえ)」です。バラや果樹などでは、接ぎ木部分や株元を土に埋めないように植えるのが園芸の常識ですが、クレマチスに関しては、その常識を一度忘れてください。深植えを制するものがクレマチス栽培を制すると言っても過言ではありません。
具体的な深植えの基準は、「地際のつる(茎)の1節から2節が、完全に土の中に埋まる深さ」です。長さにして、地面のラインよりも5cm〜10cmほど深く苗を植え込むイメージです。
「深植え」がもたらす3つのメリット
なぜわざわざ茎を埋めるのでしょうか?それには3つの大きなメリットがあるからです。
- 株立ち化の促進:土の中に埋められた節(ノード)にある休眠芽が、土の湿り気と暗さに刺激を受け、そこから新しい芽(シュート)が地上に向かって伸びてきます。これにより、最初の一本のつるだけでなく、地中から次々と複数のつるが立ち上がる「株立ち」の状態になり、結果として花数が増えてボリュームのある豪華な株姿になります。
- 根量の増加と安定:クレマチスは、土に触れている節の部分から「不定根(ふていこん)」と呼ばれる新しい根を出す性質があります。深植えすることで根が発生するポイントが増え、より多くの水分や養分を吸収できる強健な株に育ちます。
- 究極の保険(リバイバル):これが最大の理由です。もし不運にも「立ち枯れ病」にかかったり、強風でつるが折れたり、あるいは誤って草刈り機で地上部を刈ってしまったりして全滅しても、地中に埋まった節が生きていれば、そこから新しい芽が再生(リバイバル)します。深植えは、万が一の時のための命綱なのです。
失敗しない植え付けのステップ
以下の手順を一つずつ丁寧に行うことで、活着率(根付く確率)が大幅にアップします。
- STEP1 吸水(リキダス等の活用):作業の前に、苗をポットごとバケツの水に30分〜1時間ほど沈めます。根鉢の内部まで完全に水を吸わせ、空気を追い出します。この時、活力剤(リキダスやメネデールなど)を希釈した水を使うと、発根促進効果が期待できます。
- STEP2 穴掘りと元肥:直径・深さ40cm以上の穴を掘り、改良した土を半分ほど戻します。
- STEP3 仮置きと高さ調整:ポットから苗を優しく抜き、穴に仮置きしてみます。この時点で、苗の土表面が、周囲の地面よりも5cm〜10cm低くなるよう、穴の底の土を増減して高さを微調整します。
- STEP4 埋め戻し:位置が決まったら、隙間に土を流し込みます。そして、最も重要な工程として、つるの1〜2節目までが隠れるように、上から丁寧に土を被せていきます。
- STEP5 支柱の設置:つるを誘引するための支柱やトレリス、オベリスクなどは、後から土に刺すと伸びた根を傷つける恐れがあるため、必ずこの植え付けのタイミングで設置します。
- STEP6 水極め(みずぎめ):最後に、バケツ一杯分の水をたっぷりと与えます。この時、棒で土をつつきながら泥水を行き渡らせることで、根と土の間にある大きな空洞を埋め、根を土に密着させます。これを「水極め」と言います。
初心者におすすめの強健な品種と選び方
「地植えにしたけれど、すぐに枯れてしまった…」という失敗の多くは、実は環境や腕のせいではなく、最初の品種選びの段階で決まっていることがあります。クレマチスには原種を含めて数千もの品種が存在しますが、日本の気候、特に高温多湿な夏への適応力は品種によって雲泥の差があります。地植えで長く楽しむためには、繊細な美しさよりも、環境変化に強く、病気になりにくい「強健種」を選ぶことが成功への近道です。
最強の強健さを誇る「ビチセラ系」と「ジャックマニー系」

初心者の方に自信を持っておすすめできるのが、「ビチセラ系」と「ジャックマニー系」の2大系統です。これらは「育てやすさ」において他の追随を許しません。
- ビチセラ系:小輪〜中輪のかわいらしい花を、株全体を覆い尽くすほど無数に咲かせる多花性の系統です。原種が南欧や西アジアなどの暑い地域にも分布しているため、日本の蒸し暑さにも強く、病気への抵抗力もトップクラスです。代表品種の『マダム・ジュリア・コレボン(ワインレッド)』や『エミリア・プラター(青紫)』などは、一度根付けば放任でも育つほどの生命力を持ちます。
- ジャックマニー系:クレマチスらしい大輪の平咲きの花と、旺盛な生育力を兼ね備えた系統です。四季咲き性が強く、春から秋まで繰り返し長く花を楽しめます。紫色の名花『ジャックマニー』や、濃い紫の『スーパーバ』などが有名で、フェンスを早く覆いたい場合にも最適です。
これらの系統がおすすめな理由は、単に強いからだけではありません。どちらも「新枝咲き(しんえだざき)」という剪定タイプに属しているため、剪定が非常にシンプルで分かりやすいのです(剪定方法は後述)。「どの枝を切ればいいの?」と迷うことがないため、管理のストレスがありません。
その他の選択肢と注意点
つるがあまり絡まず、木立(こだち)のように育つ「インテグリフォリア系」(『篭口(ロウグチ)』など)も、バラの下草や花壇のアクセントとして地植えに向いています。また、チューリップのようなベル型の花が可愛い「テキセンシス系」(『プリンセス・ダイアナ』など)も人気があり、比較的丈夫です。
一方で、注意が必要なのが「モンタナ系」です。春に壁一面をピンクや白の花で埋め尽くす姿は圧巻ですが、ヒマラヤなどの冷涼な高地が原産のため、日本の「高温多湿」が極端に苦手です。暖地(関東以西の平地など)で地植えにすると、夏の暑さに耐えきれず急に枯れ込むことが多く、寿命が数年程度の「消耗品」となってしまうケースが少なくありません。モンタナ系を地植えにする場合は、建物の北側など、夏でも涼しい場所を選ぶなどの特別な配慮が必要です。
フェンスやオベリスクへの美しい誘引方法
地植えしたクレマチスを美しく見せるための仕上げが「誘引(ゆういん)」です。クレマチスはアサガオのように茎自体が回転して巻き付くのではなく、葉の付け根にある「葉柄(ようへい)」という部分を、細い棒や金網にくるくると巻き付けて体を固定しながら登っていきます。この性質を理解し、人間の手でサポートしてあげることで、プロのような景観を作ることができます。
「頂芽優勢」を崩すS字誘引のテクニック

植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」といって、一番高い位置にある芽に優先的に栄養を送り、そこを伸ばそうとする性質があります。そのため、つるをフェンスやオベリスクに対して垂直に、真っ直ぐ上へ上へと誘引してしまうと、栄養が先端にばかり集中してしまいます。結果として、株元付近は葉がなくスカスカになり、花は遥か頭上の高い位置でしか咲かない、というバランスの悪い姿になりがちです。
これを防ぎ、下から上まで満遍なく花を咲かせるためのテクニックが「S字誘引(えすじゆういん)」です。伸びてきたつるを、真上ではなく「横」に寝かせるように導き、ジグザグと蛇行させながら少しずつ高さを上げていくのです。つるを横に倒すことで頂芽優勢が崩れ、節々にある脇芽に栄養が分散しやすくなります。これにより、脇芽からも新しいつるが伸びて花が咲き、株全体にボリュームが出ます。
誘引の実践ポイントとトラブル対処
- 資材の選び方:クレマチスの葉柄は細いため、あまりに太い支柱には巻き付くことができません。フェンスやトレリスの網目は細かいものを選ぶか、太い支柱の場合は麻紐や園芸用のビニールタイを補助的に結びつけて、巻き付くための足場を作ってあげましょう。
- 固定のコツ:ビニールタイで固定する際は、茎をぎゅっと締め付けないよう、指一本分くらいの余裕を持って「8の字」に緩く結びます。成長して茎が太くなった時のためのスペースを確保するためです。
- つるが折れてしまったら:誘引作業中、つるを曲げようとしてうっかり力を入れすぎ、「ポキッ」と折ってしまうことは、ベテランでもよくあることです。でも、皮一枚でも繋がっていれば諦める必要はありません。折れた箇所をセロハンテープやビニールテープで巻いて添え木のように固定すれば、維管束が繋がり、何事もなかったかのように成長を続けることが多いです。もし完全に切れてしまっても、その下の節から新しい芽が出るので、心配しすぎないでくださいね。
季節ごとのクレマチスの育て方と地植え管理のコツ
無事に植え付けが終わったら、あとは季節ごとの管理です。地植えのクレマチスは、一度根付いてしまえば自然の力で育つため、比較的ローメンテナンスです。しかし、本来は水も肥料も大好きな植物なので、適切なタイミングで少しお世話をしてあげることで、翌年の花付きが劇的に変わります。
生育を促す水やり頻度と肥料の与え方
地植え栽培における水やりと肥料(施肥)は、鉢植えとは異なるアプローチが必要です。鉢植えのように毎日世話をする必要はありませんが、植物の成長サイクルに合わせたメリハリのある管理が求められます。
【水やり】「過保護」から「スパルタ」への切り替え
水やりの基本方針は、植え付けからの経過期間によって大きく変わります。
- 植え付け直後〜1年目(定着期):この時期はまだ根が土壌深くまで届いておらず、自力で水分を確保する能力が低いです。そのため、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えます。特に春の成長期(3月〜5月)と、梅雨明け後の高温乾燥期(7月〜8月)は水切れを起こしやすいので、こまめな観察が必要です。
- 2年目以降(安定期):根が十分に張り巡らされた後は、基本的には自然の降雨だけで育ちます。過度な水やりは、かえって根を甘やかし、徒長の原因になります。ただし、例外として「真夏に晴天が2週間以上続き、夕方になっても葉がしんなりしている場合」は、SOSサインと捉えてたっぷりと水を与えましょう。この際、日中の高温時に水を与えると、土の中でお湯になって根を煮てしまうため、必ず早朝か夕方の涼しい時間帯に行います。
【肥料】「肥料食い」を満たすN-P-K戦略

クレマチスは美しい花を次々と咲かせるために、大量のエネルギーを消費します。そのため、肥料不足は花数の減少や花色の退色に直結します。以下のカレンダーに従って、適切な栄養補給を行いましょう。
| 時期 | 肥料の種類 | 目的と具体的な方法 |
|---|---|---|
| 春・秋 (成長・開花期) |
緩効性化成肥料 + 液体肥料 |
最もエネルギーを使う時期です。1〜2ヶ月に1回、株元に緩効性の置肥をし、さらに即効性のある液体肥料を10日〜2週間に1回与える「ダブル施肥」でスタミナ切れを防ぎます。リン酸(P)が多い肥料を選ぶと花付きが良くなります。 |
| 夏 (高温期) |
なし (活力剤のみ) |
日本の猛暑はクレマチスにとって過酷です。根が弱っている時に肥料を与えると吸収できず、逆に根を傷める原因になります。夏は肥料をストップし、代わりに「リキダス」などの活力剤を薄めて与え、夏バテ防止に努めます。 |
| 冬 (1月〜2月) |
有機質肥料 (寒肥) |
年間で最も重要な施肥です。春の爆発的な芽吹きと開花を支える基礎体力を作ります。ゆっくり分解される骨粉入り油かすや乾燥鶏糞などを、株元から少し離れた位置に穴を掘って埋め込みます。 |
系統で異なる剪定方法と見分け方のコツ
「クレマチスは好きだけど、剪定が難しそう…」と二の足を踏む方は多いです。確かに、バラなどの他の植物と違い、クレマチスは品種によって剪定方法が180度異なるため、間違った切り方をすると「翌年まったく花が咲かない」という悲劇が起こります。しかし、自分の株がどの「剪定グループ(タイプ)」に属するかさえ分かれば、決して難しくはありません。
1. 新枝咲き(強剪定タイプ):初心者向けNo.1

ビチセラ系、ジャックマニー系、インテグリフォリア系、テキセンシス系などが該当します。
このタイプは、春に地面や古い枝の基部から新しく伸びてきた枝(新枝)に花芽を作ります。冬になると地上部は枯れ草のように茶色くなります。
剪定方法:迷うことはありません。冬(2月頃)に、地際から2〜3節(地面から10cm〜20cm)の位置で、枯れたつるをバッサリと切り落とします。「こんなに切って大丈夫?」と不安になるくらい切ってしまってOKです。これにより、春に新しい元気な芽が勢いよく伸びてきます。
2. 旧枝咲き(弱剪定タイプ):古枝を大切に
モンタナ系、アトラゲネ系、パテンス系(早咲き大輪の一部)などが該当します。
このタイプは、前年に伸びて冬を越した古い枝(旧枝)の節々に花芽を持っています。つまり、古枝は「翌年の花の貯蔵庫」なのです。
剪定方法:冬にバッサリ切るのは厳禁です。枯れ込んでしまった枝先や、極端に細くて弱い枝を取り除く程度の「弱剪定」に留めます。節にふっくらとした芽があるのを確認し、その芽の上で切るようにしましょう。誘引を外して整理する際も、枝を折らないよう慎重な作業が必要です。
3. 新旧両枝咲き(中剪定・任意剪定タイプ):臨機応変に
フロリダ系(白万重など)、ラヌギノーサ系、早咲き大輪の一部が該当します。
古い枝からも花が咲き、その後伸びた新しい枝の先にも花が咲く、ハイブリッドなタイプです。
剪定方法:一番融通が利きます。花後は花首の下で切れば二番花が早く咲き、深く切れば遅れて咲きます。冬は、充実した芽がついている位置まで切り戻し、枯れ込んだり細すぎたりする枝は整理します。
タグを失くして品種が分からない時の判別フロー
もし品種名が分からなくなってしまった場合は、以下の2点を観察して判断しましょう。
- 開花時期:4月〜5月上旬に一斉に咲くなら「旧枝咲き」の可能性大。5月下旬以降に咲き始めるなら「新枝咲き」の可能性大。
- 冬の様子:冬に枝に芽が残って生きているなら「旧枝咲き」。地上部が完全に枯れている、あるいは芽が見当たらないなら「新枝咲き」。
失敗しない地植え株の移植や植え替え時期
お庭のレイアウト変更やリフォームなどで、どうしても地植えしたクレマチスを別の場所に移動させなければならない時が来るかもしれません。しかし、これには重大なリスクが伴います。クレマチスの根はゴボウのように太く長く伸びますが、一度切断されると再生しにくい性質を持っており、大株であればあるほど移植のショックで枯死する確率が高まります。
移植を成功させるための厳守事項
リスクを承知の上で移植を行う場合は、以下の条件を必ず守ってください。
- 時期の厳守:植物が完全に眠っている「1月〜2月の厳寒期」以外に行ってはいけません。もしくは、梅雨入り前の曇天が続く時期もギリギリ可とされますが、休眠期が最も安全です。
- 根鉢の維持:スコップを株元から大きく離し(半径30cm以上)、深くまで差し込んで、可能な限り根を切らないように大きく掘り上げます。根についた土は落とさず、そのまま移動させます。
- 地上部の制限:根が切れて吸水能力が落ちているため、地上部の蒸散を抑える必要があります。新枝咲きなら地際で、旧枝咲きでも通常より深めに剪定し、枝数を減らします。
- 養生期間:移植した後の1年間は「リハビリ期間」です。蕾がついても摘み取り、花を咲かせずに株の体力回復(根の再生)に専念させることが、長生きさせるための秘訣です。
突然枯れる立ち枯れ病の原因と復活させる対策
クレマチス栽培における最大の恐怖、それが「立ち枯れ病」です。昨日まで青々としていた葉が、朝起きたら突然しんなりと萎れ、数日で黒変して枯れ果てる…。この現象に遭遇して、泣く泣く株を掘り上げて捨ててしまった方も多いのではないでしょうか。
原因は「カビ」と「傷」
立ち枯れ病の主な犯人は、フザリウム菌などの土壌常在菌(カビの一種)です。これらの菌は、風でつるが揺れてできた傷口や、地際の組織の隙間から植物体内に侵入します。そして、水分を運ぶパイプラインである「導管」の中で増殖し、詰まらせてしまうのです。人間で言えば血管が詰まるようなもので、水が上がらなくなった地上部は急速に脱水症状を起こして壊死します。
【重要】絶対に捨てないで!復活への3ステップ

ここで思い出していただきたいのが、植え付け時の「深植え」です。もしあなたが深植えを実践していれば、地上のつるが全滅しても、地中に埋まった節(成長点)は菌の侵入を免れて生き残っている可能性が非常に高いのです。
緊急オペの手順
- 切除:萎れてしまったつるを、変色していない健康な緑色の部分まで切り戻します。もし地際まで真っ黒なら、迷わず地際で切断します。
- 殺菌:切り口と株元の土壌に、ベンレート水和剤やトップジンMなどの殺菌剤を散布し、菌の繁殖を抑えます。
- 待機:あとは信じて待つだけです。水やりは通常通り行います。早ければ2〜3週間で、遅くとも翌年の春には、地中からタケノコのように新しい芽(シュート)が顔を出してくれます。これが深植えの威力です。
クレマチスの育て方をマスターし地植えを楽しむ
クレマチスの地植えは、最初の「場所選び」「土作り」「深植え」という3つのハードルさえクリアすれば、決して難しいものではありません。むしろ、根域制限のない地植えならではのダイナミックな成長と、視界を埋め尽くすほどの花数は、鉢植えでは味わえない感動を与えてくれます。
季節ごとの適切な剪定と肥料やりを行えば、株は年々太り、充実していきます。数年後には、あなたのお庭のシンボルとして、春の訪れを告げる素晴らしいパートナーになってくれるはずです。「失敗したらどうしよう」と恐れず、まずは強健な品種から始めて、お庭を憧れのクレマチスで彩ってみてくださいね。
この記事の要点まとめ
- 地植えに最適な場所は半日以上日が当たり西日を避けられる場所
- 株元は日陰で地上部は日向にする「頭寒足熱」が栽培の基本
- 土は水はけと保水性のバランスが良い弱酸性から中性を好む
- 地植えの最適期は休眠期の12月から2月中旬
- つるの1〜2節を土に埋める「深植え」は立ち枯れ時の保険になる
- 初心者は管理が楽な「新枝咲き(ビチセラ系など)」がおすすめ
- 誘引はS字を描くように行うと株全体に花が付きやすい
- 地植え直後は土が乾いたら水やりし2年目以降は降雨に任せる
- 肥料は春と秋に与え夏はストップし冬の寒肥を忘れない
- 剪定方法は品種の系統(新枝咲き・旧枝咲き)によって異なる
- 地植え株の移植は枯死リスクが高いため休眠期に慎重に行う
- 立ち枯れ病になっても深植えしていれば地中から再生する可能性がある
- 急に枯れても株を掘り捨てずに切り戻して殺菌し様子を見る
- 最終的な判断や薬剤の使用は専門家の指導や製品表示に従う
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