こんにちは、My Garden 編集部です。
紫色の美しい花穂と癒やしの香りで、古くから「ハーブの女王」として愛され続けているラベンダー。園芸店で苗を見かけるとついつい手に取りたくなりますが、「いつかは種から育てて、自分だけのラベンダー畑を作ってみたい」という憧れを抱いている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際に種を買ってはみたものの、「いつまけばいいの?」「袋には春と秋って書いてあるけど、どっちが正解?」と迷ってしまうことは少なくありません。
実は、ラベンダーの種まきの成功率を左右する最大の要因は、テクニックよりも「時期選び」にあります。北海道のような寒冷地なのか、それとも東京や大阪、福岡のような温暖地なのか、お住まいの地域の気候区分によって、選ぶべき正解のルートは180度異なります。春にまくべきか秋にまくべきかという最初の分岐点を間違えると、せっかく芽が出ても、日本の過酷な夏や冬を越せずに枯れてしまう悲しい結末になりかねません。この記事では、地域ごとのベストなタイミングの判断基準や、発芽率を劇的に上げるためのプロ直伝のコツ、そして発芽後の繊細な管理方法について、初心者の方にもわかりやすく徹底的に解説していきます。
この記事のポイント
- 北海道や寒冷地では春まきを選び冬までに株を育てる
- 関東以西の温暖地では秋まきが夏越しの成功率を高める
- 発芽させるには冷蔵庫を使った低温処理が重要なカギになる
- 好光性種子のため土はごく薄くかけ光を遮らないようにする
地域別で見るラベンダーの種まき時期の正解

日本は南北に細長く、亜寒帯から亜熱帯まで気候が大きく異なります。さらに四季の変化もはっきりしているため、ラベンダーの種まき時期を一律に「何月です」と決めることはできません。種の袋には「撒き時:4月〜5月、9月〜10月」と大雑把に書かれていることが多いですが、これを鵜呑みにするのは危険です。
お住まいの地域が冬に雪深くなる寒冷地なのか、それとも夏に猛暑日が続く暖地なのかによって、栽培戦略をガラリと変える必要があります。「いつまくか」は、その後の「夏越し」と「冬越し」という2つのハードルを、苗がどの成長段階で迎えるかをコントロールする重要な決断なのです。まずはご自身の環境に合ったベストなタイミングを見極めることから始めましょう。
北海道や寒冷地は春まきが推奨

北海道や東北北部、あるいは長野県の高原地帯など、冬の寒さが厳しく積雪がある地域にお住まいの場合、ラベンダーの種まきは「春まき」がもっとも適しています。具体的なカレンダー上の目安としては、雪解けが進み、桜(ソメイヨシノやエゾヤマザクラ)が散って地温がしっかりと上がり始めた4月下旬から6月中旬頃がベストシーズンとなります。
寒冷地で春まきを推奨する最大の理由は、本格的な冬が到来する前に、苗に十分な体力をつけさせるためです。ラベンダーの原産地である地中海沿岸の高地や、有名な産地であるフランスのプロヴァンス地方は、冷涼で乾燥した気候が特徴です。北海道の春から初夏にかけての気候は、まさにこの原産地の環境に近く、ラベンダーにとっては天国のような季節です。
春に発芽したばかりの小さな苗は、冷涼で過ごしやすい夏の間にお日様をたっぷりと浴びて、驚くほどのスピードで成長します。地上部の葉が茂るだけでなく、地中深くへと根を伸ばし、秋風が吹く頃には茎の根元が茶色く硬くなる「木質化(もくしつか)」が始まります。この木質化こそが、ラベンダーが寒さに耐えるための鎧となります。
もし寒冷地で「秋まき」をしてしまうとどうなるでしょうか。9月に種をまいて発芽しても、幼い苗のまま11月の厳しい冷え込みを迎えることになります。根の張りが浅い幼苗は、土壌中の水分が凍ってできる「霜柱(しもばしら)」によって持ち上げられ、根が切断されたり、凍結乾燥(フリーズドライ)のような状態になって枯死したりするリスクが極めて高くなります。もちろん、温室などの設備があれば別ですが、自然環境下での栽培であれば、春にスタートして年内にしっかりとした株を作り上げるのが王道です。
寒冷地でのポイント
寒冷地で最も恐れるべきは冬の「凍上(とうじょう)」です。春まきで育てた苗が冬を迎える際は、株元に腐葉土などでマルチングを行い、根を保護してあげると越冬率がさらに高まります。また、雪の下は意外と温度が一定に保たれるため、雪に埋もれてしまった方が乾燥した寒風に晒されるよりも安全な場合が多いです。
温暖地では秋まきが成功の鍵

一方で、関東から西の地域(東海、近畿、中国、四国、九州)の平野部、いわゆる温暖地・暖地にお住まいの方には、断然「秋まき」をおすすめします。時期としては、厳しい残暑が和らぎ、夜風が涼しく感じられるようになる9月中旬から10月下旬頃が適期です。自然界のサインとしては、彼岸花が咲き始める頃から、金木犀の香りが漂う頃までが目安となります。
なぜ温暖地では春まきではなく秋まきが推奨されるのでしょうか。その答えは、日本の温暖地特有の気候、すなわち「梅雨の長雨」と「真夏の高温多湿」にあります。ラベンダーは高温多湿を極端に嫌う植物です。特に発芽して間もない幼苗は、病気に対する抵抗力が弱く、蒸れに対する耐性もほとんどありません。
もし3月や4月に春まきをした場合、発芽してようやく本葉が数枚出たかどうかのタイミングで、ジメジメとした梅雨入りを迎えることになります。さらにその後には、夜温が25℃を下回らない熱帯夜と、強烈な日差しが続く真夏が待っています。この過酷な「日本の夏」を、未熟な赤ちゃんの状態で乗り越えるのは至難の業です。多くの苗が、蒸れて溶けるように枯れてしまったり、立ち枯れ病にかかって全滅したりしてしまいます。
これに対し、秋まきには大きなメリットがあります。
- 発芽適温の確保:秋は気温が徐々に下がっていくため、発芽に適した20℃前後の期間を長く確保でき、発芽のタイミングが揃いやすくなります。
- 病気のリスク低減:気温の低下とともに、立ち枯れ病の原因となるカビ(糸状菌)の活動が鈍くなるため、幼苗の生存率が格段に上がります。
- 根の成長:地上部の成長は冬の間ゆっくりになりますが、地中の根は比較的暖かいため成長を続けます。秋のうちに根を張らせておくことで、春の訪れとともに爆発的な成長(スプリング・フラッシュ)を見せてくれます。
「冬の寒さで枯れないの?」と心配になるかもしれませんが、ラベンダー(特にイングリッシュ系やラバンディン系)は本来耐寒性が非常に強い植物です。幼苗であっても、関東以西の平野部の寒さ程度であれば、特別な防寒なしでも十分に耐えられます。むしろ、冬の寒さに当たることで株が引き締まり、花芽の分化が促進されるというメリットさえあります。
春まきのリスクと梅雨対策
「どうしても春から育て始めたい」「秋まで待てない」という方もいらっしゃるでしょう。もちろん、温暖地でも春まきが物理的に不可能というわけではありません。しかし、それは「いばらの道」であることを覚悟する必要があります。3月から4月に種をまく場合、発芽させること自体は簡単ですが、その後の「守り」の園芸が求められます。
生まれたばかりのラベンダーの幼苗は、高温多湿環境下では驚くほど脆弱です。葉に雨粒が長時間残っているだけで、そこから腐りが入ることもあります。もし温暖地で春まきに挑戦するなら、以下の徹底した梅雨・夏越し対策が必須となります。
1. 鉢植えでの管理を徹底する
地植え(花壇)に種を直まきするのは避けましょう。移動ができない地植えでは、長雨を避けることができません。必ずセルトレイやポリポット、あるいは移動可能なプランターで育苗し、環境の変化に合わせて置き場所を変えられるようにします。
2. 雨を鉄壁の守りで防ぐ
梅雨の時期は、雨の当たらない軒下やベランダの奥に移動させます。「少しぐらいならいいか」という油断が命取りです。泥はね一つで病気に感染することもあるため、地面に直接置かず、棚やフラワースタンドの上に置いて、泥はね防止と通気性の確保を行います。
3. 真夏の遮光と温度管理
梅雨が明けたら、次は猛暑対策です。直射日光、特に西日は幼苗にとって強すぎます。寒冷紗(かんれいしゃ)や遮光ネットを使って30%〜50%程度の日光をカットし、風通しの良い涼しい場所で管理します。コンクリートの上に直接置くと照り返しの熱で根が煮えてしまうので、すのこを敷くなどの工夫も必要です。
春まきの注意点まとめ
・梅雨の時期は一滴の雨も当てない覚悟で軒下に退避。
・風通しを最優先し、サーキュレーターなどを活用して空気を動かす。
・真夏は直射日光を避け、明るい日陰(シェードガーデン)で休ませる。
これだけの手間と気配りが必要になるため、初めてラベンダー栽培に挑戦する方には、自然のリズムに逆らわず、管理が圧倒的に楽な「秋まき」からスタートすることを強くおすすめします。
発芽適温と気温の条件を知る
植物の種には、それぞれ「芽を出すスイッチが入る温度」が決まっています。これを「発芽適温(はつがてきおん)」と呼びます。ラベンダーの種が発芽するために必要な温度は、一般的に15℃〜20℃前後、高くても25℃以下と言われています。これは他の草花に比べて、意外と狭く、そして低めの温度帯です。
この温度条件を理解することが、失敗しないための第一歩です。
低温限界(10℃以下)
気温が10℃を下回ると、種は「まだ冬だ」あるいは「寒すぎる」と判断し、代謝活動をほとんど停止させます。種をまいても一向に変化がなく、土の中でじっと待機するか、最悪の場合はそのまま腐ってしまいます。春まきで焦って早まきしすぎると失敗するのはこのためです。
高温阻害(25℃以上)
逆に、気温が25℃を超え始めると、ラベンダーの種は「今は暑すぎて危険だ」という防衛本能を働かせます。これを「二次休眠(Thermo-inhibition)」と呼びます。一度休眠に入ってしまうと、その後適温に戻ってもなかなか目が覚めないことがあります。近年は5月でも真夏日(30℃以上)を記録することがあるため、春まきの難易度は年々上がっています。
種まきのタイミングを決める際は、カレンダーの日付や「なんとなく暖かくなったから」という感覚だけで判断せず、気象庁のデータや週間天気予報をしっかり確認することが重要です。最高気温だけでなく、夜間の最低気温や地温がこの範囲(15℃〜20℃)に安定して収まっているかを見極めてから種をまくのが、成功への近道です。
(出典:気象庁|過去の気象データ検索)
ラバンディンなど種類別の適性

ここで、種を購入する前に知っておかなければならない、非常に重要な注意点があります。実は「ラベンダー」と一口に言っても様々な系統があり、その中には種から育てるのに向いていない、あるいは物理的に不可能な種類が存在します。
園芸店やホームセンターで美しく咲いているラベンダーを見て「これの種が欲しい!」と思っても、それが種子繁殖できない品種である可能性があるのです。
ラバンディン系(グロッソ、スーパーセビリアンなど)
暑さに強く、大型に育ち、強い香りが特徴のラバンディン系(Lavandula x intermedia)。日本の暖地でも育てやすいため非常に人気がありますが、これらは「コモンラベンダー」と「スパイクラベンダー」を掛け合わせた交配種(ハイブリッド)です。この系統は基本的に「不稔性(ふねんせい)」といって、種ができません。もし種ができたとしても、それをまいて育った子供は、親の優れた性質(香りや耐暑性)を受け継がず、バラバラの性質(先祖返り)を示してしまいます。そのため、ラバンディン系の種は市販されておらず、全て「挿し木」で作られた苗から育てるのがルールです。
コモンラベンダー(イングリッシュ系)
北海道の富良野などで見られる、香りの良い代表的なラベンダーです。この系統は種子繁殖が可能で、多くの品種の種が市販されています。ただし、実生(種から育てること)の場合は、株ごとに微妙に香りの強さや花の色、草姿に個体差が出ることがあります。これを「バラつき」と捉えるか、「個性」と捉えるかが楽しみの分かれ目です。
| 系統 | 代表品種 | 種子繁殖 | 特徴とアドバイス |
|---|---|---|---|
| コモンラベンダー (イングリッシュ系) |
ヒドコート マンステッド レディ |
◎ 向いている |
種から育てて香りを楽しめる王道。寒冷地向きだが、秋まきなら暖地でも栽培可能。個体差を楽しむ余裕が必要。 |
| ストエカス系 (フレンチ系) |
アヌーク キューレッド |
△ 可能だが少ない |
ウサギの耳のような苞葉が特徴。種も売られているが、苗の流通が圧倒的に多い。暖地向きで育てやすい。 |
| ラバンディン系 | グロッソ プロバンス |
× 不向き |
基本的に種はできないか、親と同じにならない。この系統を育てたい場合は、迷わず苗を購入すること。 |
成功率を上げるラベンダーの種まき時期と手順
自分に合った最適な時期と、育てるべき品種が決まったら、いよいよ実践編です。しかし、ラベンダーの種まきは、小学校で育てた朝顔やひまわりのように「土に指で穴を開けて、種を埋めて、水をやれば数日で芽が出る」という単純なものではありません。何も知らずにまくと、発芽率が10%以下ということも珍しくない「難関」の一つです。
でも安心してください。植物生理学に基づいた「ちょっとしたコツ」と「正しい手順」さえ守れば、誰でもかわいい芽に出会うことができます。
冷蔵庫で休眠打破する前処理
市販のラベンダーの種を買ってきたら、封を開けてすぐに土にまいてはいけません。これが最大の落とし穴です。野生のラベンダーの種は、秋に地面に落ちた後、厳しい冬の寒さを土の中で経験し、「寒さが終わった!春が来た!」と感じ取って初めて目を覚ますというメカニズムを持っています。これを「休眠(Dormancy)」と言います。
買ってきた種は、まだ深い眠りについている状態であることが多く、そのまま暖かい時期にまいても「まだ起きる時間じゃない」と判断して発芽しないことが多いのです。そこで行うのが、冷蔵庫を使って人工的に冬を体験させる「低温湿潤処理(Cold Stratification)」というテクニックです。
具体的な手順

- 準備するもの:キッチンペーパー(または脱脂綿)、水、ジップロックなどの密閉できる袋やタッパー。
- 湿らせる:キッチンペーパーを水で十分に湿らせます。びしょびしょ過ぎる場合は軽く絞ってください。
- 種を包む:湿らせたペーパーの上に種を重ならないように広げ、包み込みます。
- 密閉する:乾燥を防ぐため、ペーパーごとジップロックに入れます。この時、空気を少し残しておくとカビ防止になります。
- 冷蔵庫へ:冷蔵室(野菜室ではなく、5℃前後の冷蔵室がおすすめ)に入れて、2週間〜1ヶ月間じっくりと寝かせます。
この期間中に、種の中では発芽を抑制するホルモン(アブシジン酸)が分解され、発芽を促進する準備が整います。この「冷蔵庫での冬体験」を経た種は、土にまかれた後に驚くほど一斉に、そして元気に発芽してくれます。少し手間に感じるかもしれませんが、この工程が成功の8割を握っていると言っても過言ではありません。
種まき用の土や用土の選び方

ラベンダーの赤ちゃん(実生苗)は、生まれたての状態では非常にデリケートです。特に土壌中の細菌やカビに対する抵抗力が弱く、不潔な土を使うとあっという間に感染して枯れてしまいます。また、発芽直後の根は塩分濃度に敏感で、肥料分が多すぎる土では「肥料焼け」を起こして根が傷んでしまいます。
そのため、種まきに使う土は、必ず「新品」かつ「清潔(無菌)」で「肥料分が含まれていない」ものを選ぶ必要があります。庭の土を掘り返したものや、使い古しのプランターの土を再利用するのは絶対にNGです。そこには目に見えない病原菌や害虫の卵が潜んでいるからです。
おすすめの用土
- 種まき専用培養土:ホームセンターなどで売られている専用土。ピートモスやバーミキュライトなどが細かく調整されており、pHも調整済み。最も失敗が少なく、初心者の方にはこれ一択でおすすめします。
- バーミキュライト(単用):非常に軽く、保水性と通気性のバランスが良い無菌の土。種まきの床土として非常に優秀です。
- ピートバン:圧縮されたピートモスの板で、水を吸わせると膨らみます。清潔で扱いやすく、細かい種をまくのに適しています。
もし自分でブレンドする場合は「赤玉土(極小粒)」や「鹿沼土(細粒)」をベースにしますが、粒が大きすぎると小さな種が隙間に落ち込んでしまうため、必ず目の細かい土を選んでください。
覆土は薄くし光を当てるコツ
種を土の上に置いた後、どれくらい土を被せるか(覆土:ふくど)は、植物によって異なります。ここがラベンダーの種まきにおける第二の失敗ポイントです。
ラベンダーの種は「好光性種子(こうこうせいしゅし)」という性質を持っています。文字通り「光を好む」種であり、発芽のスイッチを入れるためには、水分と温度に加えて「光」が必要不可欠なのです。フィトクロムという色素が光を感じ取ることで、発芽プロセスが開始されます。
一般的な野菜の種のように、指でズボッと穴を開けて深く埋めたり、上から土を厚くかぶせて手でパンパンと叩いたりしてしまうと、種に光が届かず、永遠に眠り続けたままになってしまいます。
正しい覆土の方法

種をまいた後は、土をかけるとしてもごく薄く(1〜2mm程度)、種が隠れるか隠れないかギリギリの厚さでバーミキュライトなどをパラパラと散らす程度に留めます。あるいは、土を全くかけずに、指の腹で種を土に軽く押し付け(鎮圧)、種と土を密着させるだけでも十分です。
そして、種まきをした容器(セルトレイやポット)は、真っ暗な場所ではなく、「明るい日陰」に置くことが重要です。直射日光は土を乾燥させ、温度を上げすぎてしまうので避けますが、レースのカーテン越しのような柔らかな光が当たる場所が最適です。
発芽までの水やりと管理方法
種をまいてから発芽するまでの期間(通常2週間〜3週間程度)は、水やりに関して「絶対の掟」があります。それは、「一度湿らせた種を、発芽するまで絶対に乾かしてはならない」ということです。
種は水分を吸収して膨らみ、酵素が働き出します。この途中で土がカラカラに乾いてしまうと、動き出した胚(植物の赤ちゃん)は干からびて死んでしまいます。一度死んでしまった種は、その後いくら水をあげても二度と復活しません。
しかし、ここで問題になるのが水やりの方法です。ラベンダーの種はゴマ粒よりも小さいため、ジョウロで上からジャバジャバと水をかけると、水流で種が流されてしまったり、土の深くに潜り込んでしまったりします。
底面給水(ていめんきゅうすい)のすすめ

そこでおすすめなのが、底面給水というテクニックです。
- 種まきをした容器(セルトレイやポット)が入る大きさのトレイや受け皿を用意します。
- そのトレイに水を浅く(1〜2cm程度)張ります。
- 容器をトレイの中に置きます。
- 底穴から毛細管現象によって水がじわじわと吸い上げられ、土の表面まで湿ります。
この方法なら、種を動かすことなく、常に土壌水分を均一に保つことができます。水が減ってきたらトレイに水を足すだけでOKです。さらに、湿度を保つために、容器の上に食品用ラップをふんわりとかけたり、濡れた新聞紙を被せたりするのも有効です(ただし、発芽したらすぐに外してください)。
芽が出ない原因と発芽しない時
「種まきから2週間経ったのに、うんともすんとも言わない…」「毎日水やりしているのに、土の表面に変化がない」
そんな時、不安になりますよね。ラベンダーの発芽日数は、条件が整っていれば早くて1週間、通常で2週間程度ですが、環境によっては1ヶ月近くかかることもあります。しかし、もしそれ以上経っても芽が出ない場合は、何かしらの原因で「発芽失敗」してしまった可能性が高いです。よくある失敗原因と対策をチェックリスト形式で確認してみましょう。
1. 低温湿潤処理(休眠打破)が不十分だった
これが最も多い原因です。特に輸入種子や、収穫されてから日が浅い種子は深い休眠状態にあります。「面倒だから」といって冷蔵庫での処理を飛ばしてしまったり、乾燥したまま冷蔵庫に入れてしまったり(湿潤状態でないと効果がありません)していませんか?
対策:
もし種が余っているなら、今からでも湿らせて冷蔵庫に入れ直し、2週間後に再チャレンジしましょう。すでにまいてしまったポットについては、ダメ元で乾燥させないように管理を続けるしかありませんが、気温が下がって自然の低温に当たるのを待つ(実質的な秋まき状態にする)のも一つの手です。
2. 覆土(土のかけすぎ)で光が届いていない
前述の通り、ラベンダーは好光性種子です。良かれと思って丁寧に土を被せすぎてしまうと、種は「暗い=まだ土の中深くにある」と判断して発芽スイッチを切り続けてしまいます。
対策:
土の表面を霧吹きなどで洗い流すようにして、少し種を露出させてみてください。あるいは、ピンセットでそっと土を掘り返して種を表に出してあげるという「外科手術」も有効な場合があります。
3. 発芽プロセスの途中で乾燥させた
種が一度水を吸って膨らみ、酵素が働き始めた後に、土が乾いてしまう「水切れ」を起こすと、胚が死滅してしまいます。特に、日中の仕事中や外出中に、予想外の日差しで土が乾いてしまうケースが多いです。
対策:
残念ながら、乾燥死してしまった種は復活しません。新しい種で再挑戦しましょう。次回は底面給水を徹底し、ラップで保湿する期間を少し長めに取ってみてください。
4. 気温が適温範囲外だった
春の寒の戻りで10℃以下が続いたり、逆に5月の真夏日で30℃近くになったりしていませんか?気温が安定しない時期は、発芽スイッチが入りにくいものです。
対策:
寒い場合は室内の暖かい窓辺(夜間は冷えるので注意)に取り込み、暑い場合は風通しの良い涼しい日陰に移動させます。発泡スチロールの箱などを利用して、温度変化を緩やかにしてあげるのも効果的です。
苗が枯れる立ち枯れ病の対策

無事に発芽して、小さくて可愛い双葉(子葉)が開いた!と喜んだのも束の間。昨日まで元気だった苗が、ある朝突然、地際からくびれるように倒れて枯れてしまう…。これが、ラベンダーの実生栽培で最も恐ろしい「立ち枯れ病(Damping-off)」です。
立ち枯れ病は、ピシウム菌やリゾクトニア菌といった土壌中の病原菌(カビの一種)が原因で起こります。一度発症すると、その苗はほぼ100%助かりません。さらに恐ろしいのは、隣の苗へと次々に感染が広がり、一夜にしてトレイ全滅という悪夢を引き起こすことです。
この病気は「治療」よりも「予防」が全てです。発芽直後から、以下の対策を徹底してください。
1. 風通しを劇的に改善する
発芽するまでは湿度が必要でしたが、発芽した瞬間から「過湿」は敵に変わります。双葉が開いたらすぐに保湿用のラップや蓋を外し、風通しの良い場所に移動させます。室内であれば、サーキュレーターや扇風機の風を(直接当てないように壁に当てて)空気を循環させ、苗の周りの空気が淀まないようにします。
2. 水やりのメリハリをつける
いつまでも底面給水を続けて土をジメジメさせておくのは危険です。本葉が見え始めたら底面給水を卒業し、「土の表面が乾いたら、細かい目のジョウロで優しくたっぷりと与える」というサイクルに切り替えます。土が乾く時間を作ることで、病原菌の増殖を抑え、同時に根が水を求めて伸びようとする力を引き出します。
3. 混み合った芽を間引く(まびく)
「せっかく出た芽を抜くなんて可哀想」と思うかもしれませんが、密集は蒸れの原因になります。隣り合う葉が触れ合っている状態なら、心を鬼にして間引きを行います。
間引きのコツ
元気な苗を残すために、弱い苗を引き抜こうとすると、根が絡まって元気な苗まで傷つけてしまうことがあります。間引く際は、引き抜くのではなく、眉毛切りバサミなどの先の細いハサミを使って、地際でチョキンと切るのが正解です。
4. 予防的に殺菌剤を使う
もし過去に立ち枯れ病で失敗した経験があるなら、転ばぬ先の杖として薬剤を使うのもプロの選択です。「オーソサイド水和剤」や「ダコニール1000」などの殺菌剤を、規定倍率で希釈して水やり代わりに散布することで、病原菌の繁殖を強力に抑えることができます。
ラベンダーの種まき時期を守り栽培を成功へ
ラベンダーを種から育てる道のりは、決して平坦なものではありません。苗を買ってきて植えるだけのガーデニングに比べれば、何倍もの時間と手間がかかります。「発芽しない」「枯れてしまった」という失敗も経験するかもしれません。
しかし、その苦労の先には、苗から育てた時には味わえない特別な感動が待っています。小さな種が水を吸って目覚め、懸命に根を伸ばし、厳しい季節を乗り越えて、やがて紫色の花を咲かせた時の喜び。そして、その花から漂う香りは、あなたにとって間違いなく世界で一番の癒やしになるはずです。
また、実生栽培には「環境への順化」という大きなメリットがあります。あなたの住む地域の気候、あなたの庭の土壌環境で、赤ちゃんの頃から育ったラベンダーは、他所から持ってきた苗よりも環境適応能力が高く、強くたくましい株に育つ可能性を秘めています。
今回ご紹介した「地域に合った種まき時期」と「低温処理などの基本テクニック」を武器に、ぜひあなたもラベンダーの種まきに挑戦してみてください。失敗を恐れずに、植物の生命力を信じてじっくりと向き合う時間は、きっとあなたのガーデニングライフをより豊かで奥深いものにしてくれるでしょう。
この記事の要点まとめ
- ラベンダーの種まき時期は地域の気候によって明確に異なる
- 北海道や寒冷地は4月下旬から6月の春まきがベスト
- 春まきなら寒冷地の短い夏を利用して冬までに株を充実させられる
- 関東以西の温暖地や暖地は9月中旬から10月の秋まきが推奨
- 温暖地での春まきは梅雨と夏の高温多湿で枯れるリスクが高い
- 発芽適温は15℃〜20℃と比較的狭い範囲に限られる
- 25℃を超えると種が二次休眠して発芽しなくなる
- ラバンディン系は種ができないため挿し木苗を購入すべき
- 冷蔵庫で2週間以上低温湿潤処理をすると発芽率が上がる
- 種まき用の土は無菌で肥料分のない新しいものを使う
- 好光性種子なので覆土はごく薄くするか全くかけない
- 発芽までは乾燥厳禁だが発芽後は過湿に注意する
- 水やりは種が流れないよう底面給水で行うのが安全
- 立ち枯れ病を防ぐため発芽後は風通しを良くし間引きを行う
- 種から育てることで環境に順化した強い株を作ることができる
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