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こんにちは。My Garden 編集部です。
丹精込めて育てたお気に入りの薔薇が、春の光を浴びて美しく咲き誇る姿を見ると、「この美しい花をもっとたくさん咲かせてみたい」「庭中をこの薔薇の香りで満たしたい」と願うことはありませんか。しかし、いざ薔薇の増やし方について調べてみると、専門的な用語が並んでいたり、繊細な技術が必要そうに見えたりして、「自分にはまだ早いかもしれない」と躊躇してしまう方も多いのではないでしょうか。
実は、植物の生理に合った正しい時期と、ちょっとしたコツさえ掴んでしまえば、園芸を始めたばかりの初心者の方でも、驚くほど簡単に薔薇を増やすことができるのです。この記事では、最もポピュラーで成功率の高い「挿し木」の手法を中心に、コップ一つでできる水挿しや、少し難易度の高い接ぎ木のメカニズムまで、それぞれの特徴を網羅的に解説します。失敗の原因を先回りして知ることで、自信を持って憧れのローズガーデン作りの第一歩を踏み出しましょう。
この記事のポイント
- 初心者でも失敗しにくい「挿し木」の具体的な手順と成功の秘訣
- 薔薇のライフサイクルに合わせた「緑枝挿し」と「休眠挿し」の使い分け
- 知らないと危険な「種苗法」のルールと家庭での楽しみ方の境界線
- 枯れてしまう原因を科学的に解明するトラブルシューティング
バラを増やす方法の全体像と注意点
具体的な作業に入る前に、まずは薔薇を増やすための選択肢にはどのようなものがあるのか、その全体像を整理しておきましょう。それぞれの方法には明確な目的と向き不向きがあります。また、ガーデニングを楽しむ私たちが必ず守らなければならない、法律上の重要なルールについても詳しく解説します。
4つの主要な増殖方法:概要と難易度比較

私たちがお気に入りの薔薇を増やしたいと考えたとき、園芸学的には大きく分けて4つのアプローチが存在します。それぞれ「挿し木(さしき)」「接ぎ木(つぎき)」「取り木(とりき)」「種まき(実生:みしょう)」と呼ばれる手法です。これらは単に作業工程が違うだけでなく、生まれてくる苗の性質や、成功させるための難易度が大きく異なります。
まず、最も一般的で、私たち家庭園芸家にとって一番身近な方法が「挿し木」です。これは剪定した枝や花瓶の切り花を土に挿して、自力で根を出させる(発根させる)方法です。親株の細胞をそのまま受け継ぐため、親と全く同じ花が咲く「クローン」を作ることができます。高価な道具を必要とせず、手軽に挑戦できるのが最大の魅力です。
一方で、バラ苗の生産者さんなどプロが主に行うのが「接ぎ木」です。これは、花は美しいけれど病気に弱い品種(穂木)を、野ばらのような強健な根を持つ品種(台木)に外科手術のようにくっつける技術です。丈夫で育ちの良い苗ができますが、高度な技術が必要です。
その他にも、枝を親株につなげたまま土や水苔で包んで発根を待つ「取り木」や、受粉させて種から育てる「種まき」があります。ただし、種まきは親とは異なる遺伝子の組み合わせになるため、親と同じ花が咲くとは限りません。「新しい品種を作りたい」という育種家向けのロマンあふれる方法と言えるでしょう。
それぞれの違いを比較表にまとめてみましたので、自分に合った方法を探してみてください。
| 増殖方法 | 難易度 | 親との同一性 | 主な目的 | 概要 |
|---|---|---|---|---|
| 挿し木 | 易しい | 同一(クローン) | お気に入りの株を手軽に増やす | 枝を土に挿して発根させる。初心者向け。 |
| 接ぎ木 | 難しい | 同一(クローン) | 台木の特性を利用し、強健な苗を作る | 台木に穂木を癒着させる。プロの技術。 |
| 取り木 | 中級 | 同一(クローン) | 挿し木が困難な品種を確実に増やす | 親株につないだまま枝から発根させる。 |
| 種まき | 非常に難しい | 異なる可能性 | 新しい品種を作出する(育種) | 種から育てる。遺伝的多様性が生じる。 |
この記事では、これらの中で最も手軽で、かつ私たちがお気に入りの薔薇をそのままの姿で増やせる「挿し木」について、特に重点的に解説していきます。
【重要】法的な注意点:種苗法と自家増殖

薔薇を増やす楽しみを実践する前に、必ず理解しておかなければならないのが「法律」との関係です。2021年4月に改正された「種苗法」により、開発者の権利(育成者権)が登録されている品種(登録品種)については、許可なく増殖することが制限されるようになりました。
「えっ、自宅の庭で増やすのも違法になってしまうの?」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。この法律には、私たち一般のガーデナーにとって非常に重要な「例外規定」が設けられています。
家庭菜園や趣味での利用はOK
農林水産省のガイドラインでも明記されている通り、「農業を営む者ではない個人が、家庭菜園や趣味の範囲で楽しむ目的」であれば、登録品種であっても許諾なく増殖(自家増殖)を行うことは法律上問題ありません。
(出典:農林水産省『種苗法の改正について』)
絶対に超えてはいけない一線
ただし、趣味で増やした苗であっても、それを「他人に譲渡(プレゼント)」したり、「販売(フリマアプリや道の駅など)」したりする行為は厳しく禁止されています。
「増えすぎてしまったから、近所のバラ友にお裾分けしよう」という善意の行動であっても、それが登録品種であれば種苗法違反となる可能性があります。自分で増やした苗は、絶対に自分の家の敷地内だけで楽しむ、というルールを厳守してください。
【最も手軽な方法】挿し木による増やし方:完全ステップガイド
ここからは実践編です。薔薇の増殖において最も基本的であり、かつ奥が深い「挿し木」について、その成功率を最大限に高めるための手順を詳述します。なんとなく土に挿すのではなく、「なぜそうするのか」という理由を知ることで、成功率は格段に上がります。
挿し木の最適な時期:「緑枝挿し」と「休眠挿し」

挿し木を成功させる最初の鍵は、タイミングです。薔薇の生理状態に合わせて、大きく分けて2つの適期が存在します。それぞれの特徴を理解して、ご自身のスケジュールに合う方法を選びましょう。
1. 緑枝挿し(りょくえだざし):初心者におすすめ
5月~7月頃の初夏、または9月頃に行う方法です。その春に伸びたばかりの、瑞々しい緑色の枝(新梢)を使用します。この時期、バラは成長期にあり細胞分裂が活発なため、発根までのスピードが非常に速い(早ければ2週間程度)のが最大の特徴です。
梅雨の時期に行えば、空中湿度が高いため葉からの水分蒸散が抑えられ、水管理が楽になるというメリットもあります。「早く結果が見たい」「初めてで不安」という方には、この緑枝挿しが最もおすすめです。
2. 休眠挿し(きゅうみんざし):じっくり派におすすめ
バラが葉を落とし、活動を停止している冬(1月~2月頃)に行う方法です。冬の剪定作業で切り落とした、充実した硬い枝を利用します。葉がないため、蒸散による水切れの心配がほとんどなく、管理自体は非常に簡単です。
ただし、植物が休眠しているため、春になって暖かくなるまで根が出ません。結果がわかるまで数ヶ月かかるため、気長に待てる方向けの手法と言えます。
初めて挑戦するなら、湿度が高くて枝が乾燥しにくい「梅雨時の緑枝挿し」が最も成功率が高くておすすめですよ。
準備する道具と用土

挿し木の成功は、段取り8割です。特に「土」と「刃物」の選び方は、成功率を左右する決定的な要因となります。
必須アイテム:清潔な用土
必ず肥料分の入っていない「挿し木・種まき用の土」を用意してください。通常の培養土に含まれる有機質や肥料分は、根のない挿し穂にとっては刺激が強すぎ、また雑菌の温床となりやすいため、切り口から腐敗する原因になります。赤玉土(小粒)や鹿沼土(小粒)、バーミキュライトなど、清潔で無菌の土を使うのが鉄則です。
もしご自身で配合される場合は、赤玉土(小粒)と鹿沼土(小粒)を1:1の割合で混ぜるのが基本ですが、市販の専用土を使うのが一番手軽で間違いありません。
必須アイテム:切れ味の良い刃物
カッターナイフや剪定ばさみは、消毒済みで、かつ「切れ味抜群」のものを用意してください。切れ味の悪いハサミで枝を切ると、切り口の組織(細胞)がつぶれてしまいます。つぶれた組織は水を吸い上げる導管を塞いでしまうだけでなく、そこから細胞壊死が始まり、腐敗の原因となります。スパッと切れる刃物を使うことは、バラへの最初の手術だと思ってください。
成功率を上げる秘密兵器
- 発根促進剤(ルートンなど):切り口に粉末をまぶすことで、植物ホルモンの働きを助け、発根を促します。
- 活力剤(メネデールなど):水あげの水に混ぜることで、挿し穂の活性を高めます。鉄分などのミネラルが切り口の保護にも役立ちます。
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挿し木の手順
それでは、最も成功しやすい「緑枝挿し」をモデルケースとして、具体的な手順をステップバイステップで解説します。
ステップ1:挿し穂(さしほ)を作る

その年に伸びた枝の中から、病気のない健康なものを選びます。目安は「鉛筆くらいの太さ(直径5mm以上)」があり、5枚葉が2セット以上ついている充実した枝です。これを長さ10cm程度に切り分けます。
葉からの水分蒸発(蒸散)を抑えるため、上部の葉を2枚程度残し、下の方の葉や蕾はすべて取り除いてしまいましょう。残した葉が大きい場合は、葉自体をハサミで半分にカットして蒸散面積を減らすテクニックもあります。
ステップ2:水あげ(吸水)

カットした挿し穂を、1~2時間ほど水を入れた容器に立てて吸水させます。この時、水の中で切り口をカッターで斜めにスパッと切り直すか、V字型に削ぎ落とす加工を行います。こうすることで断面積が広がり、水を吸い上げやすくなると同時に、発根する場所(カルス)が形成されやすくなります。また、水中で切ることで導管内に空気が入るのを防ぐ効果もあります。
ステップ3:土に挿す

ポットに用土を入れ、あらかじめ水をたっぷりとかけて湿らせておきます。ここで重要なのが、いきなり枝を土に突き刺さないことです。割り箸やピンセットを使って、土に下穴を開けておきましょう。その穴に挿し穂を優しく差し込み、指で周りの土を寄せて固定します。これは、切り口に塗った発根促進剤が取れてしまったり、切り口の組織が土との摩擦で傷ついたりするのを防ぐためです。
挿し木後の管理:発根から鉢上げまで
挿し木作業が終わったら、そこからが本当の勝負です。根が出るまでの数週間、いかに挿し穂にストレスを与えずに管理できるかが成否を分けます。
置き場所は、「直射日光の当たらない、風通しの良い明るい日陰」がベストです。直射日光は厳禁です。葉の温度が上がり、蒸散が加速してすぐに干からびてしまいます。
この時期の管理で最も重要なのは「水を切らさないこと」です。まだ根がない挿し穂は、自力で水を吸い上げる力が弱いため、土が乾くと即座に枯死につながります。土の表面が乾かないよう、こまめに観察して水やりを行ってください。
順調にいけば、2~3週間で切り口にカルス(癒傷組織)ができ、そこから白い根が伸び始めます。同時に、葉の付け根から新しい芽が動き出します。芽が動いてもすぐに根が出ているとは限らないので、焦らず見守りましょう。
鉢上げ(植え替え)後の育成
新芽が元気に伸び、ポットの底穴から白い根が見えるようになったら、発根成功の合図です。しかし、焦りは禁物です。そこからさらに1ヶ月ほど待ち、根鉢ができるくらい十分に根が張ってから、バラ用の培養土を入れた鉢に植え替え(鉢上げ)を行います。
重要:水やりルールの転換
鉢上げをして根が土に馴染んだ後は、これまでの管理方法を180度転換する必要があります。挿し木中は「常に湿らせる」のが正解でしたが、鉢上げ後は「土の表面が白く乾いてから、たっぷりと与える」というメリハリのある水やりに切り替えます。
いつまでも土が湿っていると、根が呼吸できずに酸欠を起こし、「根腐れ」で枯れてしまうからです。
また、鉢上げしたばかりの小さな苗に蕾がついた場合、心が痛むかもしれませんが、秋まではすべての蕾を摘み取ってください(摘蕾)。花を咲かせるエネルギーを、すべて「株を大きくすること」に使わせることで、冬越しできる体力をつけさせることができます。肥料も、根がしっかり張るまでは控えめにし、最初は薄めの液体肥料から始めると安心です。
挿し木の成功率を飛躍的に高めるコツと応用
基本の手順をマスターしたら、次はさらに成功率を高めるためのテクニックや、様々なシチュエーションでの応用方法を見ていきましょう。
成功率を上げるためのヒント

挿し木の失敗原因の大多数を占める「水切れ」。これを物理的に、かつ強力に防ぐ方法が「密閉挿し」です。
方法は非常にシンプルです。挿し木をした鉢に支柱を立て、その上から透明なビニール袋をすっぽりと被せてしまうのです。こうすることで、袋内部の湿度がほぼ100%に保たれ、葉からの水分蒸発が劇的に抑制されます。まるでICU(集中治療室)のような環境を作ることで、挿し穂は乾燥のストレスから解放され、発根に全エネルギーを注ぐことができます。
注意点:密閉挿しを行う場合は、絶対に直射日光に当てないでください。温室効果で袋の中が高温になり、挿し穂が蒸れて腐ってしまいます。必ず涼しい日陰で管理しましょう。
応用編:様々な素材からの挿し木
庭の剪定枝だけでなく、記念日にもらった花束のバラ(切り花)や、可愛いミニバラなど、様々な素材から挿し木に挑戦できます。
特に「切り花」の場合、流通や輸送の過程ですでに体力を消耗していることが多いため、スピード勝負になります。花を楽しんだ後ではなく、できるだけ新鮮なうちに茎を切り取り、メネデールなどの活力剤を併用して挿し木を行うのが成功の秘訣です。茎が細い品種やミニバラは比較的発根しやすいので、練習台としても最適です。
水挿し(水栽培)での発根方法

土を使わず、ガラス瓶などの水に入れて発根させる「水挿し」も人気です。根が伸びてくる様子を観察できるのが楽しい手法ですが、実は最大の難関は「土への植え替え」にあります。
水中で育った根(水根)は、土壌中で育つ根とは構造が異なり、非常にデリケートです。そのまま土に植えると、土壌環境に適応できず乾燥して枯れてしまうことがよくあります。
水挿し成功の裏技:中間管理期間
水挿しから土へ移行する際は、植え替え直後の1週間程度、あえて土を「常に湿った状態(過湿気味)」に保ちます。
通常のセオリーには反しますが、水根を乾燥から守りながら、徐々に土の環境に慣らし、新しい「土の根」が出るまでの時間を稼ぐのです。新芽が動き出し、株が安定したのを確認してから、通常の乾湿のある水やりに戻していきましょう。
挿し木の失敗例:原因と対策(トラブルシューティング)
「教科書通りにやったはずなのに枯れてしまった」という場合、そこには必ず科学的な原因があります。よくある失敗パターンを知り、次回への糧にしましょう。
- 茎の下の方から黒くなって腐る:これは「菌の侵入」か「組織の挫滅」が原因です。用土が古かったり、ハサミの切れ味が悪くて切り口が潰れていたりしませんでしたか?次回は道具と土を新品・清潔なものに変えてみてください。
- 葉が茶色くカサカサになって落ちる:典型的な「水切れ」の症状です。置き場所が風強すぎたり、直射日光が当たっていたりしませんか?密閉挿しを取り入れることで改善する可能性が高いです。
- いつまでも変化がなく、根が出ない:「適温」から外れている可能性があります。バラの発根適温は20~25℃前後です。寒すぎる、あるいは暑すぎる時期に行うと、植物の生理活性が低下して発根スイッチが入りません。
【上級者向け】接ぎ木・取り木・種まきの手法
最後に、挿し木よりもステップアップした技術や、特別な目的のために行われる増殖方法についても触れておきましょう。これらはバラ栽培の奥深さを知るための入り口でもあります。
【上級者向け】接ぎ木・取り木・種まきの手法
接ぎ木(つぎき):プロの技術
一般的に販売されているバラ苗のほとんどは、この接ぎ木で作られています。病気に弱いけれど花が美しい品種(穂木)を、病気に強く成長力旺盛な野生種(台木:主にノイバラ)に癒着させる方法です。台木が持つ強力な根のパワーを借りることで、本来なら弱くて育ちにくい品種でも元気に育てることができます。形成層と呼ばれる細胞分裂層をミクロン単位で合わせる技術が必要です。
取り木(とりき):確実性を求めて
挿し木ではどうしても根が出にくい難発根性の品種を増やす場合に使われます。親株の枝の樹皮を環状に剥ぎ取り、そこを水苔などで包んで保湿します。親株から栄養と水分の供給を受け続けた状態で発根を待つため、枝が枯れるリスクが極めて低いのが特徴です。十分に根が出てから切り離して独立させます。
種まき(実生):新品種の作出
これは既存のバラを増やす(コピーする)こととは全く異なる目的、すなわち「育種(ブリーディング)」のために行われます。バラの遺伝子は非常に複雑で、親株から採れた種を蒔いても、親と同じ花は咲きません。その代わり、世界に一つだけの、誰も見たことのない新しい花が咲く可能性があります。「自分だけのバラ」を生み出す、究極の楽しみ方と言えるでしょう。
バラの増やし方ガイド、いかがでしたでしょうか。最初は難しく感じるかもしれませんが、まずは小さな枝を一本、土に挿してみるところから始めてみてください。その枝から小さな根が出て、新芽が展開し、やがて蕾をつける過程を見守ることは、何にも代えがたい喜びです。正しい知識と少しの愛情で、あなたのガーデニングライフがより豊かに花開くことを願っています。
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