こんにちは、My Garden 編集部です。
花束やアレンジメントに欠かせない名脇役として、またガーデニング愛好家の間ではその繊細で可憐な姿から主役としても愛され続けている「かすみ草(カスミソウ)」。無数に咲き誇る白い小花が、まるで霧(霞)がかかったようにふわふわと広がる光景は、見る人の心を癒やし、優雅な気持ちにさせてくれますよね。その美しさに惹かれて、「自宅の庭やプランターでも、あの雲のような花を咲かせてみたい!」と憧れを抱く方も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ自分で育ててみようと一歩踏み出してみると、意外と多くの疑問や壁にぶつかるものです。「種まきの時期は春と秋、結局どっちが成功しやすいの?」「買ってきた苗を植えたら、すぐに枯れてしまったけれど何が悪かったの?」「プランター栽培でも、お店で見るようなボリューム満点の姿に育てられる?」など、初心者の方にとっては分からないことだらけで、不安になってしまうかもしれません。
実は、かすみ草栽培における失敗の多くは、植物の生理的な特性を理解しないまま、良かれと思って行ってしまう「過保護な管理」に原因があります。特に、日本の高温多湿な環境下では、水やりの頻度や土の選び方を少し間違えるだけで、あっという間に根腐れを起こして枯れてしまうケースが後を絶ちません。ですが、安心してください。かすみ草は「乾燥気味に管理する」という基本原則と、いくつかの重要なポイントさえ押さえれば、初心者の方でも驚くほど元気に、そして美しく育てることができる植物なのです。
この記事では、私たちMy Garden編集部が実際に栽培し、試行錯誤を繰り返す中で学んだ経験と知識をもとに、失敗しない品種選びから、酸度を調整したプロ仕様の土作り、そして長く花を楽しむための季節ごとの詳細な管理プロトコルまで、初心者の方が自信を持って栽培をスタートできるよう、どこよりも分かりやすく、かつ深掘りして解説していきます。
この記事のポイント
- 初心者でも失敗しにくい「おすすめの品種」と、地域ごとの最適な種まき時期が分かります
- 直根性の性質を考慮した、プランター栽培における「根を傷めない」植え付け手順を解説します
- 枯れる最大の原因である「水やり」と「肥料」のNG行動を理解し、正しい管理法を習得できます
- 長く花を楽しむための「切り戻し」テクニックや、自家製ドライフラワーの作り方まで網羅しています
初心者が知るべきかすみ草の育て方の基本
かすみ草を種や苗から育て、満開の花を咲かせるためには、まずその植物が「どのような環境を好むのか」という根本的な性質を知ることが近道です。ここでは、品種選びから栽培環境の準備まで、スタートダッシュで躓かないための極意を、基本から応用まで詳細に解説します。
種まきの時期は春と秋どっち?

かすみ草の栽培を始めるにあたって、最初の重要な分岐点となるのが「種まきの時期」です。適期は、お住まいの地域の気候区分(暖地、一般地、寒冷地)によって、大きく「春まき」と「秋まき」の2つに分かれます。このタイミングを見誤ると、発芽率が極端に下がったり、発芽しても幼苗が気候ストレスに耐えられずに枯れてしまったりするため、ご自身の環境に合わせた最適な時期を選ぶことが成功への第一歩です。
まず、関東以西の暖かい地域(暖地・一般地)にお住まいの方には、断然9月から10月頃に行う「秋まき」を強く推奨します。かすみ草は本来、涼しい気候を好む植物です。秋の彼岸頃、気温が20℃前後に落ち着いてきたタイミングで種をまくと、穏やかな気候の中でスムーズに発芽し、寒さが厳しくなる前にロゼット状(葉を地面に放射状に広げた状態)のしっかりとした株に育ちます。この「ロゼット」の状態で冬の低温に当たることで、植物ホルモンのスイッチが入り、春の訪れとともに爆発的な成長を見せてくれるのです。秋まきの株は、春まきの株に比べて根を張る期間が長いため、株の充実度が段違いで、春には圧倒的なボリュームの花を咲かせてくれます。
一方で、北海道や東北地方、山間部などの寒冷地にお住まいの方は、事情が異なります。寒冷地の冬は厳しく、秋にまいた小さな苗では、凍結や霜によって根が持ち上げられ、枯死してしまうリスクが非常に高くなります。そのため、冬の寒さが和らぎ、桜が咲く頃の3月から4月、あるいは5月頃に行う「春まき」が最も安全で確実な選択肢となります。春まきの場合、生育期間が短くなるため、秋まきほどの巨大な株にはなりにくい傾向がありますが、それでも十分に見ごたえのある花を楽しむことができますし、何より「冬越し」というハードルを回避できるメリットは大きいです。
種まきの具体的な手順においても、注意すべき重要なポイントがあります。それは、かすみ草の種が「好光性種子(こうこうせいしゅし)」であるという点です。これは文字通り「光を好む」性質で、発芽するために日光を必要とします。初心者が陥りやすい最大のミスが、「種をまいたら土をしっかり被せる」という一般的な常識を適用してしまうことです。かすみ草の場合、土を厚く被せすぎると光が遮断され、種が休眠状態のまま目覚めなくなってしまいます。

正しい方法は、種をパラパラとまいた後、土をかけるとしてもごく薄く、種が隠れるか隠れないか程度にするか、あるいは保水性の高い「バーミキュライト」を薄く散らす程度に留めることです。そして、水やりもジョウロで勢いよくかけると小さな種が流れてしまうので、発芽までは霧吹きで優しく湿らせるか、底面給水で水分を供給するのがコツです。
苗の選び方と植え付けのコツ

種から育てるのは温度管理や水分調整が繊細で、ガーデニング初心者の方には少しハードルが高く感じるかもしれません。そんな時は、無理をせずに園芸店やホームセンターで販売されている「ポット苗」を利用するのが、最も確実で失敗の少ない近道です。特におすすめなのが、成長が早く、丈夫で育てやすい一年草タイプの「エレガンス種(Gypsophila elegans)」です。品種名で言うと「コベントガーデン」などが有名で、初心者でも比較的容易に花を咲かせることができます。
しかし、お店に並んでいる苗ならどれでも良いわけではありません。健康で生命力に溢れた「良い苗」を選ぶ目を持つことが大切です。以下のチェックポイントを参考に、最高の一株を見つけ出してください。
- 茎の太さと節間: 茎がひょろひょろと長く伸びておらず(徒長していない)、根元が太くてがっしりしており、節と節の間が詰まっているものを選びましょう。
- 葉の色と艶: 葉の色が濃い緑色をしており、下の方の葉(下葉)が黄色く変色していないか確認します。下葉が枯れているものは、根詰まりや水切れのストレスを受けている可能性があります。
- 株元の安定感: 軽く触れた時にぐらつきがなく、土にしっかりと根を張っている感覚があるものが良苗です。
- 病害虫の有無: 葉の裏側を必ずチェックし、アブラムシなどの虫がついていないか、カビのような斑点がないかを確認してください。
そして、苗を購入していざ植え付けを行う際、これだけは絶対に守っていただきたい「鉄の掟」があります。それは、「根鉢(ねばち)を絶対に崩さないこと」です。
かすみ草は植物学的に「直根性(ちょっこんせい)」という性質を持っています。これは、太い主根(メインの根)が地中深く一本道のように伸びていくタイプの根の張り方で、大根やニンジン、ゴボウなどをイメージしていただくと分かりやすいでしょう。この太い主根は、水や栄養を吸い上げる生命線であると同時に、一度傷つくと再生する力が極めて弱いという弱点を持っています。多くの草花のように「ポットから出したら、根が巻いているので少しほぐして広げて植える」という良かれと思った親切心が、かすみ草にとっては致命的なダメージとなり、植え替え後に萎れてそのまま枯れてしまう原因の9割を占めています。
植え付け時の絶対ルール:根への「優しさ」が命

ポットから苗を取り出す際は、決して茎を強く引っ張ってはいけません。ポットの底穴を指で押し上げ、逆さにして重力を利用しながら、そっと掌に受け止めます。そして、出てきた根鉢(根と土の塊)は、指で突いたり崩したりせず、そのままの形で、あらかじめ掘っておいた植え穴に「置く」ような感覚で収めてください。隙間に土を入れた後も、上からギュウギュウと強く押さえつけるのは厳禁です。水やりで土を落ち着かせる程度に留めましょう。
プランター栽培での土の配合
植物を育てる上で、「土」は人間にとっての「家」と同じくらい重要な要素です。特に、限られたスペースであるプランターや鉢植えでかすみ草を育てる場合、土の良し悪しがその後の成長を決定づけます。ここで理解しておくべき最大のポイントは、日本の土壌とかすみ草が好む土壌の「酸度(pH)」の違いです。
日本は雨が多く、土壌中のカルシウム分などが流出しやすいため、多くの土壌は「酸性」に傾いています。しかし、かすみ草の原産地は地中海沿岸からアジアにかけての石灰岩地帯であり、アルカリ性の土壌に適応して進化した「好石灰植物」です。つまり、酸性の土が大の苦手で、カルシウム分を豊富に含んだ中性から弱アルカリ性の土壌(pH 6.5~7.5程度)を強く求めているのです。
また、乾燥地帯出身であるため、水はけ(排水性)が悪い土も好みません。常に湿った重たい土では、根が呼吸できずに窒息し、根腐れを起こしてしまいます。これらの条件を満たす「かすみ草にとっての理想の家」を作るために、私は以下のような土の配合を推奨しています。
【プロ推奨】かすみ草専用ブレンド土(プランター用)

そして、このブレンド土に必ず加えていただきたいのが「苦土石灰(くどせっかい)」です。用土1リットルあたり1~2g程度(ひとつまみ程度)を目安に混ぜ込んでください。苦土石灰は、酸性に傾いた土を中和して弱アルカリ性に近づけるだけでなく、植物の細胞壁を強くする「カルシウム」と、光合成に不可欠な「マグネシウム(苦土)」を同時に補給できる、まさに一石二鳥の資材です。これを混ぜることで、茎がしっかりとして倒れにくく、病気にも強い頑丈な株に育ちます。植え付けの1週間〜2週間前に混ぜて馴染ませておくのがベストですが、すぐに植え付けたい場合は「有機石灰(カキ殻石灰)」を使うと、根への負担が少なく安心です。
室内よりも屋外管理を推奨する理由

白く可憐な花を咲かせるかすみ草は、インテリアグリーンとして室内に飾りたくなる植物の筆頭かもしれません。「リビングの窓辺に置けば、いつでも可愛い花を愛でられる」と考えるのは自然なことですが、かすみ草を健康に育て、本来のボリューム感あふれる姿を楽しみたいのであれば、断然「屋外での管理」を強く推奨します。室内栽培が推奨できない理由は、主に「光」と「風」の2つの観点から説明できます。
まず1つ目の理由は、「圧倒的な日照不足」です。かすみ草は、植物生理学的に「長日植物(ちょうじつしょくぶつ)」に分類されます。これは、1日の日照時間が一定以上(一般的に12時間以上)にならないと、花芽(花の赤ちゃん)を作らない、あるいは作りにくいという性質です。また、そもそも日光が大好きな陽性植物であり、1日最低でも6時間以上の直射日光が当たらないと、正常な光合成が行えません。人間の目には明るく見える室内でも、植物にとっては薄暗い洞窟のようなものです。光が不足すると、植物は光を求めて茎をひょろひょろと長く伸ばす「徒長(とちょう)」を起こし、節間が間延びした軟弱な姿になってしまいます。結果として、花が咲かない、あるいは咲いても数が極端に少ないという残念な結果に終わります。
2つ目の理由は、「風通しの欠如による蒸れ」です。乾燥した冷涼な気候を故郷とするかすみ草にとって、日本の高温多湿な環境はそれだけで大きなストレスです。特に室内は空気が滞留しやすく、湿度が高まりがちです。風が通らない環境では、植物の蒸散作用(葉から水分を出す働き)がスムーズに行われず、体内の水分調整がうまくいかなくなります。さらに、株の内側に湿気がこもることで、灰色かび病などのカビ由来の病気が発生するリスクが跳ね上がります。
ベランダや庭の中でも、南向きで直射日光がたっぷりと当たり、かつ風が心地よく通り抜ける場所。そこがかすみ草にとっての「特等席」です。ただし、真夏のコンクリートの照り返しは強烈なので、その時期だけは鉢をスタンドに乗せて地面から離したり、午前中だけ日が当たる半日陰に移動させたりするなどの工夫をしてあげると、夏越しがグッと楽になります。
支柱を使って倒れるのを防ぐ

かすみ草、特に草丈が60cmから1m近くまで成長する高性種や宿根草タイプ(パニクラータ種など)は、成長に伴って茎が細かく分岐し、その先に無数の小花を咲かせます。満開時のその姿はまさに「白い雲」のようですが、構造的には非常に頭でっかちな状態になります。花の重みだけでも茎には相当な負荷がかかっていますが、そこに雨が降って花が水分を含んだり、強い風が吹いたりすると、細い茎は簡単に耐えきれなくなり、株全体が地面に倒れ込んでしまいます。
一度倒れて地面についてしまうと、泥はねによって美しい花が汚れてしまうだけでなく、土壌中の細菌が花や葉に付着し、そこから腐敗や病気が進行する原因となります。また、倒れてしまった茎を無理に元に戻そうとすると、硬質化した茎がポキッと折れてしまう事故も多発します。かすみ草の茎は意外と折れやすいのです。
このような悲劇を防ぐためには、「倒れてから対処する」のではなく、「倒れる前に予防する」ことが最も重要です。具体的には、草丈が20~30cmほどに伸び始めた成長の初期~中期の段階で、先回りして支柱を設置しておきましょう。
鉢植え栽培の場合におすすめなのが、アサガオ栽培などでよく目にする「リング支柱(行灯支柱)」です。株を囲むように支柱を立て、リングの中に茎を収めることで、全方向への倒伏を防ぐことができます。また、100円ショップや園芸店で手に入る「フラワーガード」や、細めの竹支柱を3〜4本立てて麻紐で周りを囲う方法も有効です。麻紐を使う際は、茎を直接縛り付けるのではなく、支柱同士を紐で繋いで「柵」を作り、その内側に植物を収めるイメージで設置すると、植物にストレスを与えずに自然な草姿を保つことができます。地植えで群生させている場合は、株の四隅に杭を打ち、ネットを水平に張って、網目の間から茎を伸ばす「フラワーネット」の手法を使うと、プロの生産者のような美しい立ち姿を実現できます。
かすみ草の育て方で初心者が守る管理法
ここからは、種まきや植え付けが終わった後の、日々の具体的なお世話(メンテナンス)について深掘りしていきます。「毎日お水をあげて、肥料もたっぷりあげれば元気に育つはず」というのは、かすみ草においては大きな誤解です。むしろ、植物を枯らしてしまう原因の多くは、愛情過多による「お世話のしすぎ」にあります。特についついやりがちな「水のやりすぎ」や「肥料のあげすぎ」は、かすみ草にとっては命取りになります。正しい距離感で付き合い、植物本来の力を引き出すことが、長く花を楽しむための秘訣です。
水やりは乾燥気味に管理する
かすみ草の水やりにおいて、絶対に忘れてはいけないキーワードは「乾燥気味」です。これを徹底できるかどうかが、栽培の成否の8割を握っていると言っても過言ではありません。
かすみ草の根は、過湿状態(常に土が濡れている状態)に非常に弱く、長時間水に浸かっていると呼吸ができずに細胞が死滅し、腐ってしまいます。これがいわゆる「根腐れ」です。根腐れを起こすと、地上部は水を吸い上げられなくなるため、皮肉なことに土は濡れているのに葉が萎れ、最終的には株全体が枯れてしまいます。
水やりの基本ルールは、「土の表面が完全に乾いてから、たっぷりと与える」ことです。土の表面を指で触ってみて、少しでも湿り気を感じるなら水やりは不要です。表面が白っぽくカサカサに乾き、鉢を持ち上げた時に軽く感じるようになってから、初めて水を与えます。そして、与える時は「たっぷりと」。鉢底の穴から水が勢いよく流れ出るまで注ぎます。これには、土の中に水分を補給するだけでなく、土の中に溜まった古い空気や老廃物を押し流し、新鮮な酸素を含んだ空気を土の奥深くまで引き込むという重要な役割があります。「完全に乾かす(乾)」と「たっぷり与える(湿)」のメリハリをつけることで、根は水を求めて強く伸び、健全な株に育つのです。
地植えの場合は、植え付け直後の根付くまでの期間を除き、基本的には自然の雨だけで十分に育ちます。よほどの日照りが数週間続き、葉が明らかに萎れてきた時以外は、ホースで水をまく必要はありません。
水やりのゴールデンタイムは「朝」
農林水産省のガイドラインでも、花きの高温対策として、かん水(水やり)は気温や地温の低い「早朝」に行うことが推奨されています。(出典:農林水産省『花きにおける高温対策』)
夕方以降に水をやると、夜間に土の中が高湿度の状態が続き、徒長を助長したり、カビ系の病気が発生しやすくなったりします。また、真夏の昼間に水をやると、鉢の中でお湯が沸いたようになり根を傷めます。必ず朝の涼しい時間帯に済ませる習慣をつけましょう。
肥料の与えすぎは枯れる原因
「綺麗なお花をたくさん咲かせたい!」「大きく育てたい!」という親心から、肥料をたっぷりとあげたくなる気持ちは痛いほど分かります。しかし、かすみ草栽培において、その親切心は時にアダとなります。かすみ草はもともと岩場や痩せた土地でも育つ植物であり、肥料、特に植物の三大栄養素の一つである「窒素(チッソ)」の過剰投与は、百害あって一利なしです。
窒素は主に葉や茎を育てる栄養素ですが、これが多すぎると、植物体は「今は体を大きくする時期だ」と勘違いし、生殖成長(花や種を作ること)よりも栄養成長(葉や茎を伸ばすこと)を優先してしまいます。その結果、葉ばかりが青々と茂って肝心の花が咲かなくなる「葉ボケ」や、茎が異常に伸びて軟弱になり、少しの風で倒れてしまう「軟弱徒長」を引き起こします。また、細胞壁が薄くなるため、アブラムシなどの害虫や病原菌に対する抵抗力も弱まってしまいます。
正しい施肥のスケジュールは以下の通りです。
- 元肥(もとごえ): 植え付けの際、緩効性肥料(ゆっくり効く粒状の肥料、マグァンプKなど)を、パッケージに記載されている規定量よりも「少なめ」に土に混ぜ込みます。多くの培養土には最初から肥料が入っているので、その場合は元肥自体が不要なこともあります。
- 追肥(ついひ): 基本的には元肥だけで十分育ちますが、葉の色が薄い場合や、生育が旺盛な春と秋の時期に限り、薄めた液体肥料を月に2回程度与えるか、少量の緩効性肥料を株元に置きます。
- 禁忌事項: 成長が止まる真夏や冬の休眠期には、肥料は毒になります。根が肥料成分を吸収できず、逆に肥料の濃度障害(肥料焼け)で枯れてしまうため、この時期は一切与えないようにしてください。
切り戻しで二番花を咲かせる

宿根草タイプ(パニクラータ種など)や、一部の一年草タイプでは、初夏に一通り花が咲き終わった後、適切な「切り戻し(剪定)」を行うことで、秋に再び花(二番花)を楽しめるチャンスがあることをご存知でしょうか。切り戻しとは、伸びすぎた茎や枝を人工的にカットして、株のサイズを調整したり更新させたりする作業のことです。
開花のピークが過ぎ、花全体の3割~5割ほどが茶色く枯れ込んできたら、切り戻しのサインです。思い切って株全体の半分から3分の1くらいの高さまで、ハサミでバッサリと水平にカットします。「せっかくここまで大きく育ったのに可哀想」「もしかしたらまだ咲くかも」と思って躊躇してしまう方が多いのですが、ここで心を鬼にしてカットすることが、かすみ草の寿命を延ばすために非常に重要です。
この時期(梅雨〜初夏)に切り戻しを行うことには、大きく2つのメリットがあります。
- 蒸れの防止と夏越し対策: 日本の夏は高温多湿です。枝葉がボサボサに茂ったままだと、株の内側の風通しが悪くなり、蒸れて枯れ込んでしまいます。バッサリ切ることで物理的に風通しを良くし、涼しい状態で夏を越させるのが最大の目的です。
- 株のリフレッシュと再開花: 植物には、頂点(茎の先端)が切られると、その下の節から新しい脇芽を出そうとする性質(頂芽優勢の打破)があります。切り戻しによって新しい元気な芽が動き出し、秋に向けて株がリフレッシュされ、うまくいけば秋にもう一度花を咲かせてくれるのです。
カットした後は、株の負担を減らすためにお礼肥(おれいごえ)として薄い液体肥料を与え、直射日光の当たらない涼しい場所で管理すると、スムーズに新芽が出てきます。
冬越しに必要なマルチング対策
秋まきした苗や、翌年も花を楽しめる宿根草タイプを冬越しさせる場合、寒さから根を守るための対策が欠かせません。かすみ草は比較的耐寒性のある植物(品種にもよりますがマイナス5℃〜10℃程度まで耐えることも)ですが、問題は気温そのものよりも、土壌の凍結や霜柱にあります。
冬の朝、土に含まれる水分が凍って「霜柱」ができると、土が隆起します。この時、まだ根の張りが浅い秋まきの苗などは、霜柱と一緒に根ごと持ち上げられてしまいます。その後、昼間に霜柱が溶けると土だけが下がり、根が空中に露出した状態になります。この状態で寒風に晒されると、根が乾燥して枯死してしまうのです。これを防ぐために行うのが「マルチング」です。
本格的な寒さが到来する前(11月下旬〜12月頃)に、株元を覆うように腐葉土、バークチップ、あるいは敷き藁(わら)などを厚さ2~3cmほど敷き詰めます。これだけで地温の急激な低下を防ぎ、霜柱の発生を抑制する「断熱材」の役割を果たしてくれます。寒冷地の場合は、さらに不織布(パオパオなど)をべた掛けして、寒風を遮断するのも有効です。
鉢植えの場合は、北風が直接当たらない南向きの軒下に移動させたり、夜間だけ玄関の中(暖房の効いていない5℃〜10℃程度の涼しい場所)に取り込んだりするのも非常に効果的です。ただし、冬場も根は生きているので、水やりを完全に止めてはいけません。土がカラカラに乾いたら、暖かい日の午前中に、少量だけ水やりをすることを忘れないでください。
枯れるのを防ぐ病気と害虫対策
かすみ草栽培における最大の脅威、それは「湿気」に起因する病気です。乾燥を好むかすみ草にとって、多湿環境は病原菌の温床となります。特に以下の2つの病気には最大限の警戒が必要です。
- 立枯病(たちがれびょう): 地際(じぎわ)の茎が茶色く変色して腐り、水を吸い上げられなくなって株全体が急速に萎れ、最終的に枯れてしまう恐ろしい病気です。原因は土壌中に潜むカビ(糸状菌)ですが、高温多湿や水はけの悪い土、連作(同じ土で何度も育てること)によって爆発的に増殖します。残念ながら一度発病した株は薬剤を使っても完治しないため、見つけ次第、心を鬼にして土ごと抜き取ってビニール袋に入れて廃棄し、周囲の健康な株への感染拡大を防ぐしかありません。
- 灰色かび病(ボトリチス病): 花や葉、茎に灰色のカビがふわふわと生え、腐敗していく病気です。梅雨時や秋の長雨の時期に発生しやすく、咲き終わった花がらや枯れ葉をそのまま放置していると、そこを発生源として胞子が飛び散り、蔓延します。予防には「清潔」が第一。花がら摘みをこまめに行い、風通しを良くすることが最も効果的な特効薬となります。
害虫に関しては、春先に新芽や茎に群がって植物の汁を吸う「アブラムシ」や、高温乾燥時に発生して葉の色を白っぽくかすれさせる「ハダニ」が一般的です。アブラムシは発見次第、キラキラした反射テープで忌避したり、マスキングテープで物理的に取り除いたり、オルトランなどの浸透移行性薬剤で予防・駆除します。ハダニは水に弱いため、乾燥する時期には霧吹きで葉の裏に水をかける(葉水)ことで予防できますが、かすみ草は過湿を嫌うため、やりすぎには注意が必要です。
ドライフラワーにする収穫の適期

かすみ草を育てる醍醐味の一つといえば、やはり自家製ドライフラワー作りでしょう。かすみ草は水分含有量が少なく、繊維質がしっかりしているため、吊るしておくだけで簡単にドライになり、初心者でも失敗が少ない花材です。自分で育てた花を、長くお部屋のインテリアとして楽しめるのは嬉しいですよね。
プロ並みの美しい仕上がりにするための最大のコツは、「花がしっかりと開いてから収穫すること」です。「つぼみの状態の方が可愛いかも?」と思うかもしれませんが、つぼみの多い状態でカットして乾燥させると、水分が抜ける過程でつぼみが茶色く縮こまってしまい、全体的に貧弱で汚れたような見た目になってしまいます。株全体の3割から5割以上の花がパッと開き、「今が一番見頃で綺麗だな」と思うタイミングこそが、ドライフラワーへの加工にベストな収穫期なのです。
失敗しないドライフラワーの作り方手順は以下の通りです。
- 収穫のタイミング: 晴れた日が数日続いた後の、湿度の低い日の午前中にハサミでカットします。雨上がりの直後は花が水分を多く含んでいるため、カビが生えやすくドライフラワー作りには向きません。
- 下準備: 乾燥の妨げになる下の方の葉や、変色した部分は丁寧に取り除きます。茎が重なると蒸れるので、欲張らずに数本ずつ小分けにして輪ゴムで縛ります。乾燥すると茎が痩せて細くなるので、輪ゴムはきつめに巻いておくのがポイントです。
- 乾燥場所: 風通しが良く、直射日光の当たらない室内に逆さまに吊るします(ハンギング法)。直射日光に当てると、紫外線で花が黄色っぽく変色(退色)してしまうので、必ず日陰で管理してください。扇風機の風を弱く当てて空気を循環させるのも効果的です。
環境にもよりますが、通常1週間~2週間ほどで、カサカサとした手触りのアンティークな風合いのドライフラワーが完成します。そのままスワッグにしたり、リースに混ぜたりして楽しんでください。
初心者も安心なかすみ草の育て方まとめ
ここまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。かすみ草は、その繊細な見た目とは裏腹に、「日当たり」と「水はけ(乾燥)」という2つの環境条件さえ整えてあげれば、実はとても生命力が強く、逞しく育つ植物です。
初心者のうちは、どうしても「枯らしたくない」という思いから、毎日水をあげたり肥料をあげたりと過保護になりがちです。しかし、かすみ草に関しては、環境を整えたらあとは「少し放任気味に見守る」くらいが、丁度良い距離感だと言えるでしょう。この記事のポイントを参考に、ぜひ今年はご自宅で、白い雲のような満開のかすみ草を楽しんでみてくださいね。
この記事の要点まとめ
- 種まきは暖地なら秋(9-10月)、寒冷地なら春(3-4月)に行うのが成功の基本
- 種は「好光性」なので、土は厚くかけず、ごく薄く覆う程度にする
- 初心者は成長が早く育てやすい一年草の「エレガンス種」から始めるのがおすすめ
- 苗の植え付け時は、直根性を傷めないよう「根鉢を絶対に崩さない」ことが鉄則
- 土は水はけの良いものを選び、苦土石灰を混ぜて酸度を中和(弱アルカリ性化)しておく
- 1日6時間以上の直射日光が当たる、風通しの良い屋外で管理する
- 室内管理は日照不足と蒸れによる病気の原因になるため避ける
- 水やりは土の表面が完全に乾いてからたっぷりと与え、乾燥気味をキープする
- 地植えの場合は、基本的に自然降雨のみで育て、過湿を防ぐ
- 肥料(特に窒素分)を与えすぎると、花付きが悪くなり倒れやすくなる
- 倒伏防止のため、成長初期に支柱やリングで早めにサポートする
- 花後は株の半分程度まで切り戻しを行うと、夏越ししやすく二番花も期待できる
- 冬場は株元にマルチングをして、霜や凍結から根を守る
- ドライフラワーにするなら、ある程度開花してから収穫し、直射日光を避けて日陰干しする
- 枯れる原因の大多数は「水のやりすぎ」と「日照不足」にあることを忘れない
|
|


