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こんにちは。My Garden 編集部です。
大切に育てている植物の葉に、ある日突然、見慣れない「白い粉」がついていたら…。なんだか葉の色つやも悪く、元気もなくなってきたみたいで、本当にショックですよね。それは、ガーデナーにとって最も悩ましい病気の一つ、「うどん粉病」かもしれません。
うどん粉病は、きゅうりやカボチャなどの野菜から、バラやサルスベリといった花木、トマト、イチゴに至るまで、本当に多くの植物に発生するやっかいな病気です。この白い斑点の原因は一体何なのか、もし放置したら株全体が枯れてしまうのか、そして触ったりして人間にうつることはないのか、感染してしまった野菜や果物はもう食べられないのか…不安は尽きないかなと思います。
でも、安心してください。うどん粉病は、そのやっかいさゆえに研究も進んでおり、その原因と発生しやすい条件をしっかり知って、正しく対策すれば、必ず防除できる病気です。強力な薬剤を使う方法はもちろん、ご家庭にある重曹や酢、あるいは牛乳スプレーを使ったオーガニックな予防法もあります。
この記事では、うどん粉病の基本的な知識(あの白い粉の正体)から、なぜ薬が効かないと感じることがあるのか、その対処法まで、皆さんの「困った!」を解決するための情報を、できるだけ分かりやすく、詳しくまとめました。
この記事のポイント
- うどん粉病の正体と発生するメカニズム
- 放置した場合の植物への具体的な被害
- 重曹や酢などを使った家庭でできる安全な対策
- 薬剤耐性を防ぐ「ローテーション散布」の重要性
うどん粉病の基礎知識と見分け方
うどん粉病対策の第一歩は、まず「敵」を正しく知ることから始まります。あの厄介な白い粉の正体は一体何なのか、どういう条件で発生しやすくなるのか。そして、もし放置してしまったら植物はどうなってしまうのか…。ガーデニングを楽しむ上で避けては通れないこの病気について、基本的な知識と、見逃しがちな初期症状の見分け方を詳しく解説しますね。
白い粉の正体と初期症状
植物の葉や茎についている、あの小麦粉をまぶしたような「白い粉」。
初めて見つけた時は「ホコリかな?」「何かの(益虫の)卵かな?」と思うかもしれませんが、残念ながらこれはカビによる病気のサインです。しかも、この白い粉は病気の症状(例えばカサブタのようなもの)ではなく、「うどんこ病菌」というカビそのものなんです。
うどんこ病菌の正体
具体的には、植物の表面で増殖したカビの「菌糸(きんし)」と、そこからロケットのように次々と、そしておびただしい数、生み出される「分生子(ぶんせいし=胞子)」の集合体なんですね。つまり、あの白い粉は病原菌の本体であり、同時に風に乗って次の感染を引き起こす感染源そのもの、というわけです。風が吹けば、この胞子が一斉に飛散し、周囲の健康な葉に付着して次々と感染を広げていきます。
ちなみに、うどんこ病菌には非常に強い「宿主特異性(しゅくしゅとくいせい)」という面白い特徴があります。これは「キュウリにつく菌はキュウリ(やメロン、カボチャなどウリ科)にしかつかない」「バラにつく菌はバラにしかつかない」という性質のこと。菌の種類が植物ごとに細かく分かれているんですね。
ですから、お庭のバラがうどん粉病になったからといって、そのすぐ隣にある家庭菜園のきゅうりやトマトに、その菌がうつる心配は基本的にありません。これはガーデナーにとって、少し安心できるポイントですね。
見逃さないで!初期症状と進行

うどん粉病は、どんな病気もそうですが「早期発見・早期対処」が鉄則です。初期症状は非常に見逃しやすいので、注意深く観察しましょう。
【初期症状の見分け方】
- 葉や茎の表面に、小さな白い斑点がぽつぽつと現れる。円形にうっすらと粉が吹いたように見えます。
- 粉は指でこすると、案外簡単に落ちる。(ただし、こすることは推奨しません! 指に付着した胞子を他の葉に広げたり、胞子をその場に撒き散らすことになります)
- 特に風通しが悪く湿気がこもりやすい、株の下葉や葉裏から発生しやすい。
- 若い新芽や、つぼみのガクの部分、柔らかい茎など、植物の成長が活発で柔らかい場所に最初に出ることも多いです。
この「ぽつぽつ」とした初期症状を「ちょっと汚れてるだけかな?」と見逃してしまうと、本当にあっという間です。白いカビ(菌糸)が放射状に勢力を広げ、やがて斑点同士がくっついて葉全体を覆い尽くし、さらには茎や葉柄、ひどい場合はつぼみや果実の表面にまで広がってしまいます。
病気が進行すると、カビに覆われた葉は光合成ができなくなり、養分も吸い取られ、やがて黄色くなったり(黄化)、茶色くカサカサになったり(褐変)、奇形になったりして、最終的には元気がなくなってしまうんです。
うどん粉病が発生する原因とは
うどん粉病が発生するには、いくつかの「条件」が揃う必要があります。「菌がどこかから飛んでくる」こと、そして「菌が定着・増殖しやすい環境」があること。主な原因は「菌の存在」と「菌が好む環境」ですね。
1. 時期と気温
うどんこ病菌は、人間が過ごしやすい「春」や「秋」が大好きです。日本では、気温が上がり始める5月~6月の梅雨入り前と、猛暑が和らぐ9月~10月の秋雨の合間に特に発生しやすくなります。
菌が最も活発に増殖し、感染を広げるのは17℃〜25℃くらいの気温です。真夏の30℃を超える猛暑では、さすがのうどんこ病菌も少し活動が鈍る(種類によりますが)ことが多いのですが、この適温の範囲なら、基本的にいつでも発生する可能性があると思っておいた方が良いですね。
2. 湿度と水分(重要なポイント)
うどん粉病のちょっと変わった、そして最もやっかいな特徴なんですが、実は「乾燥した空気」を好み、胞子が活発に飛散するんです。多くのカビ(例えば、お風呂場の黒カビや、野菜のべと病など)がジメジメした「多湿」を好むのとは、ちょっと逆なんですね。
だから、雨が続く梅雨の時期は、雨粒で胞子が物理的に洗い流されて一時的におさまっていても、「梅雨明け」の高温・乾燥した時期に爆発的に発生することがよくあります。
うどん粉病の好む「矛盾した」環境とは?
ここで少し混乱するかもしれません。「乾燥を好む」のに、なぜ梅雨明けや秋雨の時期に多いのでしょうか?
実は、うどんこ病菌にとっての理想郷は「空気は乾燥している(胞子が風で遠くまで飛びやすい)けれど、植物の株元や葉の表面は多湿(胞子が発芽し、菌糸が伸びやすい)」という、一見矛盾した状態なんです。
- 空気の乾燥 → うどんこ病菌の胞子(分生子)が乾いた状態で風に乗り、広範囲に飛散します。
- 局所的な多湿 → 葉が茂りすぎている株元、密植による蒸れ、土壌の湿気、そして「朝露」や「夜露」などで葉の表面がわずかに湿る時間帯。この湿り気を利用して、葉に付着した胞子が発芽し、組織に侵入するんです。
つまり、「昼間は乾燥して胞子が飛び、夜間に葉が露で湿って感染する」というサイクルが、菌にとって最高の環境になってしまうんです。
3. 栽培環境のリスク

菌がどこかから飛んできても、植物が健康で、菌が住みにくい環境なら、発病を抑えることができます。逆に、以下のような環境はうどん粉病のリスクをぐっと高めてしまいます。
- 窒素(チッソ)肥料のやりすぎ葉や茎を育てる窒素肥料が多すぎると、植物体は一見よく茂りますが、細胞壁が薄く柔らかい「軟弱徒長」の状態になってしまいます。これは、菌にとって「物理的に侵入しやすい!」「養分が豊富!」と喜ばれる状態です。
- 日照不足と風通しの悪さ密植(ぎゅうぎゅうに植えること)や、剪定不足で葉が茂りすぎると、株元に光が当たらず、風も通りません。これが前述の「局所的な多湿(蒸れ)」を生み出し、葉が乾きにくくなり、菌が繁殖しやすい隠れ家を提供してしまいます。
- 株の弱体化水切れを頻繁に起こしていたり、逆に水のやりすぎや水はけの悪い土で根腐れ(根傷み)を起こしていたりすると、株は深刻なストレスを受けます。ストレスで弱った植物は、病気への抵抗力(防御物質を作る体力など)が落ちてしまい、健康な株なら跳ね返せるはずの菌にも感染しやすくなります。
- 菌の越冬場所(被害残渣)うどんこ病菌は、前年に病気になった葉や茎(被害残渣)にくっついたまま、あるいは特殊な(子のう殻という)形で冬を越します。これらを庭に放置しておくと、翌春の気温上昇と共に胞子を飛ばし始め、その年の最初の感染源(第一次伝染源)となります。
うどん粉病の発生条件まとめ
「気温は17〜25℃」「昼間は乾燥して胞子が飛散」「でも株元は葉が茂ってジメッとしている(朝露・夜露も危険)」「窒素肥料が多めで軟弱に育っている」「日当たりと風通しが悪い」「近くに去年の病気の葉が残っている」…これが揃うと最悪のシナリオ、というわけですね。
放置は危険?うどん粉病の被害
「白い粉がついてるだけなら、見た目が悪いだけじゃない?」と思うかもしれませんが、それは大きな間違いです。うどん粉病は植物にとって、静かに、しかし確実に体力を奪い続ける恐ろしい病気なんです。
1. 最大の被害は「光合成の阻害」
植物は、葉の表面にある「葉緑体」で太陽の光を浴び、「光合成」を行うことで、生きるためのエネルギー(糖などの養分)を作っています。うどん粉病の最大の被害は、この生命活動の根幹である光合成を、物理的に阻害することです。
葉の表面が白いカビでびっしりと覆われてしまうと、どうなるでしょうか?
まるで葉に白いペンキを塗ったのと同じ状態で、太陽の光が葉緑体に届かなくなってしまいます。これにより、植物のエネルギー生産能力は著しく低下してしまいます。
2. じわじわと「養分の収奪」
さらに、うどんこ病菌はただ葉の表面を覆うだけではありません。菌糸の一部を、植物の細胞の内部に特殊な形で侵入させます(これを「吸器(きゅうき)」と呼びます)。そして、植物が光合成でせっかく作った大切な養分(糖など)を、この吸器を通して直接、横取りしてしまうんです。
光合成を邪魔されてエネルギーを「作れない」のに、さらに内部からエネルギーを「奪われる」…。この「外部からの光合成阻害」と「内部からの養分収奪」という二重の攻撃によって、植物は深刻なエネルギー不足、いわば「栄養失調」の状態に陥ります。
3. 結果として起こること(末期症状)

この深刻なエネルギー不足になった植物は、当然ながら元気がなくなっていきます。体力(養分)が尽きていくと、以下のような症状が現れます。
- 生育不良:株の成長が著しく遅れたり、新しい芽や葉が出なくなったり、成長が完全に止まってしまいます。
- 黄化・褐変:養分を作れず、菌に覆われた葉は、やがて葉緑素を失って黄色くなったり(黄化)、カサカサに乾いて茶色く枯れたり(褐変)します。
- 落葉:植物は、機能しなくなった葉を維持する体力を温存しようと、病気にかかった葉を自ら落とすことがあります(早期落葉)。
- 観賞価値の低下:花が咲かなくなったり、つぼみのまま開かずに落ちてしまったり、花や葉がねじれたり縮れたり、奇形になることもあります。
- 枯死:この状態が株全体に広がり、エネルギー不足が限界に達すると、株全体が衰弱し、最終的には枯れてしまう原因となります。
特にきゅうりやトマト、イチゴなどの野菜・果樹では、収穫量の大幅な減少や、果実の味が悪くなる(糖度が上がらない)など、栽培の成果に直結する深刻な被害となります。「ただの白い粉」と放置することが、いかに危険かお分かりいただけるかなと思います。
うどん粉病は人間にうつる?
植物が病気になると、「これって触っても大丈夫?」「菌が飛んで、人間の体(肺など)に入ったらどうしよう?」と心配になるかもしれませんね。特に小さなお子さんやペットがいるご家庭ではなおさらだと思います。
まず結論から言うと、うどんこ病菌が人間に寄生(感染)したり、病気を引き起こしたり、直接的な毒性を持ったりすることはないとされています。
先ほど「宿主特異性」の話をしましたが、それは植物間だけの話ではありません。植物に寄生するように進化したうどんこ病菌と、例えば人間の皮膚病(水虫など)の原因となるカビや、呼吸器系で問題を起こすカビとは、まったく種類が違います。植物の生きた細胞からしか養分を奪えない菌は、人間の体(動物の細胞)では生きていけないんですね。
ですから、うどん粉病の植物に触れたからといって、病気がうつることはありません。もちろん、胞子を大量に吸い込むようなことは避けるべきですが、ガーデニング作業で触れる程度なら、過度に心配する必要はありません。
【注意】植物が作る「防御物質」とは?
ただし、注意点がひとつあります。直接的な菌の害とは別に、植物側の反応に注目する必要があります。
植物は病原菌に侵入されると、まるで人間が免疫で戦うように、自分を守るために「アルカロイド」や「ファイトアレキシン」といった抗菌物質(防御物質)を、通常よりも多く生産することがあります。
これらの物質は、菌だけでなく、人間に対しても苦味やえぐみ、場合によっては毒性を示す場合が理論上は考えられます。(例えば、ジャガイモの芽や緑色の皮に含まれる「ソラニン」も、植物が虫や菌から身を守るためのアルカロイドの一種です)
うどんこ病菌そのものよりも、病気と必死に戦っている「植物」が作り出す、こうした防御物質に注意が必要かもしれない、ということです。過度に心配する必要はありませんが、病気にかかった植物を手入れした後は、しっかり手を洗う習慣をつけると安心ですね。
感染した野菜は食べられる?

きゅうりやトマト、イチゴ、カボチャなど、収穫間近の大切な野菜や果物がうどん粉病にかかってしまった時、一番悩むのが「これ、食べても大丈夫?」ということだと思います。
これについても、菌自体に強い毒性があるという報告は一般的にありません。そのため、症状がごく軽度(葉に少しついているだけで、果実自体はキレイな場合)であれば、よーく洗い流して食べることは不可能ではない、とされています。
安全と食味の観点からのアドバイス
正直なところ、編集部としては食べることをあまりおすすめしません。特に、果実や可食部(葉野菜など)に直接、白い粉がついている場合はなおさらです。理由は以下の通りです。
- 食味と食感が著しく悪いまず、何よりも美味しくありません。カビ(菌)が付着しているため、見た目が悪いのはもちろん、洗っても「カビ臭さ」が残ったり、口に入れた時に「ざらざらとした食感」を感じたりする可能性があります。
- アレルギーなどの可能性うどんこ病菌が直接の原因でなくても、カビ全般に対してアレルギー体質の方は、反応を引き起こす可能性がゼロとは言い切れません。
- 防御物質のリスク前述の通り、病気と戦っている野菜が、普段よりも多くの苦味やえぐみの元となる防御物質(アルカロイドなど)を生産している可能性があります。「いつもより苦い」と感じたら、それは植物のSOSサインかもしれません。
- 薬剤の問題もし病気対策で薬剤(農薬)を散布していた場合、その薬剤の「収穫前日数(使用禁止期間)」を守らないと、残留農薬を口にしてしまう危険性があります。
どうしても…という場合でも、ひどくかかった部分(白い粉がびっしりついている所)は必ず廃棄し、ごく軽度な部分を、流水でしっかり(ただし野菜を傷めないよう優しく)洗い流した上で、加熱調理するなどして、慎重に判断するようにしてください。
判断に迷う場合は、ご自身の健康を最優先に考え、残念ですが食べないようにすることを強く推奨します。
うどん粉病の効果的な対策と予防
うどん粉病の基礎知識と怖さが分かったところで、ここからは本題である「具体的な対策と予防法」を見ていきましょう。「もう発生してしまった場合」の対処法と、「これから発生させないため」の予防法、両方からしっかりアプローチすることが、うどん粉病を制する鍵となります!
うどん粉病は自然治癒する?
まず、とても大事なことをお伝えします。
うどん粉病は、残念ながら自然治癒しません。
人間のかぜのように、暖かくして寝ていたら体の免疫が勝って治る…ということは、植物の病気ではまず考えられません。なぜなら、うどんこ病菌は「活物寄生菌(かつぶつきせいきん)」といって、生きた植物の細胞から養分を吸い取って増え続けるからです。寄生された植物が枯れてしまえば菌も生きていけませんが、それまでの間、菌は増殖をやめません。
放置すれば、菌は養分を吸い尽くすまで増殖を続け、必ず病状は進行し、株は弱り、やがて枯死につながってしまいます。
よく「重曹や酢をスプレーしたら治った」という話を聞くかもしれませんが、あれは菌の活動が一時的に「抑制」されただけで、菌が「根絶」されたわけではないんですね。葉の表面の環境が菌にとって一時的に住みにくくなっただけで、スプレーの効果が切れれば、しぶとく生き残っていた菌が再び活動を始める可能性は十分にあります。
だからこそ、「早期発見・早期対処」が何よりも重要なんです。「そのうち治るかも」「雨が降れば流れるかも」という希望的観測は捨てて、見つけ次第、すぐに行動に移すことが被害を最小限に食い止める鍵となります。
家庭でできる予防のポイント
うどん粉病は、一度発生してしまうと根絶するのが本当に大変です。胞子が目に見えないだけで、あちこちに飛散しているからです。ですから、発生してから対処するよりも、発生させない環境づくり(=耕種的防除)が一番の対策であり、最も効果的なんです。家庭で簡単にできる予防のポイントをまとめました。
1. 風通しと日当たりを確保する(剪定)

これが一番重要かもしれません。うどんこ病菌は、空気がよどんでジメッとした「局所的多湿」が大好きです。日当たりが悪いと植物も弱りがちです。
- 剪定:葉や枝が混み合っている場所は、思い切って剪定し、株の内部まで風と光が通るようにしましょう。特に株元の古い葉、地面に接している葉、内側に向かって伸びている不要な枝(内向枝)、重なり合っている枝(交差枝)は、病気の発生源になりやすいため、早めに取り除きます。
- 適切な株間:植え付けの段階で、株と株の間隔(株間)を適切にあける(密植を避ける)ことも大切です。苗が小さいとつい詰めて植えがちですが、成長した時の姿を想像して、ゆとりを持たせて植えましょう。
2. 肥料バランスを見直す(窒素過多に注意)
植物を元気にしようと与える肥料が、逆に病気を招くこともあります。特に注意したいのが「窒素(チッソ)」成分です。
- 窒素の役割:窒素(N)は「葉肥え」とも呼ばれ、葉や茎を大きく成長させるために不可欠な成分です。
- 窒素過多の弊害:しかし、これが多すぎると、植物体は「徒長(とちょう)」と呼ばれる、間延びしたひょろひょろとした状態になったり、細胞壁が薄く柔らかい「軟弱徒長」の状態になったりします。これは、菌にとって「物理的に侵入しやすい!」「養分が豊富!」と喜ばれる状態です。
- 対策:肥料の袋に記載されている「N(窒素)-P(リン酸)-K(カリ)」のバランスを見て、窒素が突出していないか確認してみましょう。特にバラなどの花木やトマトなどの実をつける野菜は、花や実の成長を助ける「リン酸(P)」や、根や茎を丈夫にし、病気への抵抗力を高めると言われる「カリ(K)」もバランス良く含まれた肥料を選ぶことが大切です。
3. 圃場の衛生管理(被害残渣の徹底除去)

これは本当に、本当に重要です。地味な作業ですが、効果は絶大です。うどんこ病菌は、発病した葉や茎、落ち葉などの「被害残渣(ひがいざんさ)」で越冬します。
シーズン終わりや剪定時に、これらを「そのうち片付けよう」「土の肥やしになるかも」と庭や畑の隅に放置することは、翌年の感染源をわざわざ自分で用意し、菌に「冬のベッド」を提供しているようなものです。
収穫が終わった株や、病気にかかった落ち葉は、こまめに拾い集め、必ず圃場(庭や畑)の外に持ち出し、ビニール袋に入れて密閉して(胞子が飛び散らないように)廃棄するか、焼却処分(※自治体のルールに従ってください)しましょう。これを徹底するだけで、翌春の発生率(第一次伝染源の密度)を劇的に下げることができます。
4. 適切な水やりと土壌管理
ここも少しトリッキーなポイントです。「乾燥を好む」と聞くと水やりを控えたくなりますが、それは逆効果です。
- 水切れはNG:「水切れ」で株がしおれるような状態を繰り返すと、株は深刻なストレスを受けて弱り、かえって病気への抵抗力が落ちてしまいます。土の表面が乾いたら、鉢植えの場合は鉢底から流れ出るくらいたっぷりと、地植えの場合も株元にしっかり水やりをし、株を健康に保つことが基本です。
- 土壌の水はけ:ただし、水のやりすぎや、粘土質で水はけの悪い土壌は「根腐れ」の原因となり、これも株を弱らせる最大の要因の一つです。水はけの良い土で育てることが、病気にさせない第一歩です。
- 「葉水」の活用:うどんこ病菌は、胞子が葉に付着して発芽する際、「水(液体の水)」に弱いという特性があります。そのため、予防や発生のごく初期であれば、あえて霧吹きなどで葉に水をかける(葉水)ことで、胞子の発芽や活動を一時的に抑制できる場合があります。ただし、夕方に行うと葉が濡れたまま夜を迎え、別の病気(べと病など)を誘発する可能性があるので、やるなら風通しの良い「朝方」がおすすめです。
重曹や酢を使った安全な対策
「発生してしまったけど、小さなお子さんやペットがいるから、収穫間近の野菜だから、あまり化学農薬は使いたくない…」という方も多いと思います。そんな時、発生のごく初期であれば、家庭にあるもので菌の活動を「抑制」できる場合があります。
【知っておきたいこと】静菌剤 vs 殺菌剤
これから紹介する方法は、農薬取締法で登録された「農薬(殺菌剤)」ではありません。そのため、菌を積極的に殺す「殺菌剤(治療薬)」ではなく、あくまで菌の増殖を抑える「静菌剤(抑制剤)」に近いものです。葉の表面のpH(酸性・アルカリ性)を一時的に変えて、菌が住みにくい環境にするのが目的です。
効果は限定的で、持続性もありません。雨が降れば流れてしまいます。そのため、予防や、白い斑点がぽつぽつと出始めた「発生のごく初期段階」で試してみてください。すでに葉が真っ白になっているような状態では、残念ながらあまり効果が期待できません。
1. 重曹(炭酸水素ナトリウム)スプレー

食用の重曹(ベーキングソーダ、炭酸水素ナトリウム)を水に溶かしたスプレーです。重曹は弱アルカリ性ですので、葉の表面を弱アルカリ性に傾けることで、うどんこ病菌の増殖を抑える効果が期待できます。(うどんこ病菌は、中性~弱酸性を好むとされています)
- 作り方目安: 水1リットルに対し、重曹1g(1000倍希釈)。多くても2g(500倍希釈)まで。
- ポイント: 水に溶けにくいので、まず少量のぬるま湯で溶かしてから水と混ぜると良いです。また、これだけだと葉の表面で弾かれてしまうので、展着剤(園芸用のもの、または食器用洗剤を1〜2滴)を混ぜると、葉に液が広がりやすくなり効果が高まります。
2. 食酢(酢酸)スプレー
穀物酢や米酢などの食酢(醸造酢)も使えます。重曹とは逆に、葉の表面を酸性に傾けることで菌の増殖を抑制します。(菌は極端なpHを嫌います)
- 作り方目安: 水1リットルに対し、食酢20〜40ml(25〜50倍希釈)。
- ポイント: 酢は酸性が強いため、濃度には特に注意が必要です。こちらも展着剤代わりの食器用洗剤を数滴加えると効果的です。
(補足)木酢液
炭焼きの際に出る煙を冷やして液体にした「木酢液(もくさくえき)」も、オーガニックな対策として使われることがあります。これに含まれるフェノール類などの多様な成分が、病気の予防や、菌の活動を抑える効果が期待できるとされています。ただし、独特の燻製のような匂いがあり、希釈倍率(予防なら500〜1000倍、治療目的ならもう少し濃くする場合も)を間違えると薬害が出やすいので、使用には少し注意が必要です。
【薬害注意!】高濃度は絶対にNGです
重曹も酢も、食品だから安全と思いがちですが、植物にとっては「異物」です。濃度が高すぎると「薬害」といって、植物の細胞が破壊され、葉が焼けたり、縮れたり、シミができたりする原因になります。「濃い方が効くだろう」と多めに入れるのは絶対にやめてください。
- 必ず定められた希釈倍率の、薄い濃度から試してください。
- 散布する前に、まずは数枚の葉で「テスト散布」を行い、1〜2日様子を見て、葉に異常(変色や縮れ)が出ないか確認することをおすすめします。
- 日中の暑い時間帯(特に真夏)に散布すると、葉の上で水分が急速に蒸発して濃度が急激に高くなり、薬害が出やすくなります。散布は、日差しが和らぐ早朝か夕方に行ってください。(夕方に行う場合は、葉が濡れたまま夜を越さないよう、風通しが良い日を選びましょう)
牛乳スプレーの効果と使い方
重曹や酢と並んで、オーガニックな対策としてよく聞くのが「牛乳スプレー」ですね。これはpHを変えるのとは、また少し違ったアプローチです。
作り方と使い方
- 作り方: 牛乳(低脂肪乳や加工乳ではなく、普通の牛乳が良いとされます)と水を「1対1」の割合で混ぜます。
- 使い方: スプレーボトルで、うどん粉病が発生している場所(葉の表裏)に、したたるくらいたっぷりと散布します。
- 重要なポイント: 日差しの出ている(これから出る)午前中に散布することです。
期待される効果とメカニズム
はっきりとしたメカニズムは解明されていないようですが、いくつかの説があります。
- 紫外線との反応説: 牛乳に含まれるタンパク質や脂肪が、日光(紫外線)と反応することで、菌の活動を抑える物質(活性酸素など)が生成される、という説。
- 物理的な窒息説: 散布した牛乳が乾燥する際に、葉の表面に膜を張り、菌糸や胞子を物理的に覆って窒息させる、という説。
このため、効果を発揮するには「日光(紫外線)」と「乾燥」が必要と考えられており、雨の日や曇りの日、夜間に散布してもあまり効果が期待できないとされています。
【使用上の注意】腐敗と害虫のリスク
牛乳スプレーは、手軽な反面、大きなデメリットがあります。特にベランダや室内での使用は慎重になるべきです。
- 腐敗と悪臭: 最大のデメリットです。散布した牛乳(栄養豊富なタンパク質や脂肪)が、気温の上昇とともに腐敗し、強烈な悪臭を放つ原因になります。
- 害虫・別種のカビの誘発: 腐敗した牛乳は、アリやハエなどの害虫を呼び寄せたり、うどん粉病とは別のカビ(すす病など)の栄養源になったりする可能性があります。
私は以前、ベランダで試したことがありますが、数日後に漂う酸っぱいような臭いが気になってしまい、それ以来使っていません…。もし試す場合は、散布した日の夕方や翌日に、水でしっかり洗い流すなどの後処理が必要かもしれません。室内での使用は絶対におすすめしません。
効かない?薬のローテーション
「いろいろ試したけどダメだった」「もう手っW-E-E-A-T早く確実に治したい!」という時、やはり頼りになるのが、病気の防除専用に開発された化学農薬(殺菌剤)です。…しかし、「ラベルに書いてある通り、うどん粉病の薬を使っているのに、全然効かない!」という声も非常によく聞きます。
その最大の原因は、「薬剤耐性菌(やくざいたいせいきん)」の出現かもしれません。
薬剤耐性菌とは?
うどんこ病菌は、非常に世代交代が早い(条件が良ければ数日〜1週間で次の胞子を作る)ため、増殖の過程で「突然変異」が起こりやすい性質があります。
ここで、特定の「A」という薬(同じ作用性=攻撃方法の薬)を連続して使い続けるとどうなるでしょうか?
- 集団の中に、突然変異で「A」の薬が効かない菌(耐性菌)がたまたま1匹生まれます。
- 「A」の薬を散布します。
- 他の大多数の「A」が効く菌は全て死にますが、その「耐性菌」だけが生き残ります。
- 生き残った耐性菌は、ライバルが(薬剤のおかげで)いなくなった環境で、「A」の薬を浴びながら、独占的に増殖を始めます。
- 結果として、次に「A」の薬を撒いても、そこには「A」が効かない菌(耐性菌)だらけになっているため、全く効果がなくなるのです。
これが「薬が効かない」と感じる最も一般的なメカニズムです。
対策は「ローテーション散布」

この耐性菌の出現を防ぐために不可欠なのが、作用性(菌のどこを攻撃するか)が異なる殺菌剤を、順番に使う「ローテーション散布」です。
例えば、「A:細胞膜の合成を邪魔する薬」→「B:呼吸を邪魔する薬」→「C:細胞分裂を邪魔する薬」というように、攻撃方法が違う薬を順番に使えば、たまたま「A」の薬に耐性を持った菌が生き残っても、次の「B」の薬(違う攻撃方法)で叩くことができる、というわけです。
主要な薬剤の系統とローテーション
薬を選ぶときは、商品名(「○○病に効く」という名前)だけでなく、裏のラベルに小さく書いてある「有効成分」や「作用性の分類(グループ名、FRACコードなど)」を意識することが大切です。
うどん粉病防除のキモは「ローテーション」
(これはあくまで家庭園芸で使われる薬剤の系統の一例です。必ずお持ちの薬剤のラベルを確認してください)
| 系統(作用機序グループ) | 主な薬剤例(商品名) | 特徴(予防/治療) |
|---|---|---|
| EBI剤 (DMI)
(菌の細胞膜合成を阻害) |
STサプロール乳剤, ラリー水和剤, トリフミン水和剤, マネージ乳剤 など | 治療・予防(浸透移行性※)
耐性菌が出やすいグループ |
| QoI剤
(菌の呼吸を阻害) |
アミスター20フロアブル, ストロビーフロアブル など | 治療・予防(広範囲)
耐性菌が出やすいグループ |
| SDHI剤
(菌の呼吸を阻害 – QoIと別) |
パンチョTF顆粒水和剤, カナメフロアブル など | 治療・予防(効果が高い)
耐性菌が出やすいグループ |
| 保護殺菌剤(接触型)
(複数の作用点で阻害) |
ダコニール1000, オーソサイド水和剤, STダコニール1000 など | 予防(菌の侵入を防ぐ)
耐性菌が出にくい |
| ベンゾイミダゾール系
(菌の細胞分裂を阻害) |
GFベンレート水和剤, トップジンM水和剤 など | 治療・予防
非常に耐性菌が出やすい |
※浸透移行性:葉の表面から内部に浸透し、ある程度移動する性質。すでに内部に侵入した菌にも効果が期待できる(治療効果)。
ローテーション例:
1回目:ダコニール1000(予防・耐性出にくい) → (発生確認)→ 2回目:STサプロール乳剤(治療・EBI剤) → (1週間後)→ 3回目:アミスター20フロアブル(治療・QoI剤) → (予防に戻る)→ 4回目:ダコニール1000(予防)…というように、「EBI剤」→「EBI剤」のような同じ系統の連用を避けることが重要です。
特に「ダコニール1000」のような保護殺菌剤は、菌の複数の箇所を(網で覆うように)攻撃するため耐性菌が出にくいとされており、ローテーションの軸(予防の基本)として組み込むのがおすすめです。
農薬使用時の絶対ルール(必ずお読みください)
薬剤(農薬)を使用する際は、ご自身の健康被害や、大切な植物への薬害を防ぐため、また環境への影響を最小限にするため、必ずラベルに記載された使用基準を厳守してください。
- 「対象作物」:その薬が登録されている植物(例:バラ、きゅうり、トマト)以外には使えません。
- 「使用時期」:特に野菜や果物の場合、「収穫○日前まで」という使用禁止期間が厳密に定められています。これを破ると残留農薬を口にする危険があります。
- 「希釈倍率」:濃すぎると薬害が、薄すぎると効果が出ません。必ず計量カップやスポイトで正確に薄めてください。
- 「使用回数」:そのシーズン中に、その作物に対して使える回数の上限が決められています。
これらの情報は、農薬取締法に基づき、多くの試験を経て安全性を確保するために定められています。(出典:農林水産省「農薬の基礎知識」)
ご自身の安全のためにも、正しい知識で適切に使用することが重要です。不安な点は、購入した販売店の専門員や、お近くの農業普及センターなどにご相談ください。
難防除うどん粉病の総合対策
最後に、うどん粉病対策の総まとめです。「難防除」と呼ばれるしつこいうどん粉病を防除する鍵は、どれか一つの方法に頼ることではありません。「治療(薬)」と「予防(環境改善)」の二刀流で、物理的・化学的・耕種的あらゆる手段を使って、菌の居場所を徹底的になくす「総合対策」こそが最も重要です。
1. 物理的対処(感染源の除去)

これが全てのスタートです。感染の拡大を防ぐため、見つけ次第すぐに行動します。
初期症状(ぽつぽつ)を見つけたら、すぐにその葉を剪定ばさみで切除します。中程度なら葉だけを、枝全体が真っ白ならその枝ごと切り取ります。
ここで最も大事なのは、切った葉をその場に捨てないこと! 白い粉(胞子)を撒き散らしながら地面に落ち、そこが新たな感染源・越冬場所になります。必ずビニール袋などで密閉して(胞子が飛び散らないように)、圃場から持ち出し廃棄してください。剪定に使ったハサミも、菌が付着している可能性があるので、アルコールスプレーや熱湯で消毒すると万全です。
2. 化学的対処(薬剤散布)
物理的に目に見える感染源を除去した上で、まだ目に見えない潜伏中の菌や、周囲に飛散した胞子を叩くために薬剤を散布します。
- タイミング:物理的除去を行った直後、発生初期(見つけ次第すぐ)。まん延して株が弱ってからでは、薬の効果も半減します。
- 頻度:発生初期には、1週間〜10日おきに、2〜3回連続して散布します。(薬剤のラベルに記載された使用間隔を守ってください)
- ローテーション:前述の通り、散布するたびに、必ず作用性の異なる薬剤をローテーションで使います。
- 散布方法:特に症状が出やすい葉の裏側や、株元、新芽の先など、菌が隠れやすい場所にも薬剤が十分にかかるように、株全体が濡れるくらい丁寧に散布しましょう。
3. 根本的対処(環境改善)
薬剤散布と「同時に」行う必要があります。これができていないと、薬剤の効果が切れた瞬間に(だいたい1〜2週間で切れます)、また菌が好む環境で再発してしまいます。
- 剪定:薬剤散布の前に、まず混み合った枝葉を剪定し、薬剤が株の内部までしっかり届くようにします(風通し改善も兼ねる)。
- 施肥:窒素過多の肥料を見直し、株を軟弱に育てないように、バランスの取れた施肥を心がけます。
- 清掃:地面に落ちている病気の葉(被害残渣)を徹底的に掃除し、菌の越冬場所、再感染の温床をなくします。
薬剤だけに頼ってしまい、肝心の「風通し」や「肥料バランス」「残渣の処理」といった環境改善を怠ってしまうと、病気の蔓延スピードに薬剤の効果が追いつかず、「高い薬を使ったのに、またすぐ再発した…効かない!」と感じることになってしまいます。
うどん粉病は本当にしつこい病気ですが、これらの対策を「総合的」に、そして「根気強く」行うことで、必ず発生を抑えることができます。大切な植物を守るために、少し大変かもしれませんが、ぜひ一つ一つ試してみてくださいね。
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