こんにちは、My Garden 編集部です。
つる植物の女王とも呼ばれるクレマチスですが、その華麗な花を毎年綺麗に咲かせるためには、適切な肥料と時期の管理が欠かせません。「肥料食い」と言われる一方で、可愛がりすぎて肥料をあげすぎると、あっという間に肥料焼けを起こして枯れてしまうこともあるため、いつどのような肥料を与えるのが正解なのか迷ってしまうことも多いのではないでしょうか。おすすめの肥料の種類や、鉢植えと地植えでの管理の違い、剪定タイプによる微調整など、知っておきたいポイントは実はたくさんあります。
この記事のポイント
- クレマチスの成長サイクルに合わせた肥料の基本スケジュール
- 鉢植えと地植えで異なる施肥頻度と管理のコツ
- マグァンプKや液体肥料などおすすめの肥料と使い分け
- 肥料焼けを防ぐための夏越しの注意点と活力剤の活用法
クレマチスの肥料を与える最適な時期の基礎

クレマチスは年間を通して「成長(春)」「開花(初夏)」「耐える(夏)」「充実(秋)」「休眠(冬)」というサイクルを繰り返しています。施肥において最も重要なのは、カレンダーの日付を追うことではなく、このサイクルに合わせて「今、植物が体内で何を行おうとしていて、何を欲しているか」を見極めることです。春の爆発的な成長期、過酷な夏、そして翌年の花芽を作る秋と、季節ごとに必要な栄養素や与えるべきタイミングが明確に異なります。まずは、失敗しないための基本的なカレンダーと植物生理学的なメカニズムを押さえておきましょう。
初心者におすすめの肥料と成分の選び方

園芸店に行くと、棚には無数の肥料が並んでいて目移りしてしまいますよね。クレマチスの肥料選びで最初に意識していただきたいのは、パッケージの裏面などに記載されている「チッソ(N)-リンサン(P)-カリ(K)」の数字です。これは植物の三大栄養素の配合比率を表していますが、それぞれの役割を植物のパーツに置き換えてイメージすると、迷わずに選べるようになります。
三大栄養素の役割とクレマチス特有のニーズ
まず、「葉肥(はごえ)」と呼ばれる窒素(N)についてです。これは植物の体を作るタンパク質や、光合成を行う葉緑素の元となる成分です。春先、休眠から目覚めたクレマチスがつるや葉をぐんぐん伸ばしたい時期には、この窒素が最も必要になります。窒素が不足すると、つるの伸びが悪くなり、葉の色が薄い黄緑色になってしまいます。逆に多すぎると、葉ばかりが茂って花が咲かない「過繁茂(かはんも)」の状態になりやすいため、バランスが重要です。
次に、「実肥(みごえ)」と呼ばれるリン酸(P)です。これはDNAの構成成分であるとともに、エネルギー代謝の中心的な役割を果たします。特にクレマチスにおいては「花芽の形成」と「開花エネルギー」として大量に消費されます。花を咲かせたい時期や、翌年の花芽を作る秋には、このリン酸が強化された肥料を選ぶのが鉄則です。リン酸が不足すると、花数が減ったり、花が小さくなったりします。
そして、「根肥(ねごえ)」と呼ばれるカリウム(K)です。カリウムは植物の体内で水分の調整や酵素の活性化に関わり、根の発育を促進したり、茎を太く丈夫にしたりする働きがあります。特に重要なのが「環境ストレスへの耐性強化」です。暑さ、寒さ、病害虫に対するバリア機能を高めるため、夏越し前や冬越し前の施肥にはカリウムが欠かせません。
微量要素も忘れずに
三大栄養素以外にも、光合成に必要な「マグネシウム(苦土)」や、細胞壁を強くする「カルシウム(石灰)」なども重要です。クレマチス専用肥料や、上質な市販の培養土にはこれらが最初から含まれていますが、長年育てている鉢植えなどでは不足しがちになるので、微量要素入りの肥料を選ぶと安心です。
緩効性と速効性:形状による使い分けの極意

成分だけでなく、肥料が効く「速さ」と「期間」も重要な選択基準です。私はいつも、以下の2つを組み合わせる「ダブル施肥」を推奨しています。これが最も失敗が少なく、植物の状態に合わせて調整しやすいからです。
基本的には固形の緩効性肥料でベースを作り、つるが急激に伸びる時期や、蕾がたくさんついてエネルギーを欲している時に、週に1回の液肥でサポートする。この「ベース+ブースト」の組み合わせが、クレマチス栽培の黄金パターンです。
鉢植えと地植えによる頻度の違い
「本に書いてある通りに肥料をやったのに枯れてしまった」「全然花が咲かない」という相談を受けることがありますが、よく聞くと栽培環境(鉢植えか地植えか)と施肥の頻度がミスマッチしているケースが非常に多いです。同じ品種のクレマチスでも、根が置かれている環境によって肥料の効き方は全く異なります。
鉢植え:リーチング(溶脱)との戦い

鉢植え栽培の最大の特徴であり弱点は、「土の量が限られている(根域制限)」ということです。限られた土の中に根がびっしりと張っているため、土壌中の栄養分はあっという間に吸い尽くされてしまいます。
さらに深刻なのが「リーチング(溶脱)」です。鉢植えでは、水やりのたびに鉢底から水が流れ出るまでたっぷりと与えるのが基本ですが、この時、水と一緒に土の中に溶け出した肥料成分(特に窒素やカリウム)も外に洗い流されてしまっています。どんなに良い肥料を与えても、雨や水やりによって成分は日々失われていくのです。
そのため、鉢植えのクレマチスは常に「腹ペコ」になりやすい状態にあります。「薄い肥料をこまめに与える」のが鉄則です。具体的には、緩効性の置き肥を1.5〜2ヶ月に1回交換してベースを維持しつつ、生育期(3月〜6月、9月〜10月)には週に1回のペースで液体肥料を与えて、流れ出た分を常に補給し続ける必要があります。特に水やり回数が増える春〜初夏は、肥料切れに注意してください。
地植え:土壌のバッファー効果を活用
一方、地植え(庭植え)の場合、土の量は実質的に無限に近く、根も広く深く張ることができます。また、自然の土壌(特に粘土質や腐植を含む土)には、肥料成分を電気的に吸着して蓄えておく力(保肥力・CEC)が備わっています。これを「土壌のバッファー(緩衝)効果」と呼びます。
このため、地植えでは一度与えた肥料が雨で簡単に流れ出すことは少なく、長く効き続けます。鉢植えと同じペースでせっせと追肥をしてしまうと、土壌中の肥料濃度が高くなりすぎて根を傷めたり、枝葉ばかりが茂って花が咲かない「つるぼけ(窒素過多)」の状態に陥りやすくなります。
地植えの管理の基本は、休眠期である冬(1月〜2月)にしっかりとした「寒肥(かんごえ)」を与えて土作りをしておくことです。これさえ十分に行えば、春以降の追肥は生育の様子を見ながら、開花直前や花後のお礼肥として少量の化成肥料を与える程度で十分に元気に育ちます。「地植えはのんびり、鉢植えは忙しく」と覚えておくと良いでしょう。
1月や2月の寒肥と芽出し肥の役割
クレマチス栽培のカレンダーにおいて、1年の計は冬にあります。まだ寒い1月から2月頃、地上部は枯れ枝のように見えて静まり返っていますが、地中ではクレマチスの根が春の爆発的な成長に向けて、着々と準備を進めています。この時期の施肥管理が、春の花数や株のボリュームを決めると言っても過言ではありません。
寒肥(かんごえ):土壌微生物との連携プレー

最も寒い時期、1月中旬から2月上旬に行うのが「寒肥(かんごえ)」です。この時期に与える肥料は、即効性のある化学肥料ではなく、油かすや骨粉、発酵鶏糞、堆肥などの「有機質肥料」が適しています。
なぜ有機質肥料を使うのか、それには科学的な理由があります。有機質肥料に含まれる栄養素(タンパク質など)は、そのままでは分子が大きすぎて植物の根は吸収できません。土の中にいるバクテリアや放線菌などの微生物が、冬の間にゆっくりと有機物を分解し、アンモニウムイオンや硝酸イオンといった無機質の形に変えて初めて、根が吸収できるようになるのです。
この分解プロセスには数週間から数ヶ月の時間がかかります。つまり、冬の間に寒肥を土に埋め込んでおくことで、微生物が時間をかけて分解を進め、ちょうど暖かくなってクレマチスが活動を開始し「お腹空いた!」となる3月頃に、最高の状態で栄養が吸収できるタイミングが訪れるのです。これはまさに、自然のサイクルを利用した「春への予約給食」です。施肥する場所は、根の先端あたり(株元から少し離れた場所)に穴を掘って埋め込むのがポイントです。
芽出し肥:春のロケットスタート
そして、寒さが緩み、新芽が少し顔を出し始める2月下旬から3月上旬頃には「芽出し肥」を行います。寒肥がじっくり効くベースの食事なら、芽出し肥は目覚めのための「濃いエスプレッソ」のような役割です。
このタイミングでは、すぐに効き目が現れる即効性の化成肥料(マグァンプKなどの小粒や、プロミックなど)を株元に施します。または、水溶性の成分を含んだ液肥を開始しても良いでしょう。休眠から覚めたばかりの根にダイレクトにエネルギーが届くことで、新芽の勢いがグッと増し、太く充実したつるが伸び始めます。
特に、「去年はあまり花が咲かなかったな」と感じる株には、この時期に骨粉(リン酸)を多めに補給してあげると、花芽の形成が促進される効果が期待できます。スタートダッシュでつるを太くすることが、その後の花数に直結するため、この「寒肥」と「芽出し肥」のコンビネーションは非常に重要です。
花後のお礼肥と開花中の管理方法

5月頃、早咲きの品種が満開を迎え、一番花が咲き終わった後のタイミングも非常に重要です。植物にとって開花というのは、次世代を残すための生殖活動であり、全身全霊のエネルギーを注ぎ込む一大イベントです。花後は、いわば「出産直後」や「フルマラソン完走後」のように、体内の炭水化物やミネラルを使い果たしてヘトヘトに疲れている状態なのです。
お礼肥(おれいごえ)でリカバリー
ここでしっかりと体力を回復させてあげるために与えるのが「お礼肥(おれいごえ)」です。「綺麗な花を咲かせてくれてありがとう」という感謝の気持ちを込めて、花が散ったらすぐに花殻を摘み取り、剪定を行うと同時に速効性のある化成肥料を与えましょう。
このタイミングでの栄養補給は、次の成長ステージへの「切り替えスイッチ」になります。四季咲きの品種(ビチセラ系、ジャックマニー系など)であれば、素早く体力が回復することで、脇芽が動き出し、二番花の準備がスムーズに進みます。一方、一季咲きの品種(モンタナ系など)であっても、来年に向けた枝の充実や、地中での根の成長のために不可欠なプロセスです。
ここでお礼肥をサボると、株が「消耗状態」から抜け出せず、病害虫(うどんこ病や立ち枯れ病など)に対する抵抗力が落ちてしまう原因になります。使用する肥料は、すぐに効く液肥と、ゆっくり効く置肥を併用するのがベストです。
開花中の肥料はどうする?「花持ち」vs「スタミナ」論争
一般的に園芸の世界では「花が咲いている時に肥料をあげると花が早く終わる」と言われることがあります。これは、肥料によって植物の代謝が活性化し、老化ホルモン(エチレンなど)の生成が進むためと言われています。
しかし、クレマチス、特に次々と花を咲かせる四季咲き性の強い品種に関しては、話が別です。これらの品種は、いま咲いている花を維持しながら、同時に次の蕾も育てているため、膨大なエネルギーを必要とします。
そのため、開花中も肥料を切らさず、通常より少し薄めの液肥(2000倍〜3000倍程度)を継続するほうが、結果として長く花を楽しめ、スタミナ切れを防げます。逆に、ここで肥料が切れると、花の色が冴えなかったり、蕾が開かずに茶色くなって落ちてしまう(蕾の黄変・落下)原因になります。ただし、真夏に近い時期に咲く場合は、肥料焼けのリスクがあるため控えめにします。
秋の施肥が翌春の開花を左右する理由

多くのガーデナーが、花が咲く春の肥料には熱心ですが、実はクレマチス栽培において私が最も重要だと感じているのが、9月下旬から10月、遅くとも11月上旬にかけての「秋の施肥」です。ここでの管理が、翌春の景色を決定づけます。クレマチス栽培の上手な人は、例外なく「秋の肥培(ひばい)」に力を入れています。
翌春の花芽は秋に作られる
なぜ秋の肥料がそれほど重要なのでしょうか。それは、翌春に咲くための「花芽」は、実はこの秋の時期に体内で作られ始めているからです。これを植物生理学で「花芽分化(かがぶんか)」と呼びます。
日本の猛暑で夏の間、生育を休止(夏休眠)していた株が、夜温が下がって涼風を感じると再び活動を始めます。9月下旬頃から新芽が動き出したり、根が再び伸び始めたりします。この時期に、リン酸(P)とカリウム(K)を多めに含んだ肥料をたっぷりと与えることが極めて重要です。
耐寒性とC/N比(炭素率)のコントロール
秋の施肥にはもう一つ、「冬越しへの体作り」という重要な目的があります。これから迎える冬の厳しい寒さや霜に耐えるため、植物は細胞内の糖度や無機イオン濃度を高め、細胞液が凍結しないように準備をします(耐寒性の獲得)。この時、カリウムが十分に吸収されていると、細胞壁が強化され、根の張りが良くなり、寒さに強い株になります。
注意点として、秋に窒素(N)ばかりを過剰に与えすぎると、植物体内のC/N比(炭素と窒素の比率)が下がり、枝葉ばかりが茂って軟弱な徒長を起こしやすくなります。軟弱な枝は冬の寒風で枯れ込みやすく、花芽もつきにくくなります。「秋はリン酸とカリウム重視」で、骨粉入り油かすや、カリ成分の多い微粉ハイポネックスなどを活用し、がっしりとした硬い枝に育て上げることが、翌春の満開への最短ルートです。「秋の肥料は未来への投資」と肝に銘じて、忘れずに施肥を行いましょう。
クレマチスの肥料と時期に関する注意点
肥料は植物にとってのご飯ですが、与え方を間違えれば毒にもなってしまいます。特にクレマチスの根は「ゴボウ根」とも呼ばれる太く肉質な根を持っていますが、乾燥や高濃度の肥料(塩類集積)に対しては意外なほどデリケートです。ここでは、よくある失敗例や、品種ごとの細かい管理の違い、そして肥料焼けなどのトラブルシューティングについて深掘りして解説します。
マグァンプKなど肥料の種類と特徴
クレマチス愛好家の間で「とりあえずこれを入れておけば安心」「元肥の王様」と言われるほど絶大な信頼を得ているのが「マグァンプK」(ハイポネックスジャパン社製)という肥料です。なぜ数ある肥料の中で、これほどまでにクレマチス栽培で推奨されるのでしょうか。その理由は、クレマチスの根の性質と見事にマッチした化学的特性にあります。
根酸(こんさん)に反応する賢い肥料

一般的な化成肥料の多くは水溶性で、水に溶けることで成分が放出されます。しかし、マグァンプKの主成分である「リン酸マグネシウムアンモニウム」は、水にはあまり溶けず(難溶性)、植物の根から分泌される「根酸(クエン酸などの有機酸)」に触れると溶け出すという特殊な性質を持っています。
つまり、「植物が栄養を欲しがって根を伸ばし、根酸を出して接触した時だけ、必要な分だけ肥料が溶ける」という仕組みになっているのです。これを「根酸感応性」と呼びます。クレマチスは肥料食いですが、一度に濃い肥料が溶け出すと、浸透圧の変化で根が水分を奪われ、すぐに根が傷んでしまいます。しかし、マグァンプKなら、自律的に供給量が調整されるため、肥料焼け(濃度障害)のリスクが極めて低く、デリケートなクレマチスの根には相性抜群なのです。
使い方のポイントとして、植え付けや植え替えの際に、根が触れる位置に土と混ぜ込む「元肥」として使うのがベストです。粒の大きさによって肥効期間が異なり、「中粒」は約1年、「大粒」は約2年持続します。植え替え頻度が少ない地植えや大鉢には大粒を、通常の鉢植えには中粒を選ぶと良いでしょう。
剪定タイプ別に見る施肥のポイント
クレマチスには大きく分けて「新枝咲き」「旧枝咲き」「新旧両枝咲き」という3つの剪定タイプがあり、それぞれ成長の仕方が異なります。当然、肥料が必要になるタイミングや重点ポイントも少しずつ違ってきます。自分の育てている品種がどのタイプかを確認し、オーダーメイドの管理を目指しましょう。
| タイプ | 主な品種系統 | 成長の特徴 | 施肥の最重要ポイント |
|---|---|---|---|
| 新枝咲き (強剪定) |
ビチセラ系 ジャックマニー系 テキセンシス系 インテグリフォリア系 |
冬に地上部が枯れるか強剪定し、春に地際から新しいつるを伸ばして、その先に花を咲かせる。春の成長スピードが非常に速い。 | 春の初期成長が命。 3月〜4月の短期間に、ゼロから人間の背丈以上の体を作る必要がある。この時期に窒素分を切らさないよう、週1回の液肥でブーストをかけ続けることが、花数に直結する。 |
| 旧枝咲き (弱剪定) |
モンタナ系 パテンス系 アーマンディ系 シルホサ系 |
前年に伸びた枝が越冬し、その節々から春に短い枝を出して開花する。春の伸長量は少ない。 | 枝の温存が命。 春よりも、前年の秋(9月〜10月)の管理が決定的。秋にカリ分をしっかり与えて枝を硬く充実させないと、冬の寒風で枝枯れし、春に花が咲かない。 |
| 新旧両枝咲き (任意剪定) |
フロリダ系 ラヌギノーサ系 早咲き大輪系の一部 |
旧枝からも花が咲き、その後伸びた新枝からも花が咲く。開花期が長く、二番花も期待できる。 | 継続的なスタミナ維持。 花期が長く消耗しやすいため、花後のお礼肥と定期的な追肥を欠かさない。「薄く長く」効かせるイメージで、真夏以外は常に肥料が効いている状態を保つ。 |
特に注意が必要なのは「新枝咲き」です。春の短期間で一気に体を大きくするため、この時期のエネルギー消費量は凄まじいものがあります。ここで肥料切れを起こすと、つるが細くなり、蕾の数が激減してしまいます。逆に「旧枝咲き」は、春に慌てて肥料をやっても手遅れなことが多く、前年の秋の貯金で咲くイメージです。タイプに合わせたメリハリが成功の鍵です。
肥料のやりすぎと肥料焼けへの対策
「もっと大きくしたい」「たくさん咲かせたい」という親心から、ついつい肥料をあげすぎてしまうことがあります。しかし、植物にとって過剰な肥料は、人間にとっての「塩分の摂りすぎ」と同じような状態を引き起こします。これを「肥料焼け(肥あたり)」と呼びます。
浸透圧の原理と症状の進行

肥料焼けのメカニズムは、高校生物で習う「浸透圧」で説明できます。土の中の肥料濃度が高くなりすぎると、土壌溶液の浸透圧が植物の細胞液よりも高くなります。すると、ちょうど野菜を塩漬けにすると水分が出てくるように、根の細胞から土壌の方へと水分が奪われてしまいます。つまり、一生懸命水やりをしているのに、植物体内は脱水症状に陥るのです。
初期症状としては、葉の色が異常に濃い緑色になり、葉の表面がデコボコしたり、ツヤがなくなり始めます。進行すると、葉の縁(エッジ)が茶色くチリチリに枯れ込む「チップバーン」が現れます。さらに重症化すると、新芽が黒く萎れて枯れ落ち、土の中の根は黒褐色に腐ってボロボロになります。こうなると回復は困難です。
緊急対処法:リーチング(洗い流し)の手順
もし「肥料をやりすぎたかも」「葉の縁が急に枯れてきた」と思ったら、ためらわずに直ちに対処が必要です。肥料は一度あげたら取り消せないと思われがちですが、物理的に洗い流すことができます。
- 原因除去: まず、土の表面にある置き肥(固形肥料)を目に見える範囲ですべて取り除きます。
- 大量放水: 次に、鉢底から水がジャージャー溢れ出るくらい、大量の真水を流し続けます。 いつもの水やりの5倍〜10倍の量をかけるイメージです。シャワーホースなどで数分間かけ続けてください。
- 継続洗浄: これを一度だけでなく、数日間、毎日繰り返します。
これにより、土の中に溶け込んだ過剰な肥料成分(塩類)を水と一緒に鉢の外へ排出(リーチング)させ、土壌濃度を下げることができます。地植えの場合も同様に、株の周りに大量の水を撒いて成分を拡散させます。回復して新芽が動き出すまでは、肥料は一切厳禁です。
夏の施肥を控えて活力剤を使う訳
日本の夏、特に近年の35度を超えるような猛暑は、冷涼な気候を好む多くのクレマチス原種にとって、生存を脅かすほどの過酷な環境です。気温が30度を超え、特に夜温が25度を下回らない熱帯夜が続くと、クレマチスの根は呼吸によるエネルギー消費が激しくなり、養分吸収能力が著しく低下します。人間で言えば重度の夏バテ状態で、胃腸の働きが弱っている状態です。
そんな時に、良かれと思って濃厚な肥料(ステーキや天ぷら)を与えたらどうなるでしょうか。消化不良を起こし、弱った胃腸にさらに負担をかけ、最悪の場合は根腐れを起こして枯れてしまいます。また、高温時の施肥は、土壌中の化学反応を早め、ガス障害などを引き起こすリスクも高まります。
活力剤で夏を乗り切るサプリメント活用術
そのため、真夏(7月〜8月)は基本的に施肥を完全にストップするのが正解です。「勇気ある撤退」が株を守ります。
その代わりに活用したいのが「活力剤」です。メネデール(鉄分主体)やバイオゴールドバイタル、リキダス(コリン・フルボ酸など)といった活力剤は、肥料成分(N-P-K)をほとんど含まず、微量要素やアミノ酸、ビタミンなどを主成分としています。これらは根の負担にならず、光合成を助けたり、根の吸水力をサポートしたりする「サプリメント」のような働きをします。
週に1回程度、夕方の涼しい時間に水やりの代わりに活力剤を与えることで、肥料焼けのリスクを冒さずに、夏バテした株のストレスケアを行うことができます。特に二価鉄イオンを含む活力剤は、光合成に必要な葉緑素の維持に役立ち、夏の葉色を保つのに効果的です。
元気がない株への施肥は厳禁
最後に、もっともやりがちな、しかし致命的なミスについてお話しします。それは、株に元気がなくなった時、「栄養をあげれば元気になるはず!」と親切心から慌てて肥料をあげてしまうことです。これは絶対にNGです。
株に元気がない原因の多くは、肥料不足ではありません。根腐れ、水切れ、高温障害、あるいは「立ち枯れ病(フザリウム菌など)」による通導組織の閉塞、コガネムシの幼虫による食害など、根に深刻なダメージがあるケースがほとんどです。弱っている根は、水すら吸い上げるのがやっとの状態です。そこに肥料(塩分)を与えるのは、風邪で高熱を出して寝込んでいる人に、無理やりカツ丼を食べさせるようなもので、浸透圧ストレスでトドメを刺すことになりかねません。
回復への正しいプロセス
株の調子が悪い時は、肥料を一切与えず(置き肥も撤去し)、直射日光を避けた風通しの良い日陰に移動させます。水やりも、土が乾くまで待つなど慎重に行い、とにかく「静養」させることが回復への近道です。場合によっては、地上部を少し剪定して、根の負担(蒸散量)を減らすのも有効です。
肥料を再開して良いのは、株が元気を取り戻し、新しい葉が展開して、明らかに根が動き出したことを確認できてからです。それも、最初はいきなり通常の濃度ではなく、既定の倍率よりもさらに薄い液肥から慎重にリハビリを開始するようにしましょう。
クレマチスの肥料と時期の総括
クレマチスの肥料管理について詳細に解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。マニュアル通りのカレンダーも大切ですが、それ以上に重要なのは、目の前の植物と対話することです。
「今は葉を伸ばしたい時期かな?」「花が終わって疲れているかな?」「暑くてバテているかな?」と、植物の立場になって想像力を働かせることで、適切な施肥のタイミングや量が見えてきます。春と秋はたっぷりと愛情(肥料)を注ぎ、夏と冬はゆっくりと休ませる。このメリハリのリズムさえ掴めれば、クレマチスは驚くほど丈夫に育ち、毎年素晴らしい花を咲かせて、あなたのガーデニングライフを美しく彩ってくれるはずです。
この記事の要点まとめ
- クレマチスは肥料食いだが根はデリケートで濃度障害(肥料焼け)に注意が必要
- 春は成長のための窒素(葉肥)、秋は花芽のためのリン酸(実肥)とカリウム(根肥)を重視する
- 緩効性(置き肥)と速効性(液肥)のダブル使いが、ベースとブーストの両立に最適
- 鉢植えは水やりによる成分流出(リーチング)が激しいため、地植えよりも頻繁な追肥が必要
- 1月〜2月の寒肥は、微生物分解が必要な有機質肥料を使い、春のスタートダッシュを準備する
- 花後のお礼肥は、出産後のような消耗状態から株を回復させるために必須のケア
- 9月〜10月の秋肥が、翌春の開花数や耐寒性を決定づける最重要ポイントである
- 窒素過多はC/N比を下げ、軟弱な徒長や花付きの悪化を招くため注意する
- マグァンプKは根酸に反応して溶けるため、根を傷めにくい「元肥の王様」である
- 新枝咲き品種は、春の短期間に体を作るため、窒素切れさせないことが花数に直結する
- 旧枝咲き品種は、秋に枝を充実させて冬越しさせることが翌春の開花への鍵となる
- 真夏(気温30度以上)は根の機能が落ちるため、施肥をストップし「肥料断ち」を行う
- 夏バテ防止やストレス緩和には、肥料ではなく鉄分やアミノ酸を含む活力剤を使用する
- 肥料焼けの兆候(葉の枯れ込み等)が出たら、直ちに大量の水で土中の成分を洗い流す
- 元気がない株への施肥は、弱った根に追い打ちをかけるため厳禁。まずは静養させる
- 植物の状態を日々観察し、季節ごとのメリハリをつけた管理を行うことが成功への近道
出典・参考資料
本記事の執筆にあたり、以下の公的情報源を参考に肥料の基礎知識を確認いたしました。
(出典:農林水産省『特集「輸入原料に頼らない国内資源由来の肥料をつくる」』)
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