こんにちは、My Garden 編集部です。
春の花壇を彩るルピナス。その天に向かって力強く伸びる独特な花姿と、藤の花を逆さにしたような優雅な美しさに魅了されて、「自分でも種を採って、来年もこの景色を庭で再現したい!」と思う方は非常に多いのではないでしょうか。私もその一人で、初めてルピナスを育てた年、その圧倒的な存在感と色彩の豊かさに感動し、迷わず自家採種を決意しました。
しかし、いざ種取りをしようと試みてみると、「いつ収穫すればいいのか分からない」「昨日まであったはずの種が、朝見たら弾けて跡形もなくなっていた!」「採った種をまいても、全然芽が出なくて失敗した」といった、予想外のトラブルに直面することも少なくありません。ガーデニング初心者の方にとって、ルピナスの種取りは少しハードルが高く感じられるかもしれません。
実はルピナスは、種を採るタイミングのシビアさや、その後の保存・発芽処理において、パンジーやビオラといった一般的な草花とは少し異なる、独自の「コツ」と「知識」が必要な植物なのです。このステップを間違えると、せっかく採った種が一つも発芽しない、なんてことも珍しくありません。
この記事では、私が実際に何度も失敗し、試行錯誤して学んだ経験をもとに、ルピナスの種取りから保存、そして翌年の種まきまでの一連の流れを、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。植物生理学的な視点も少し交えつつ、でも決して難しくない実践的なテクニックをお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
この記事のポイント
- 莢が茶色く乾燥したタイミングを見逃さずに収穫する
- 種が弾け飛ぶのを防ぐためにネットを活用する
- 発芽率を上げるために種に傷をつける処理を行う
- 毒性があるため保管や取り扱いには十分注意する
ルピナスの種取りを成功させる時期とコツ

ルピナスの種取りを成功させるための第一歩は、植物の成長サイクルをじっくりと観察し、自然が発するサインを見逃さないことです。「まだ早いかな?」と思っているうちに弾けてしまったり、「もう大丈夫だろう」と早まって未熟な種を採ってしまったりと、タイミングの見極めは意外と難しいものです。ここでは、私が普段意識している具体的な時期の目安や、種を無駄なく確実に回収するためのプロの技をご紹介します。
収穫に最適な時期は5月から7月
ルピナスの種取りができる時期は、一般的に花が咲き終わってから約1ヶ月から1ヶ月半後が目安になります。カレンダーで言えば、お住まいの地域やその年の気候によって前後はありますが、だいたい5月下旬から7月頃が収穫のピークになることが多いですね。
地域や気候による違いを理解しよう
日本は南北に長い国ですので、栽培している地域によって収穫のベストタイミングは大きく異なります。桜前線と同じように、ルピナスの開花と結実前線も北上していきます。以下の表は、地域別の一般的な収穫時期の目安です。
| 地域区分 | 気候特性 | 開花時期 | 収穫時期の目安 |
|---|---|---|---|
| 暖地・温暖地 (関東以西の平野部など) |
春の訪れが早く、梅雨入りも早い。 夏の暑さが厳しい。 |
4月下旬 〜5月 |
5月下旬 〜6月中旬 |
| 寒冷地・冷涼地 (東北、北海道、高冷地) |
春が遅く、夏も比較的涼しい。 開花期間が長い傾向がある。 |
6月 〜7月 |
7月中旬 〜8月上旬 |
例えば、私が住んでいる関東地方のような温暖地では、5月のゴールデンウィーク過ぎあたりから気温が急激に上がり始めます。ルピナスは暑さに弱いため、株が弱る前に急いで種を作ろうとする生理反応が働き、6月の梅雨入り前には収穫を終えるケースが多いです。
一方で、北海道や東北北部、あるいは標高の高い冷涼地では、春の訪れが遅いため、開花も遅くなり、結果として種の収穫が7月、あるいは8月にずれ込むことも珍しくありません。このように、地域によって1ヶ月以上の差が出ることがあるため、インターネット上の情報を鵜呑みにせず、ご自宅の環境に合わせて判断する必要があります。
近年の気候変動と梅雨との戦い
また、近年の気候変動による「春の高温」も無視できない要素です。3月や4月に急に気温が上がると、ルピナスの開花スピードが早まり、それに伴って種の成熟も加速します。「去年は6月中旬だったから」と油断していると、今年は5月末にはもう弾けてしまっていた、なんてことも十分に起こり得ます。カレンダーの日付だけに頼るのではなく、目の前のルピナスの様子を毎日チェックすることが成功への近道です。
種取りにおいて最も避けたいのが「雨」です。収穫時期が長雨や梅雨入りと重なってしまうと、せっかく熟した莢が雨に濡れてしまい、莢の中で種がカビてしまったり、腐ってしまったりするリスクが激増します。天気予報をこまめにチェックし、週間予報で「来週から雨が続きそうだな」と分かったら、もし莢が十分に熟しているようなら、雨が降り出す前に少し早めに収穫してしまうのも一つの賢い戦略です。
多少の未熟さであれば、茎ごと刈り取って雨の当たらない場所で乾燥させることで、植物体内の転流(栄養の移動)を利用して完熟まで持っていくことが可能です。
メモ:追熟(ついじゅく)について
莢の半分以上が茶色くなっていれば、根元から切り取って軒下などに逆さまに吊るしておくことで、茎に残った養分が種に移動し、完熟まで持っていけることがあります。これを「追熟」と呼びます。雨対策として覚えておくと便利なテクニックです。
莢が茶色く変色したら収穫の合図

収穫のタイミングを正確に見極めるには、種が入っている「莢(さや)」の外見の変化、特に「色」と「質感」を鋭く観察する必要があります。ルピナスの花が終わると、そこには小さな枝豆のような形をした緑色の莢が密集してできます。この段階ではまだ種は未熟で、内部では親株から送られてくる栄養分(デンプンやタンパク質)を蓄えている真っ最中です。焦ってこの緑色の状態で採ってしまっても、乾燥するとシワシワの種にしかならず、発芽能力は期待できません。
色のグラデーション変化を見逃さない
じっと我慢して待っていると、莢の色は徐々に変化していきます。鮮やかな緑色から、葉緑素が分解されて少し黄色味を帯びた色へ、そして水分が抜けてくると薄茶色になり、最終的には全体が濃い茶色や黒褐色に変色してきます。この「茶色」こそが、種が親株からの栄養供給を完了し、独立する準備が整ったサインです。緑色の部分が全くなくなり、全体が均一に茶色くなっている状態がベストです。
触感と音で確認するプロの技
色だけでなく、触った時の感触も重要な判断材料です。完熟した莢は水分が抜けきっているため、指で触れると「カサカサ」「パリパリ」とした乾いた質感をしています。逆に、まだ湿り気を感じたり、グニャッとした弾力が残っている場合は少し早いです。
さらに、私がよくやる確認方法は「音」を聞くことです。完熟した莢を耳元で軽く振ってみてください。「カラカラ」「コロコロ」と、乾いた種が莢の中で動く音が聞こえたら、それはもう完璧な収穫タイミングです。種と莢の内壁が離れ、種自体も硬化している証拠だからです。この音が聞こえたら、ためらわずにすぐに収穫しましょう。明日には弾けてなくなっているかもしれません。
莢の合わせ目にも注目
もう一つの視覚的なサインとして、「莢のねじれ」や「合わせ目の開き」があります。乾燥が進むと、莢の背中の部分(縫合線)がわずかに割れてきたり、莢自体がねじれるような動きを見せ始めます。これは「今すぐにでも弾けるぞ」という爆発寸前の合図ですので、見つけ次第、緊急確保してください。
収穫サインのチェックリスト
- 莢の緑色が完全に抜け、全体が茶色〜黒褐色になっている
- 表面を触るとカサカサと乾いており、湿り気がない
- 振ると「カラカラ」と種が動く音がする
- 莢の合わせ目がわずかに開き始めている
ネット袋で種が弾け飛ぶのを防ぐ

ルピナスを含むマメ科の植物の多くは、「自力散布(じりきさんぷ)」という驚くべき能力を持っています。これは、乾燥に伴う莢の繊維組織の収縮差を利用して、バネのように勢いよく莢を弾けさせ、中の種を親株から数メートルも遠く離れた場所へ飛ばすメカニズムです。自然界では子孫繁栄のための素晴らしい知恵ですが、私たちガーデナーにとっては「せっかく育てた種が行方不明になる」という最大の悩みの種でもあります。
物理的なバリアで種を守る
「朝起きたら、莢が全部ねじれていて中は空っぽだった……」という悲劇を防ぐために、私が強くおすすめしたいのが、物理的に種を閉じ込めてしまう方法です。具体的には、排水口用の水切りネットやお茶パック(出汁パック)を莢に被せてしまうのです。これは非常にアナログな方法ですが、効果は絶大で、プロの生産者も似たような方法をとることがあります。
タイミングとしては、莢が十分に膨らみ、色が緑から黄色に変わり始めた頃がベストです。まだ莢が小さいうちに被せると、光合成や通風が妨げられて成長を阻害してしまう可能性があるので、ある程度大きくなってから行います。花穂全体を大きめのネットで覆ってしまうのも手ですし、特に有望そうな莢を数個選んで、個別にお茶パックを被せるのも良いでしょう。
具体的な手順とコツ
- ネットの準備: 100円ショップなどで手に入る、不織布タイプのお茶パックや、ストッキングタイプの水切りネットを用意します。通気性が重要なので、ビニール袋は絶対に避けてください。蒸れて種が腐ってしまいます。
- 被せる: 対象の莢や花穂全体をネットで優しく包み込みます。花穂全体を覆う場合は、少しゆとりを持たせることがポイントです。
- 固定する: ネットの口を、ビニールタイや麻紐、あるいはホッチキスなどでしっかりと閉じます。この時、茎との間に隙間がないように注意してください。ルピナスの種は意外と小さい(米粒より少し大きいくらい)ので、少しの隙間からでもこぼれ落ちてしまいます。
- 待つ: あとはそのまま、莢が茶色くなるまで放置します。もし中で莢が弾けてしまっても、種はネットの底に溜まるので、一粒残らず回収することができます。
この方法は、弾け飛び防止だけでなく、種を食べる害虫(マメシンクイガの幼虫など)や、種を狙う鳥からの防御策としても非常に有効です。少し見た目は悪くなるかもしれませんが、確実に種を手に入れたいなら、これ以上の方法はありません。
花が終わったら残す茎を選別する

ルピナスの花穂は非常に豪華で、一つの株から何本もの花茎が立ち上がります。つい「全部の花から種を採りたい!」と欲張ってしまいがちですが、実はこれが株の寿命を縮める大きな原因になります。
種作りは命がけの作業
植物にとって、種を作るという行為(生殖成長)は、私たちが想像する以上に莫大なエネルギーを消費するプロセスです。葉で作られた光合成産物の大半が種子の形成に使われてしまうため、根や茎の維持がおろそかになります。特にルピナスのような多花性の植物において、すべての花に種をつけさせてしまうと、株の体力は限界まで削られてしまいます。
その結果、本来なら多年草として夏越しできる可能性がある株でも、力尽きて枯れてしまったり、なんとか夏を越しても翌年の生育が著しく悪くなったりします。日本の高温多湿な夏はルピナスにとってただでさえ過酷なので、体力の温存は必須です。
「選択と集中」の戦略
長く花を楽しんだり、翌年も同じ株で花を咲かせたい場合は、戦略的な「選別」が必要です。具体的には、種取り用の花茎を1〜2本だけ残し、それ以外は花が終わったらすぐに茎の根元から切り取ることを徹底しましょう。
残す茎を選ぶ基準としては、一番最初に咲いた「一番花」の茎が最もおすすめです。一番花は株の勢いが最も良い時期に咲くため、種の充実度も高く、発芽率の良い立派な種が採れる可能性が高いからです。逆に、シーズンの終わりに咲いた弱々しい脇芽の花茎は、種も小さく未熟になりがちなので、種取り用には向きません。
花柄摘み(デッドヘディング)の効果
種取り用以外の花を早めに摘み取る作業を「花柄摘み(デッドヘディング)」と言います。これを行うことで、植物は種を作るために使うはずだったエネルギーを、新しい花芽の形成や、根や葉の成長(栄養成長)に回すことができます。その結果、二番花、三番花が咲きやすくなり、より長い期間花を楽しむことができるのです。「種を採る楽しみ」と「花を長く愛でる喜び」、このバランスを上手にとることが、ルピナス栽培の上級者への第一歩と言えるでしょう。
ルピナスの種取り後の保存と種まき方法
苦労してタイミングを見計らい、無事に種を収穫できたとしても、まだ安心はできません。ここからが「第二の難関」です。ルピナスの種は保存環境が悪いとあっという間にカビてダメになりますし、いざ種まきをしても「硬実種子(こうじつしゅし)」という厄介な性質のせいで、ただ土に埋めるだけではうんともすんとも言わないことが多いのです。ここでは、翌春に美しい花畑を再現するために私が実践している、鉄壁の保存テクニックと発芽率を劇的に上げる裏技を詳しく解説していきます。
カビを防ぐ冷蔵庫での保存方法

収穫した直後の種は、見た目は乾いているように見えても、内部にはまだ水分が残っています。この「見えない水分」が曲者で、そのまま瓶などに密閉してしまうと、容器内で結露し、あっという間にカビが生えて腐敗してしまいます。まずは徹底的な乾燥処理、専門用語でいう「キュアリング」が必要です。
正しい乾燥の手順
莢ごと収穫した場合は、まず莢から種を取り出します(これを脱粒といいます)。取り出した種を、お盆や新聞紙の上に重ならないように広げ、直射日光の当たらない風通しの良い日陰に置きます。期間の目安は、天候や湿度にもよりますが5日から10日間ほどです。直射日光に当てると、種が熱くなりすぎて細胞が死んでしまうことがあるので、必ず日陰で行ってください。扇風機の風を弱く当てておくのも効果的です。
乾燥完了の目安は、爪で種を強く押しても全く跡がつかないくらい「カチカチ」になっていること。また、種同士がぶつかった時に高い音がするようになればOKです。
冷蔵庫が最適な理由

十分に乾燥させた種は、乾燥剤(シリカゲル)と一緒に密閉容器に入れ、冷蔵庫(野菜室がおすすめ)で保管します。なぜ冷蔵庫なのでしょうか?
種子の寿命を縮める二大要因は「高温」と「高湿」です。日本の夏は、ルピナスの種にとってまさに地獄のような環境です。常温で放置すると、種は呼吸を続けてエネルギーを浪費し、老化が進んで発芽率が激減します。冷蔵庫の中は、温度が一定(約5〜10℃)で低く保たれており、暗い場所であるため、種を「休眠状態」のまま維持するのに最適な環境なのです。
注意点:紙袋での保存は危険?
よく「紙袋に入れて保存」と書かれている園芸書がありますが、これは湿度の低いヨーロッパなどでの話です。湿度の高い日本では、紙袋は湿気を通してしまい、梅雨時に種が吸湿してカビる原因になります。必ず「密閉できるガラス瓶」や「ジッパー付きの保存袋」に入れ、乾燥剤を同封して冷蔵庫に入れましょう。乾燥剤は青色の粒がピンク色になったら交換のサインです。
種が発芽しない原因は硬実種子
「ルピナスの種をまいたのに、1ヶ月経っても全く芽が出ない。掘り返してみたら、種がまいた時のまま変わっていなかった」……こんな経験はありませんか? これはルピナスの種が不良品だったわけではなく、「硬実種子(こうじつしゅし)」という特殊な性質を持っていることが原因です。
硬実種子とは何か?
硬実種子とは、種皮(種の殻)の組織が極めて緻密で硬く、さらに表面がロウ質の物質でコーティングされているため、水を通さない(不透水性)性質を持つ種子のことです。アサガオやオクラ、スイートピー、カンナなども同じ性質を持っています。
なぜそんな性質を持つのか?
これは植物の生存戦略です。もし、こぼれた種が雨が降るたびにすぐに発芽していたら、その後の日照りや寒波で全滅してしまうリスクがあります。殻を硬くして水を吸いにくくすることで、数ヶ月、あるいは数年かけて少しずつ時期をずらして発芽し、全滅のリスクを分散させているのです(シードバンク戦略)。
野生では非常に賢い戦略ですが、私たち人間が「今年の秋にまいて、来年の春に一斉に花を咲かせたい」と思う場合には、この硬い殻が大きな障壁となります。水を吸わなければ、種の中の酵素が働かず、発芽スイッチが入らないからです。そのため、私たちは人為的にこのバリアを解除してあげる必要があります。
一晩水に浸ける吸水処理のやり方

この硬い殻のバリアを突破し、種を目覚めさせるための最初のステップが「浸漬(しんせき)処理」、つまり単純に水に浸けることです。
具体的な手順
- コップや小皿に水を張り、種を入れます。水温は常温で構いませんが、ぬるま湯(30〜40℃程度)を使うと吸水が早まることもあります(熱湯は厳禁です。種が煮えて死んでしまいます)。
- そのまま一晩(約12時間〜24時間)放置します。あまり長く浸けすぎると、種が呼吸できずに窒息して腐ってしまうので、最大でも24時間程度に留めましょう。
翌朝の確認ポイント
翌朝、種を観察してみてください。おそらく、以下の2つのタイプに明確に分かれているはずです。
吸水チェック
- タイプA(成功):水を吸って、元の大きさの2〜3倍にパンパンに膨らんでいる種。表面のシワがなくなり、ツルッとしています。色は少し薄くなることが多いです。
- タイプB(硬実):水を完全に弾いてしまい、カチカチのまま大きさが全く変わっていない種。
タイプAの膨らんだ種は、すでに発芽の準備が整っています。これ以上水に浸けておく必要はないので、すぐに土にまいてください。問題はタイプBの種です。このまま土にまいても、何ヶ月も発芽しない可能性が高いです。そこで、次のステップの出番です。
種に傷をつける発芽促進テクニック

水に浸けても膨らまなかった頑固なタイプBの種に対しては、強制的に水が入り込む「入り口」を作ってあげる必要があります。これを専門用語で「傷つけ処理(スカリフィケーション)」と呼びます。
物理的に殻を削る
具体的な方法は、ナイフ、カッター、爪切り、紙やすり(サンドペーパー)などを使って、種皮の一部を削り取ることです。ナイフやカッターは種が硬くて滑りやすく、怪我をする恐れがあるため、個人的には「爪切り」を使うのが最も安全でコントロールしやすいのでおすすめです。
傷をつける場所と深さのコツ
ここで最も重要なのは、「どこを」「どれくらい」削るかです。適当に削ると種を殺してしまう可能性があります。
種をよく見ると、少し窪んだ部分に「へそ(種座)」と呼ばれる箇所があります。ここからは将来「根」が出てくる重要な部分ですので、絶対に傷つけてはいけません。
傷をつけるべき場所は、へその反対側、種のお尻の丸くなっている部分(背中側)です。ここを、爪切りでパチンと少しだけ切るか、やすりで削ります。深さは、「中の白い部分(子葉)がほんの少し見えるか見えないか程度」で十分です。深く削りすぎると、中の胚や子葉を傷つけてしまい、カビが生えたり腐ったりする原因になります。「茶色い皮を一枚剥ぐ」くらいの繊細な作業を心がけてください。
傷をつけた種をもう一度水に浸けてみてください。今度は傷口から水が浸透し、数時間〜半日でしっかりと膨らむはずです。膨らんだのを確認してから種まきを行えば、驚くほど発芽率が揃いますよ。
直根性を考慮した失敗しない植え方

無事に吸水した種を、いよいよ土にまきます。ここで注意すべきなのが、ルピナスの根の独特な性質です。ルピナスは、太い根が地中深く一本だけまっすぐに伸びる「直根性(ちょっこんせい)」というタイプです。大根やニンジンをイメージすると分かりやすいでしょう。
移植嫌いな植物への配慮
この直根性植物は、太い主根が傷つくと再生することが非常に難しく、移植を極端に嫌います。一度植えた場所から動かすことは基本的にできないと考えた方が良いでしょう。したがって、種まきの方法は以下の2パターンが推奨されます。
- 直播き(じかまき):花壇やプランターの定位置に直接種をまく方法。移植のダメージがゼロなので、最も失敗が少ない理想的な方法です。間引きをしながら育てます。
- ポット育苗:温度管理などのためにポットで苗を作る場合は、根が底穴から出る前、本葉が2〜3枚のまだ小さなうちに定植する必要があります。「根鉢を崩さない」ように、土ごとそっと植え替えるのが鉄則です。根についた土を落としたり、根をほぐしたりするのは厳禁です。
最近では、「ジフィーポット」や「ピートバン」といった、そのまま土に埋められるピートモス製のエコな資材も販売されています。これらを使えば、植え替え時の根へのダメージを最小限に抑えられるので、移植に自信がない初心者の方には特におすすめです。
嫌光性種子への対応
種をまく深さにもルールがあります。ルピナスの種は、光が当たると発芽が抑制される「嫌光性種子(けんこうせいしゅし)」です。「暗くならないと芽が出ない」ということです。
そのため、種をまいた後は、1cm〜2cmほどの厚さにしっかりと土を被せる(覆土する)必要があります。パラパラと薄くかけるだけでは、水やりの勢いで種が露出して光を感じてしまい、発芽しないことがあります。種が隠れるようにしっかりと土をかけ、手のひらで軽く鎮圧して土と種を密着させ、たっぷりと水をやりましょう。発芽までは土を乾かさないように管理し、芽が出たらすぐに日光に当てて徒長を防ぎます。
こぼれ種でも増えるか確認する
「わざわざ採種しなくても、こぼれ種で勝手に増えてくれたら楽なのに」と思うこともありますよね。実際、環境が合えば、こぼれ種で翌年も芽が出ることはあります。特に北海道や長野県などの冷涼地では、こぼれ種で野生化したルピナスが群生している風景も見られます。
なぜ自然任せでは難しいのか
しかし、多くの地域(特に関東以西の暖地)では、こぼれ種に頼るのはリスクが高いと言わざるを得ません。理由は主に以下の2点です。
- 発芽タイミングの不一致: 硬実種子であるため、秋の発芽適温の時期にうまく雨が降って吸水できるとは限りません。発芽が春や翌年にずれ込むことがあり、花を見たい年に咲かないことがあります。
- 夏の暑さと雑草: 自然にこぼれた種が運良く秋に発芽したとしても、まだ小さな苗の状態で厳しい残暑に晒されたり、周囲の旺盛な雑草に負けて消滅してしまうことが多いのです。
確実に来年も花を楽しみたいのであれば、やはり運任せにするのではなく、種を採って冷蔵庫で夏越しさせ、人間が管理できる最適な時期(暖地なら9月〜10月、寒冷地なら4月〜5月)にまき直す方が、圧倒的に成功率は高くなります。
誤食厳禁な種の毒性について

最後に、命に関わる非常に重要なお話をさせてください。ルピナスは美しい花ですが、植物全体、そして特に今回採取する「種子」には、「キノリチジンアルカロイド(ルピニン、スパルテインなど)」という強い毒性成分が含まれています。
マメに似ているからこそ危険
ルピナスの莢や種は、枝豆や大豆に非常によく似ています。海外(地中海沿岸など)では、食用に改良された「白花ルーピン(ハウチワマメ)」という種類も存在し、水晒しをして食べることがありますが、私たちが日本の園芸店で購入して育てる観賞用のルピナス(ラッセルルピナスなど)は、基本的に毒性の強い品種です。
もし誤って食べてしまうと、嘔吐、腹痛、めまい、最悪の場合は呼吸麻痺や痙攣などを引き起こす可能性があります。特に体の小さな子供やペットにとっては、数粒の誤食でも重篤な症状につながるリスクがあります。
(出典:食品安全委員会『ルピナス(lupin:ハウチワマメ)の種子中のアルカロイド類に関するリスク評価書』)
安全管理の徹底を
収穫した種を保管する際は、以下のルールを徹底してください。
- 食品の空き瓶(ジャムの瓶など)を使用する場合は、元のラベルを剥がし、大きく目立つように「ルピナス・毒・食べられない」と書いたラベルを貼る。
- キッチン周りには置かない。料理中に誤って混入するのを防ぐためです。
- 子供や認知症の方、ペットの手が絶対に届かない高い場所や、鍵のかかる場所に保管する。
ルピナスの種取りで翌年も花を楽しむ
いかがでしたでしょうか。ルピナスの種取りは、単に種を集めるだけでなく、その後の乾燥、保存、そして硬実種子の処理と、いくつかのハードルがある作業です。少し手間に感じるかもしれませんが、その一つ一つに植物の生きる知恵が隠されており、それらを理解して手を貸してあげることは、ガーデナーにとって無上の喜びでもあります。
自分で採った種から発芽した小さな芽を見つけた時の感動、そしてそれが立派な花穂となって庭を彩る姿を見た時の達成感は、苗を買ってきただけでは味わえない特別なものです。今回ご紹介したコツを参考に、ぜひルピナスの種取りにチャレンジして、あなただけの命のリレーを繋いでいってくださいね。
この記事の要点まとめ
- ルピナスの種取り適期は花後1ヶ月〜1.5ヶ月(5月〜7月頃)
- 莢が茶色く変色し、カサカサに乾いた時が収穫のサイン
- 緑色の莢で収穫すると種が未熟で発芽しないため、茶色になるまで待つ
- 莢が弾けて種が飛ぶ「自力散布」を防ぐため、ネット袋を被せると確実
- 株の消耗を防ぐため、採種用の花茎以外は早めにカットする(デッドヘディング)
- 収穫後は莢から出し、日陰で数日間しっかり乾燥(キュアリング)させる
- 保存は乾燥剤を入れた密閉容器で冷蔵庫に入れるのがベスト(高温多湿を避ける)
- ルピナスの種は「硬実種子」であり、皮が硬く水を吸わないため発芽しにくい
- 種まき前に一晩水に浸け、吸水して2〜3倍に膨らむか確認する
- 水に浸けても膨らまない種は、ヤスリやナイフで種皮に傷をつけて吸水を促す
- 「直根性」のため移植を嫌うので、直播きか、根が回る前の小苗での定植が基本
- 「嫌光性種子」なので、種まき時は1〜2cmほどしっかり覆土して光を遮る
- 種や草全体にアルカロイド毒性があるため、子供やペットの誤食に十分注意する
- 保管容器には必ず「有毒・食べられない」と明記して管理する
- 地域により「秋まき(暖地)」と「春まき(寒冷地)」を使い分ける
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